ロシアの巨匠アレクセイ・ゲルマン監督が送る15年の製作期間を費やした遺作。ストルガツキー兄弟の小説を原作としたSF。白黒。
- 製作:2013年,ロシア
- 日本公開:2015年3月21日
- 原題:『Hard to Be a God』
- 上映時間:177分
Contents
予告
あらすじ
モラルの崩壊、善悪の彼岸
地球より800年ほど文明の遅れた惑星に、科学者など30人の調査団が派遣された。そこでは人間は未来から現れた神のように崇められていた。だが到着から20年が経過しても文化的発展は見られず、反動化が進んでいた。その原因は王国の首都アルカナルで行われていた、王権守護大臣ドン・レバの部下である灰色隊による知識人狩りであった。
知識人たちを守るため調査団の一員ルマータはアルカナルに潜入した。やがて国王とも交流するようになったルマータだが、皇太子の寝室で当直任務についているところを灰色隊に捕まってしまう。そして隊長クシス大佐はルマータに死刑を宣告する。
しかしそこへ現れた神聖軍団を率いたドン・レバはクシス大佐を撲殺する。ドン・レバの狙いは神聖軍団によって灰色隊を殲滅させ、自ら新たな政権を樹立しようというものだった。
映画を見る前に知っておきたいこと
時代に翻弄された監督アレクセイ・ゲルマン
1986年までアレクセイ・ゲルマンの撮った映画は上映すらされないこともあった。しかし、ペレストロイカによってロシア(ソ連)は社会主義から民主主義へと舵をきったことでゲルマンはいきなり名誉回復し、ペレストロイカの成果として紹介されるようになった。アレクセイ・ゲルマンは大衆に愛された男となり、1990年にはカンヌ国際映画祭で審査員の一人として、ロシア映画が賞を獲れるように死にものぐるいで闘っていた。しかし、その頃のロシア映画は低迷期であった。
「レンフィルム(サンクトペテルブルクにある名門映画スタジオ)は芸術組織から、巨大なオデッサのバザールの搬入口に変わってしまいました。映画は、恥知らずの輩どもの腐りきった芸術になってしまったのです。誰もシナリオのことについてなど話しませんでしたし、何についての映画を撮るのか興味を持つ人もいませんでした。いくら金をくれるか、みなこれだけを尋ねていたのです。」
これはゲルマンの言葉だが、大衆に愛された男の意思は汲まれず、ロシア映画に幻滅していった。
自由な創作こそが映画を芸術にする
ロシアという国の体制に翻弄され、権力に弾圧され、映画人として自由に生きられなかった男は最後に、とてつもなく自由に作品を生み出した。これは映画が本来持つ力そのもので、「神々のたそがれ」は自由を抑圧された反動から生まれた映画のように思える。
SF映画でありながら、戦争映画のように圧倒的な絵で死を描き、社会派映画のように権力者による蛮行でモラルを問い、モノクロフィルムからは美しい芸術性も感じさせる。ゲルマンはこんな誰も想像しなかったような映画に15年も費やしたのだ。
ロシア映画に幻滅し、ロシア映画を愛したゲルマンは遺作で、大衆に媚びることのない自由な創作が映画を娯楽から芸術へと押し上げることを再確認させてくれた気がする。
ゲルニカを鑑賞するようにSF映画を鑑賞しろというのか?
ーアレクセイ・ゲルマンに比べればタランティーノは、ただのディズニー映画だ。ー
これは予告編に出てくるアレクセイ・ゲルマンの評価だが、良くも悪くも的を得ている。それは「神々のたそがれ」がタランティーノが子供に見えるほど革新的で芸術的な作品であるが故、万人には評価されづらいからである。ただ映画ファンならこの作品を無視できない。賛否両論あると思うが、破壊力は凄まじい映画だ。
しかしこの映画、醸し出す雰囲気がピカソのゲルニカを思い起こさせる。こうした評価もそうだし、戦争による死の匂いも、大作であること、白黒、色々な部分がリンクする。
それにゲルニカという町はバスク地方の自治の象徴であるバスク議事堂とゲルニカの木があり、バスクの文化的伝統の中心地であり、歴代のビスカヤ領主がオークの木の前でフエロ(地域特別法)の遵守を誓ったことから、自由と独立の象徴だ。なんだか「神々のたそがれ」の首都アルカナルとも対比する。
これらは完全に僕が勝手に思ったことだが、ゲルニカを鑑賞するようにSF映画を鑑賞できるなんて、それだけで奇跡だ。
監督・キャスト
監督:アレクセイ・ユーリエヴィッチ・ゲルマン
高名な作家である父を持ち、レニングラード演劇・音楽・映画大学を卒業後、舞台監督を経て映画の世界に入る。代表作は「道中の点検」「わが友イワン・ラプシン」「フルスタリョフ、車を!」。また「道中の点検」は完成後15年間に渡り上映禁止とされ、「わが友イワン・ラプシン」は2年間上映が保留されるなど、権力からの弾圧を受け受難の時代を過ごした。ゴルバチョフ体制下のペレストロイカにより作品の公開が進み、ようやく世界からの注目を集めることになった。「フルスタリョフ、車を!」はカンヌ国際映画祭に出品され、日本でも紹介された。