映画を観る前に知っておきたいこと

【エリザベス 神なき遺伝子】映画で描いてはいけない禁断の領域

投稿日:2015年12月12日 更新日:

映画が描いてはいけない領域は、あるー

ヒトクローンというタブーに踏む込んだマッドバイオロジック・ホラー。

クローン技術によって新生児「エリザベス」を生み出した遺伝子科学者のビクター・リード博士は、投薬や様々な実験を繰り返していく。歯止めの利かない好奇心は、倫理観をも揺るがしていく。さらに「エリザベス」誕生の裏で失敗に終わった「不完全体」の存在が世間に露見してしまったことから人類にとっての悪夢が始まる。禁断の技術に手を染めた科学者の運命は……

映画では描いてはいけない領域に踏み込んだ監督はビリー・セニース。また『ラスト・キャッスル』のジェレミー・チャイルズがビクター・リード博士を演じながら製作も兼任した。

カナダ・モントリオールで開催された2014年ファンタジア国際映画祭脚本賞受賞作品。ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち 2016」上映作品。

予告

あらすじ

遺伝子科学者のヴィクター・リード博士(ジェレミー・チャイルズ)は、長年に渡ってヒトクローンの技術を研究し続けていた。そしてついに世界初の人間のクローンの創出に成功。生まれた新生児は「エリザベス」と名付けられた。エリザベス 神なき遺伝子

「生物の進化は神の領域なのだろうか?今や神に頼らず進化する術を得た。」

そこからリード博士はエリザベスを使って様々なテストを試みる。投薬などの実験を繰り返すうちにリード博士の好奇心は歯止めを失ってしまう。そして「科学は神である」と言い切ってしまうリード博士は神に弓引く禁断の技術に没頭していく。それは科学者にとって最も甘美な誘惑だった……エリザベス 神なき遺伝子しかし、エリザベス誕生の裏には数々の実験の失敗が葬られていた。この実験に対して倫理的、宗教的論争が巻き起こり、リード博士の自宅の外ではクローン技術の研究に抗議する人々が声を上げていた。エリザベス 神なき遺伝子ある時、エリザベスの額に謎の受容体があることがわかる写真が世間に拡散されてしまう。そして実験失敗によって生まれた「不完全体」の存在が世間に露見することに。エリザベス誕生の秘密が明るみに出た時、人類の見る究極の悪夢が始まるのだった……

映画を観る前に知っておきたいこと

映画の評価はさておき、「映画が描いてはいけない領域は、ある」というキャッチコピーに偽りはありません。単純にホラー映画として観るか、ヒトクローンに焦点を当てて観るかで受け手の印象が変わってくる映画だと思います。

ホラー映画の娯楽性と、ヒトクローンに対する問題提起を同時に感じ取れるとベストかもしれません。

クローン技術は夢のような技術ではない

これまでこのクローン技術を題材にした映画は多く撮られている。『スーパーマンIV/最強の敵』(87)『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(02)『アイランド』(05)などこのテーマに関連した映画を挙げればきりがない。その作品の多くはSFである。これはクローン技術を夢の技術として捉えているひとつの証でもある。

しかし、実際のクローン技術は多くの問題を抱えている。特に他の動物のクローンと違い意志を持つヒトクローンに関しては、人間の存在自体を否定しかねない恐ろしいものである。ヒトクローンの利用方法としてよく言われるのが、クローン兵士で軍隊を作ることや、権力者が病に伏した時の臓器のストックである。少し夢のある利用方法としては優秀な選手だけを揃えたスポーツチームを作ることだ。

これらは一見便利に思えるが、すべて人権を無視した考え方を根本としている。いくらクローンと言えどその一人一人が人間である。彼らには個人の考えもあれば、もちろん死ぬことに対しての恐怖もある。

優秀な選手だけを揃えたスポーツチームを作るにしても、クローンにはスポーツを選ぶ権利はない。その時点で彼らは人生の選択を奪われてしまっている。そうした理由から倫理的な観点で国際的にヒトクローンを作ることは反対されている。宗教的に反対意見があるのはやはり神への冒涜ということだろう。

もし倫理的な観点からの反対がなかったとしても、誕生させた時から騙し続けるか、強制的に従わせるか、いずれにせよ火種を生むことに違いはない。人間と同じ感情を持つなら、憎しみの矛先はオリジナルに向くのが必然だ。クローン技術の現実は夢のような技術ではなく、そうした恐ろしい危険をはらんだものでもある。

ヒトクローンによる暗い側面を映し出すには、ホラー映画こそ最適かもしれない。もちろんホラー映画は非現実的な要素で構成されているのだが、恐怖を伝えるという点においてはSF映画以上だろう。ホラー映画は時折、社会派映画より強力なメッセージを発信するので感心させられる。個人的には人間が人間でなくなるような技術の進歩には何の意味もないと感じるので、こうした作品は歓迎である。

R指定もないので、もし機会があれば子供と一緒に恐怖するのもいいかもしれない。単純に怖いという感想を抱けば、それだけで価値があるのでは?

人間の果てしない欲望を垣間見ることで、現実の問題に触れるきっかけとなってくれる可能性はある。

クローン技術に対して否定的な内容になってしまったが、僕の想像力が及ばないだけで素晴らしい利用方法もあるのかもしれない。善悪の判断を抜きにすれば、もの凄い技術であることは疑う余地がない。

-ホラー, 洋画
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執筆者:


  1. 匿名 より:

    文章はすごい迫力。でも映画はまったくつまらなかった。

  2. 今川 幸緒 より:

    ホラー映画でこのテーマを扱うことには肯定的なのですが……

  3. 名無し より:

    はじめまして。通りがかりに失礼します。

    言い方は悪いですが、ヒトクローンが「大量生産」された後のことを描いた映画しか見たことがなかったため、大変興味深い映画でした。
    ホラーだからこそ、「失敗作」に焦点を当てることが出来たのだろうと思います。
    見始めは「ホラー」というカテゴライズは何かの誤りかと思って見ていたのですが、しっかりホラーでしたね。
    ゴア描写だけがホラーじゃないって感じですね。

    ただ、iPS細胞がある今、時代背景はもう少しなんとかならなかったのかと。
    映画全体はいつの時代か分かりにくい雰囲気ですが、スマホ使ってますしね。
    撮影にしてもメールにしても、違う機器だったら、もっと怖かったろうと思います。

    普段、映画の感想等のブログはたださらっと読むだけなんですが、パット見「面白かった」という意見がこちらだけで意外だったため、ちょっとコメントさせていただきました。
    子供にも見せたいというのも、その子の成長具合をしっかり見てからですけど、わかります。

    この映画は色んな人に見てもらいたいですね。
    賛否両論でしょうが。

    それでは失礼します。

  4. 今川 幸緒 より:

    コメントありがとうございます。

    >ホラーだからこそ、「失敗作」に焦点を当てることが出来た

    その視点大好きです。
    時代背景など曖昧なのもホラー映画らしいと言えばらしいですが。
    その辺りのディテールの甘さも評価が低くなる要因かもしれないですね。

    うちの息子がホラー好きなもので、ついつい子供と一緒にと書いてしまいました。
    子供の成長具合は重要です。

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