映画を観る前に知っておきたいこと

エヴォリューション
これは道徳を超えた美しい悪夢

投稿日:2016年11月8日 更新日:

エヴォリューション

そこはユートピアか、ディストピアか。

とある島、少年だけに施される奇妙な医療行為。まるで悪夢のような禁断のダークファンタジー。

秘密の園の少女たちの世界を描いた『エコール』から10年。ルシール・アザリロヴィック監督が再び描く、少年と女性しかいない秘密の園。それは、原始的な感情を呼び覚ます圧倒的な映像美で描く、倫理や道徳を超えた81分間の美しい“悪夢”。

2015年サン・セバスチャン国際映画祭審査員特別賞&最優秀撮影賞受賞作品。

予告

あらすじ

少年と女性しかいない、人里離れた島に母親と暮らす10歳の二コラ。その島ではすべての少年が奇妙な医療行為の対象となっている。

エヴォリューション

© LES FILMS DU WORSO・ NOODLES PRODUCTION 2015

「なにかがおかしい」と異変に気付き始めた二コラは、夜半に出かける母親の後をつけた。そこで二コラが目撃したのは、母親がほかの女性たちと海辺でするある行為……秘密を探ろうとしたのが悪夢のはじまりだった……

映画を観る前に知っておきたいこと

この映画を端的に表現するなら、“フランス製ホラー”だ。観客の原始的な感情を揺さぶるくせに、すべてを語ってくれるわけではない。このルシール・アザリロヴィック監督らしいやり口は、ハリウッドの絶叫ものより、よっぽど恐ろしい。

代表作『エコール』に続き、再び彼女を評価したのはサン・セバスチャン国際映画祭だった。スペインで毎年開催されるこの映画祭は、国際映画製作者連盟(FIAPF)公認の歴史ある国際映画祭だが、ここで上映されるのは“近年に製作され、他の映画祭で公開されていない映画”なのだ。

これだけで、普通のホラー映画ではないことがうかがえる。

ルシール・アザリロヴィックらしいホラー

この映画にあるのは、人間の原始的な感情である“畏れ”、映像美、ファンタジーである。まさに美しい“悪夢”。

ルシール・アザリロヴィックは、2004年の『エコール』がサン・セバスチャン国際映画祭で高く評価され、最優秀新人監督賞を獲得したフランスの女性監督である。

深い森の中にある閉鎖的な学校“エコール”、そこにいる少女たちの外界への憧れを描いた美の寓話。しかし、アザリロヴィック監督の暗喩によってそこに映されたのは、決して無垢なだけではない少女の欲望だった。

本作でも描かれるイノセントと秘密の園、そして映画を包む不穏な空気は、『エコール』で見せた世界観そのものだ。

さらに寓話性を取り払った本作では、『エコール』以上に、僕たちの中にある“畏れ”という感情を掻立ててくる。

また、この映画に隠された“秘密”のキーである“エヴォリューション(進化)”というタイトルが、観客までその閉鎖的な世界に引き込んでくる。

暗喩を得意とするアザリロヴィック監督は決して多くを語らない。映画が進むにつれ、自然と湧き上がってくる「この物語は、未来のものなのか?」という観客の疑問を置き去りにすることで、僕たちまであのおかしな島に閉じ込めようとするのだ。

気が付けば観客は、その映像美すら、不穏なものに感じはじめる……

-ホラー, 洋画
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