台詞とストーリーを完全に排したかなり挑戦的な映画。ドキュメンタリーでもフィクションでもない何だこれは。パトリス・ルコント監督の長年の夢の実現、それが『ドゴラ』である。
ルコントの作品群は“感情”という大きなテーマが全体を貫通しているが、中でも『ドゴラ』は感情を直接揺さぶろうとする挑戦作である。
楽曲はフランスの作曲家エティエンヌ・ペルションによるもので、映画のタイトルはその曲名からとっている。
その曲への感動を胸に秘めたルコントは、ある日カンボジアを訪れた。そしてその風景とそこに生きる人の生命力に圧倒され、この感動を映画にしたいと思ったのがこの映画を撮るきっかけになったらしい。
楽曲「Dogora」はもともと25分ほどの合唱曲だったのだが、ルコントはペルションに編曲を依頼。75分の長さになった音楽にカンボジアの映像を入れ込んで完成したのが映画『Dogora』である。
合唱で歌われている歌は既存の言語ではなく、新しく作り出されたものだという。
- 製作:2004年,フランス
- 日本公開:2006年8月6日
- 上映時間:75分
- 原題:『Dogora』
予告
感想・批評
これは伝わらない
ずっとこういう映画を撮りたかったんだ。10年前にはその勇気がなかったが、今なら可能だった。私の心の鼓動にもっとも近い、そしてもっともシンプルな作品を撮ることができて、とても満足している
―パトリス・ルコント監督インタビューより
台詞もストーリーすらもない音楽と映像のみの映画、っていうかもうこれミュージッククリップやんけ!!と思いながら見始めた手前一応最後までは見た。
ルコントがどれだけカンボジアの風景と人のエネルギーに圧倒されたのかが良く分かる映画だった。
楽曲にあわせた映像の展開や人の表情とか、カメラの揺れなどの撮影手法や、構図に対するこだわりはすごく伝わってくるので、映像を作る人には学ぶところもあるだろう。
思うところがないではないが、ルコントがこの映画に向けた情熱分の感動は伝わってこなかったなぁ。というよりこれは伝わるまいて・・・。
この映画に心から感動できる人の感受性に素直に感服する。
ちょっと皮肉っぽくなってしまったが、そんな意図はまるでないのであしからず。
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感情と物語
映画は「感情に直接訴えかける様な映画を撮ることが長年の夢だった」というルコントの手記から始まる。
ルコントが意図したこと、やりたかったことはぼんやり分からないではないけれど、そもそも僕は人間の感情というのは物語ありきだと思っている。
それは単純な脚本だけではなくて、その人が生きてきた人生や映画を見る環境とか、そういったものを全部ひっくるめてのそれだ。
例えば、ツバメが巣を作っているのを見たとして、遥か南の地からやってきたことに思いを馳せることで、初めてそこに感情が生まれる。
音楽や絵画にはない物語のすばらしいところは、馳せるべき思いをそれそのものから示唆できることである。それを全く排除してしまった本作はやっぱりものすごい分かり辛い。
ハードルを越えて未体験の感動を味わいたいという人は、リスクをとって手にとって見る価値があるとは思う。あるいはオーケストラ演奏のバックに大スクリーンで流したりとか、最高の音響環境で見てみるとまた違うのかもしれない。
体験という意味ではなかなか見れない類の作品であることには違いはないけれど、僕が『パトリス・ルコントのドゴラ』に感動するには物語が足りなさ過ぎた。