世界最高峰の自転車ロードレースにして、最も過酷なスポーツとも言われるツール・ド・フランス。25歳でがんを克服し、前人未到の7連覇を達成し、伝説となった男ランス・アームストロング。彼は英雄か?それともただのペテン師か?
偉業を達成した男に向けられた疑惑の目。2012年、USADA(全米アンチドーピング機関)は正式にドーピング違反であるとの判定を下した。これによりアームストロングはタイトル剥奪、自転車競技からの永久追放となった。
アームストロングのドーピング疑惑を追い続けたサンデー・タイムズ紙記者であるデヴィッド・ウォルシュのノンフィクションを基に描かれる衝撃の実話。
- 製作:2015年,イギリス・フランス合作
- 日本公開:2016年7月2日
- 上映時間:103分
- 原題:『The Program』
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 ツール・ド・フランスとは?
- 3.2 事件が世界に与える影響
予告
あらすじ
1993年に自転車ロードレースの最高峰とされるツール・ド・フランスにデビューした若きアメリカ人、ランス・アームストロングは強靭な精神と勝利に対する執念を持っていた。1996年、彼は世界ランク1位の活躍を見せながらも、医師から重度の精巣がんに冒され、すでに肺と脳にも転移していると宣告される。生存確率は50%……
絶望の淵に立たされたアームストロングは過酷な大手術とリハビリを決意する。そして、競技生活に復帰しチャンピオンに返り咲くため、スポーツ医学の権威であるイタリア人医師ミケーレ・フェラーリの指導を仰ぐことに。フェラーリはサイクリストのパフォーマンスを向上させる独自のプログラムの実践者だった。
アームストロングは復活を懸けて挑んだ1999年のツール・ド・フランスで、驚異的な快走を披露して見事に優勝を果たす。しかし、かねてからアームストロングの才能を高く評価していたスポーツ・ジャーナリストであるデヴィッド・ウォルシュはこのセンセーショナルな復活劇に疑念を抱く。
上り坂が苦手だったアームストロングが、短期間のうちにこれほど飛躍的にスピードが上昇するようになったのは、あまりにも不自然ではないかと……
その後も彼は無敵の快進撃を続け、2005年のツール・ド・フランスで遂に前人未到の7連覇を達成する。しかし、その偉業の裏では巧妙にドーピング検査をすり抜けながら、ウォルシュの追及をかわし続けていた。
がんに冒されながら奇跡の復活を遂げたランス・アームストロング、彼は英雄か?それともただの……
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映画を見る前に知っておきたいこと
ツール・ド・フランスとは?
本作で扱われるランス・アームストロングのドーピング事件。日本でもニュースで流れたのを覚えている人もいるのではないか。しかし、世界的にはスポーツ界を揺るがす程のスキャンダルだった。
これは、日本では自転車ロードレースがあまりメジャーでないことと、ツール・ド・フランスの知名度が低いことに起因する。
ツール・ド・フランスは世界的に見れば、オリンピックやワールドカップに次ぐ人気を誇る。特に欧州では国民的な競技の一つとなっている。
100年以上続く歴史があり、全世界で20億人が視聴していると言われている。優勝賞金も45万ユーロ、日本円にして約5500万円だ。
実際どんなレースかと言うと、23日間掛けて距離3300km、高低差2000m以上の中で競われる本当に過酷なレースだ。
このツール・ド・フランスにおいて前人未到の7連覇という偉業を達成したランス・アームストロングは正真正銘のスーパースターだった。がんを克服してからの彼のサクセスストーリーは多くの人を感動させた。
しかし、それだけにドーピングというスキャンダルは反動が大きかった。一転、彼は偽物として、自転車競技全体の戦犯のような扱いとなった。
勝利への異常なまでの執念は、時に破滅を呼んでしまうようだ……
事件が世界に与える影響
嫌われ者になってしまったランス・アームストロングだが、僕は彼の存在意義はとても大きいと思っている。
ドーピングと言っても、注射を打ち込むだけでレースに勝てる訳はなく、そこにはたゆみない努力も必ずある。しかし、その苦労が報われるのは勝利しかないというのが競技の世界だ。それ故に、薬物に頼ってしまうのだろう。
これはどんなスポーツにおいても言えることで、ランス・アームストロングのスキャンダルはすべてのスポーツの薬物問題に一石を投じたはずだ。偉業を達成したスーパースターの彼でなければ、世間の関心がこんなに集まることも、ましてや映画化されることもなかっただろう。言い方は悪いが、必要悪となってしまった。
また、ツール・ド・フランスという競技の特性上、ドーピングの影響は尚更大きかったかもしれない。一般的にドーピングは、筋力増強というイメージが強いが、実際はその最大のメリットは回復力にあると言われる。
23日間という長いレースにおいて、この回復力は大きなアドバンテージを生むだろう。ファンにはショックだろうが、やはりランス・アームストロングの7連覇はドーピングなしでは達成できなかったと思う。
この事件が直接関係している訳ではないが、アメリカの総合格闘技UFCでもこの頃から急激に薬物検査が厳しくなった。ランス・アームストロングの薬物検査を行ったUSADA(全米アンチドーピング機関)が採用されるようになっている。
USADAは世界で有数のアンチ・ドーピング機関ではあるが、それだけに選手一人一人にUSADAの検査をするのは莫大なコストが掛かる。それでもスポーツにおいて最も重要なルールを守り、それを楽しむファンのために導入されたのだ。
こうした動きには少なからず、ランス・アームストロングのドーピング問題が役に立っていると思う。
格闘技が好きな僕からすれば、死ぬ危険性もある競技なので数あるスポーツの中でも最もドーピングが許されないと思っている。あながち大げさではなく、武器を持ってリングに上がっているようなものなのだ。そういう意味でランス・アームストロングは僕にとって必要悪となってしまった……
すべてのスポーツが公正であれることを願う。