映画を観る前に知っておきたいこと

サイの季節 政府に死んだことにされ、愛する妻と引き裂かれた実在の詩人の物語

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サイの季節

実在のイラン人詩人、サデッグ・キャマンガールの実体験をもとに描かれたヒューマンドラマ。ある企みによって死んだことにされた詩人と愛する人と引き裂かれた女、欲情に囚われた男、3人の30年間の愛憎の果て。

トロント、サン・セバスチャン、釜山、東京フィルメックス等の、数々の国際映画祭で受賞を重ね、あのマーティン・スコセッシが心酔したという謳い文句でも話題になっている一本だ。監督は同じくイラン人、バフマン・ゴバディ。イラン政府の許可無く撮影した『ペルシャ猫を誰も知らない』(09)の公開以来、亡命を続けて、トルコで撮影された。イランでは伝説と称される俳優ベヘルーズ・ヴォスギーと、ハリウッドでも活躍するイタリアのモニカ・ベルッチが共演。

  • 製作:2012年,イラク・トルコ合作
  • 日本公開:2015年7月11日
  • 上映時間:93分
  • 原題:『Fasle kargadan』

予告

あらすじ

1979年、イラン・イスラム革命時、詩人サヘル(ベヘルーズ・ヴォスギー)はある男の企みによって「神を冒涜する詩を書いた罪」で不当に逮捕される。30年後、釈放された彼は、生き別れとなった最愛の妻ミナ(モニカ・ベルッチ)の行方を捜し始める。しかし、政府の嘘によってサヘルはすでに死んだことにされていた。
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一方、夫が死んだと聞かされて、30年間悲しみの中で暮らしていたミナのまわりにはある男の影がつきまとう。その男の名はアクバル(ユルマズ・エルドガン)。彼こそがサヘルの死を偽り、夫婦の間を引き裂いた張本人だった・・・。
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映画を見る前に知っておきたいこと

サデッグ・キャマンガール

彼はクルド系イラン人の著名な詩人だ。30年間の長い拘束生活は、彼の精神を破壊するには十分だった。拷問や虐待の日々の中、彼にとっては愛する妻ミナとの美しい思い出と、詩の描く幻の世界だけが心を繋ぎとめる手段だった。

釈放後の彼の支えは愛する妻を探すことだけ。だがそれは彼にとっては30年前の辛い記憶の再生となる。そしてアクバルの存在。これが実体験だというから、空いた口が塞がらない。

イラン政府による婚約者の拘束

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実は、バフマン・ゴバディ監督自身にも似たような実体験がある。

ロクサナ・サベリという人物を知っているだろうか。彼女はイラン系アメリカ人、フリーランスのジャーナリストでゴバディ監督の婚約者だ。実は、ロクサナは2009年イラン政府にスパイ容疑で逮捕された過去を持つ。ゴバディ監督はメディアに向けて彼女の無実を訴えた。その際、彼女との婚約も明らかになった。

ロクサナはアメリカとイランの2つの国で市民権を得ており、逮捕された後も市民として扱われると信じられていたが、当時のイランは二重国籍を認めてはいなかった。裁判では禁固8年の実刑判決が下されたが、上告後の再審では執行猶予2年の判決で釈放されている。

イラン政府強硬派が半ば強行的に彼女を有罪したがった理由は2つあると言われている。

  • イラク戦争時に逮捕されたイラン人の役人3人を開放するカードとして使えること
  • オバマ大統領の注目をイランの首都テヘランへ向けること

理由や経緯はどうあれ、ゴバディ監督にとっては「愛する人が無実の罪で政府に8年間もの長い間拘束されるかどうか」それだけが問題だ。その瀬戸際に立たされている間は、とても気が気ではなかっただろう。今回の『サイの季節』を撮ろうと思ったことと、無関係ではないように思う。
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愛する人と会えない苦しみ

こういったテーマを扱った映画は数多くある。その代表といえるのがシェイクスピアによる戯曲、ロミオとジュリエットだろう。この作品が他の作品と大きく違う視点を持つとすれば、それは実体験をもとにしているということ。

主人公の詩人、サデッグ・キャマンガールの実体験とゴバディ監督自身の実体験がもとになっている。感情を移入する以上のリアリティがそこにはある。

-ヒューマンドラマ, 洋画

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