誘拐されたIKEAの創業者カンプラードとIKEAに自分の店を潰された家具店主ハロルドの北欧珍道中を描いた奇妙なノルウェー製ロードムービー。
どこまでも自分勝手に逆恨みをするダークサイド・ハロルドと、謙虚を信条に世界的な成功を収めたライトサイド・カンプラードのコミカルで愛らしいやり取りが魅力のヒューマンドラマだ。
監督はノルウェーから様々な国際映画祭で賞をかっさらっていく国を代表する映画監督の一人、グンネル・ヴィケネ。主人公ハロルド役を演じるのは、ドラマ、舞台、映画と様々なメディアで活躍する国民的実力派俳優ビョルン・スンクェスト。
明日に不安を抱えて気持ちが裏返りそうな人に、ぜひおすすめしたい一本。
ノルウェー国際映画祭のアマンダ賞で最優秀主演男優賞と最優秀撮影賞を受賞。
- 製作:2014年,ノルウェー
- 日本公開:2016年4月16日
- 上映時間:88分
- 原題:『Her er Harold』
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Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 イングヴァル・カンプラード
- 3.2 逆恨みする人と謙虚な人
予告
あらすじ
ハロルドは、ノルウェーのとある街で妻のマルニィと共に小さな家具店を営んできた。何よりもクオリティにこだわり、家具に人生を捧げてきたのだ。
ところがある日、店の目の前に世界最大級の家具販売メーカーIKEAの北欧最大店舗がオープン。お客を取られ、40年以上も細々とやってきたハロルドの店は閉店に追い込まれる。
さらには、そのことがきっかけで最愛の妻を失い、ストレスによる神経症まで患ってしまう。
抑えきれない怒りを爆発させたハロルドは、IKEAの創業者であるイングヴァル・カンプラードへの復讐を決意。彼を誘拐するためにIKEAの第一号店があるスウェーデンのエルムフルトを目指す。
道中なぜか行動を共にすることになった孤独の少女エバを巻き込み、カプラードの誘拐に成功するものの・・・。
映画を見る前に知っておきたいこと
イングヴァル・カンプラード
一代にして世界的な家具販売メーカーIKEAの帝国を築き上げたインテリア界の傑物、イングヴァル・カンプラード。
IKEAを創設したのは1943年。カンプラードが17歳の時だ。「IKEA」は「Ingvar Kamprad(名前) Elmtaryd(故郷の農場) Agunnaryd(その農場があるスモーランド地方の村)」の頭文字をとって名付けられた。
もちろん創業当時からうなぎ上りだったわけではなく、競合との価格競争に苦しむ日々が続く。それを打開したのが、「展示場を設けて人々に実際に触れてもらう」というアイデアだ。
通信販売全盛だった時代にこのアイデアは画期的だった。話題が話題を呼び、人々は見て、触れて、満足して、納得のいく金額で良い物を手にすることが出来た。こうしてIKEAは急成長を遂げ、世界的な家具メーカーにまで上り詰めた。
このスタイルは現在では世界的なスタンダードになっている。
北欧の映画は、どれだけよく出来た作品でもなかなか日本にはやってこない。IKEAでなければ、この映画も日本で見られることはなかっただろう。カンプラード様様である。
カンプラードの人物像
実在する人物をフィクションに実名で登場させ、あまつさえ誘拐させてしまうという前代未聞のストーリーが話題を呼んだ本作。IKEAの大きな看板は、この映画の最大の宣伝材料になっている。
カンプラードという男は、実際のところどういう人物だったのだろうか。
彼が「ビジネス」と呼ばれる行為を始めたのは、5歳の頃だった。マッチ箱を安く大量に買い集め、金額を上乗せして売り歩く。やがてはクリスマスの装飾品、ボールペン、森で採った果実など、身の回りにあるものは全て彼の商品だった。
彼のビジネス哲学は徹底している。より良い物を、やり易く、より納得のいく形で、たくさんの人に。どこまでも献身的なこの姿勢こそが、IKEA全体のアイデンティティになっている。
彼の哲学が発揮されたのは、お客に対してだけではない。彼は従業員ひとりひとりを労い、愛したことでも有名な人物である。
「何よりも私は謙虚であることに最大の価値を置いている」
IKEA創業者イングヴァル・カンプラード
逆恨みする人と謙虚な人
そんな愛すべき大人物に向かって「お前のせいでウチの家具屋が潰れた」とあまつさえ誘拐してしまうとは、逆恨みもいい所である。
アイデアもなく、人としての尊厳も捨て、後ろ向きでどうしようもない人間ハロルド。しかし彼にも生活がある。人生がある。窮鼠は猫を噛むのである。
しかし、冷静に客観的に考えてみても、どうやら世界にはハロルドの側にいる人の方が多いように見える。上手くいかないのを社会のせいにして、反骨精神だけを無駄に一丁前に育てている人の、なんと多いことか。
そして僕もまた、どちらかというとハロルドの気持ちの方が分かる人間だ。そんなどうしようもないダメ人間と謙虚でもって大成功を収めた男のコントラストこそ、この映画の見所である。
『ハロルドが笑う その日まで』は、僕らの明日を救う一本になりえるかもしれない。