映画を観る前に知っておきたいこと

【海にかかる霧】愛憎混沌の狂気のサスペンス

投稿日:2015年2月17日 更新日:

海にかかる霧

不況にあえぐ漁村。追い込まれた船長は危険な仕事に手を出した・・・。2001年に実際に起こった「テチャン号」の事件を元に製作された舞台「海霧(ヘム)」の映画化。人間の本質を暴き出す極上のサスペンス。2014年、本国韓国で大ヒット。名実ともに2014年の韓国映画を代表する一本。

  • 製作:2014年,韓国
  • 日本公開:2015年4月17日
  • 英題:『Haemoo』
  • 原作:舞台『海霧』
  • 上映時間:111分

予告

あらすじ

不況にあえぐ漁村。今日もチョンジン号は6人の乗組員を乗せ、一発逆転の大量を狙い出航する。しかし一向に漁がうまくいく気配はなかった。強い責任感から切羽詰った船長は、危険な仕事に手を染めてしまう。それは中国からの不法移民の密入国を手引きするという、闇ルートからの違法な仕事だった。

沖合いで密航船と合流し、密航者たちを乗り換えさせて陸へ運ぶ。簡単な仕事のはずだった。だが計画は、海上警察の調査、悪天候に阻まれ、思わぬ事態に陥っていく。
海にかかる霧

テチャン号事件の詳細

click ※ネタバレ
2001年9月25日、ある喫茶店で、ある契約がまとまりました。小型漁船の漁師Y氏と、73トン級底引き網漁船船長イ・バングン(43)による契約。密航者を中国船から乗り換えさせて麗水まで運ぶだけで100万ウォンという内容だったが、実際の仕事内容を知って一度は断った。しかし最終的に東シナ海での操業の帰りに、密入国者を乗せて3000万ウォンという金額を提示されて加担することとなる。イ船長は船員7人に100万ウォンづつを与えることを決めていた。

一方、10月1日に100トン級の中国漁船に乗って、漢族と朝鮮族の密航者たちが出発。ブローカーはコリアンドリームを夢見る彼らを「3年韓国で頑張れば、余生は保障されたようなもの」と甘い言葉でだまし、一人あたり65,000元(当時で約1000万ウォン)を支払わせている。当時の中国農村では少なくとも5年分の収入にあたる金額で、そんな額を持っているはずもない彼らのほとんどは、高利の借金をしていたという。

そして10月6日午前1時、2つの船は真っ暗な夜の海上で遭遇。密航者60人は大急ぎでテチャン号へと移された。乗り換えを終え、テチャン号はすぐに麗水へと向かう。しかしその翌日から、彼らの船は悲劇に襲われることとなる。

テチャン号はそもそも8人乗りの漁船。しかしその船には、密航者を含めると68名が乗っていた。海洋警察の取り締まりにより危機的状況に陥ったテチャン号は密航者たちを2つに分け、25人を魚を収蔵する船倉に、35人を水槽タンクに隠した。それにより、密閉された魚用の収蔵に押し込められた25人は窒息死してしまう。

水槽タンクの35人はかろうじて生き延びたが、生存者は後に「扉を開けるのがあと5分遅かったら死んでいただろう」と語っている。「となりのタンクから扉を開けてくれと懇願する声を聞いたが、船長は”見つかったら全員がおしまいだ”と言って無視したとも。
海にかかる霧

同10月7日の午後1時、船員たちが密航者たちに食事を与えようと扉を開けたところ25人の死亡を発見した。遺体をどうするかについて悩んだ船長は密入国責任者に相談、遺体を遺棄することを決定した。密航者たちにも手伝わせ、遺体を甲板にあげて布団で隠し、麗水への航路を急いだ。

翌10月8日午前3時30分過ぎに、テチャン号は麗水市に到着した。正体不明の5トン船舶に生存者35人を移し、再び麗水市の南10マイル沖へ向かい、同日午前6時、25名の遺体を海へと投げ捨てた。生存者35名は麗水市大径の船着場に下ろされ、そのうちの2名が食料をもとめ民家に立ち寄る。その民家の住民が警察に通報、事件が明るみに出ることとなった。イ船長ほか船員8名は、重過失致死と死体遺棄の罪状で逮捕された。

映画を見る前に知っておきたいこと

狂気と人間らしさ

事件だけを淡々と見れば、人を人とも思わないおぞましい殺人事件というように映る。その事件に”人間らしさ”を表現したのが、舞台「海霧」。それを原作に生まれたのがこの映画だ。

責任感が強いあまりに追い詰められ、道を誤っていく漁村の船長。海上という逃げ場のない舞台で疑心暗鬼に陥り、正気を失っていく船員達。純粋なあまり、船長の行為に疑問を持ち、想いをよせる密航者女性を守ろうとする青年。貧しい生活から抜け出そうと願う密航者達。事件に関わる登場人物はあまりにも狂気に満ちて、そしてあまりにも人間らしい。
この映画を観る者は、そんな人間の卑しさ、おぞましさ、愛おしさが、ごっちゃになって襲い来る混沌の渦中に投げ出されるだろう。

海にかかる霧

監督・キャスト

監督:シム・ソンボ

シム・ソンボ2003年に公開された、実際の事件を元にした戯曲『殺人の追憶』の映画脚本に関わっていた人物。今回が初の監督作品となる。

プロデューサー:ポン・ジュノ

ポン・ジュノ上記『殺人の追憶』(2003年)の他、『グエムル-漢江の怪物-』(2006年)を監督し、が韓国内で記録的なヒットを飛ばした名監督。本作品にはプロデューサーとして関わっている。右目は失明している。

キム・ヨンソク

キム・ヨンソク2008年にほとんどすべての映画祭に当たる主演男優賞6冠王という記録を立てた、名実共に韓国の国民的俳優。刑事役で人気を博したが、ジャンルに関わらずいろんな役に挑戦しており、年々円熟さを増していく実力派でもある。

パク・ユチョン

パク・ユチョン日本でも人気を誇ったアイドルグループ、東方神起の元メンバー。当時はミッキー・ユチョンの芸名で活動していた。好きな女性のタイプはキム・テヒとグウィネス・パルトロー。
虫がとても苦手。

ハン・イェリ

ハン・イェリ生後28ヶ月の頃から舞踏にのめり込んでいたという、文字通り生まれながらのダンサー。現在ではダンサーというよりも、女優としての肩書きのほうが有名。とある映画の記者会見中に、役の女性を思って泣いてしまうなど、感情豊かな一面を見せる。

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