映画を観る前に知っておきたいこと

【バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)】感想:ユーモア(※にもかかわらず笑える)が世界を救う!

投稿日:2015年11月20日 更新日:

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

アカデミー作品賞をはじめ、今年の賞レースを文字通り総ナメにした映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。これは見なければなるまいということでレンタルで観賞。

賞レースの件も去ることながら、深みのあるドラマのようで実は何の意味もない笑える脚本と、観客をグイグイ引き込む撮影手法や演出も独特で、かなりのダークホース。これは注目されているだろうと。

日本には一番馴染みの深いアカデミー賞だし、正直『バードマン』ぐらいは余裕であるだろうと思って借りに行ったんだが、僕が足を運んだレンタル屋には一本だけ。しかも棚の一番上の隅っこも隅っこにチョコーンと。

サイトで普段扱ってるようなクソマニアックな作品群ならいざ知らず、一応アカデミーの今年の注目作品なのにこの扱い!!

映画業界ヤバない?

あらすじと映画を見る前に知っておきたいこと

映画のあらすじと基本情報はこちらからどうぞ。

感想

いやぁ、笑った笑った。ちょっと入り込んだと思ったらすぐ笑わされる忙しい映画だった。

幻想と現実の曖昧な境界とか、ただ分かり易いだけの価値のないハリウッド映画へのアンチテーゼとか、芸術と見世物の相対性とか、恋人や家族の愛憎劇とか、なんか色々深い難しいテーマをちょいちょい匂わして来るけど、そんなもん全部置き去りにして中途半端に笑いで投げっ放しにするところが最高。

アントニオ・サンチェスのドラム演奏のリズムだけで強制的にテンションを持っていかれるのも良かった。深いドラマを考えさせられる暇を与えられない、してやられた感がすごい。

メロディがあるとどうしても色がついてしまう。映像に合わせてただひたすらに感情を早回しさせられる感覚は新しかった。

これは劇場で見たかったなぁ・・・。下手したらもう二度とチャンスがないと思うとかなしい。

ラストシーンの解釈について

click ※ネタバレ

ラストシーンの解釈には色々と説があるようだが、僕はタイトルにヒントがあるのではないかと思う。

【バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)】はタイトル通り、バードマンか、奇跡か、それぞれの視点から観ることで劇中の台詞の解釈がまるで変わる映画だったのだ。

無知がもたらす予期せぬ奇跡の話

リーガンは“愛されている”ということに、とことん無知だった。故にただひたすらに愛されていると感じたかった男だ。

俳優として一代を築きながらも、時代の流れに取って代わられ、舞台に全てをかけて再起に望んでいる。

そして奇跡は起きた。自らの鼻を打ち抜いた舞台は大成功を収め、リーガンは俳優として再起を果たしたのだった!

そんな男にサラが最後に持ってきた花“ライラック”は、西洋の花言葉で「Pride」を意味する。花を受け取ったリーガンはライラックの香りを胸いっぱいに吸い込んでこう言った。

「鼻が利かない」

彼はバードマンに取り付かれたくだらないプライドを、高くなっていた鼻を打ち抜いて捨てた。

プライドにはもう囚われない。耳元で囁いて、俺の人生にクソを撒き散らす妄想はもういらない。そして自分の力で飛び立ったのだ!なんと、リーガンは本当にヒーローだったのか!!?

え、まじ!?最初からヒーローだったの!?

バードマンの話

別に戦う悪もいない、ただの一般ヒーロー。バードマンとして脚光を浴びているものの、彼は俳優として愛されたかった。

「お前の半分も才能ない男がブリキを着て大儲けしてる。俺たちは本物だ。そうだろ?」

だがリーガンはヒーローじゃなく、俳優として愛されたかった。レイモンド・カーヴァーにメッセージをもらった時から俳優になろうと決めていた。

だからバードマンとして脚光を浴びながらも、彼の心は満足することはなかった。

役者として成功したいと思ってはいるが、当然ヒーローであって役者ではないので無知すぎて何もうまくいかず。だが60をすぎたある日、それが奇跡的に大成功を収めるっていう話。

なので「バードマン “or” 無知がもたらす予期せぬ奇跡」という長ったらしいタイトルなのだ!と思う。

まぁ結局それが正しいのかどうかはよく分からないが、そんな風にあれこれ深読み出来るのがこの作品の面白いところ。

評価:ユーモアで共有される世界観

ラストシーンの解釈をはじめ、この映画にはほんとに色々と考えさせられる要素がたくさんある。

見る角度をちょっと変えるだけで、鬱屈としたメタファーがダイヤモンドみたいにチラチラと、ユーモアで輝くのが、この映画の一番面白いところだと思う。

いやごめんなさい。ダイヤモンドは言い過ぎだった。そんな綺麗な素敵な映画ではない。

ドラマ部分のほぼ全部が置き去りの中途半端でも楽しめるのは、ユーモアっていう一点で共有できているからではなかろうか。

ただ笑えるだけじゃなく、ユーモアでとなると本当に難しい。ジョークじゃなくてユーモアを主軸に観れるコメディはあんまり多くない。

この作品が「即興ジャズ」とか、そういう評価を受けるのはそういうことなんだろう。

総評:これを笑える人とは良い友達になれそう

映画の評価はというと、国内でも海外でも賛否両論が渦巻いていたりするのは意外だった。クッソ笑ったんだけどなぁ。

賞賛も批評も「わけのわからない映画」という評価は徹底して同じなことが物語っている通り、色々フワフワしてるし分かりにくい映画なのは確かだと思う。

笑えるかどうかっていうところも大きいのかな。笑えなければ何も面白くないと思う。

僕は好きな作品なんだが、あまり面白くなかったっていう意見の中には割りと賛同できたりもするものもある。

確かに、グッとくる瞬間というか、フワァーと持っていかれる、なんと言うか・・・映画らしい感覚というものはない。宣伝などで言われているような圧倒的なカタルシスは特に無く、僕にとってはただ見て笑って面白かったーっていう、いわゆる暇つぶしのコメディ映画だった。

強烈なメッセージに感じ入ることもないし、撮影賞とか演出の技術とかは作る側だげが語ってればそれで良い。観る方からすれば賞より体験が大事だし。

そう、体験って言う意味ではすごい良い体験だった。

単純に何か笑える映画ないかなーって人にはおすすめ!感動したいとか、人生について考えたいとか、何かカタルシスを求めてるような人にはあまりおすすめしない。

『人は芸術家になれない時に批評家になり、兵士になれない時に密告者になる』

ギュスターブ・フローベール

-コラム

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