映画を観る前に知っておきたいこと

【一献の系譜】理想の日本酒を追い求める杜氏

投稿日:2015年8月18日 更新日:

一献の系譜

国の名前が付くお酒「日本酒」、その造り手である“杜氏”と呼ばれる職人にスポットを当てたドキュメンタリー作品。石川県能登半島で古来より日本酒を造り続けてきた技能集団“能登杜氏”の中でも、現在の吟醸酒の礎を築いた“能登杜氏四天王”と呼ばれる4人と、彼ら全員を師とあおぐ現役トップの坂口幸夫杜氏と家修杜氏、その下に続く若手杜氏たち。

理想の一献を求め続ける彼らの系譜と、目に見えない菌と闘い続ける杜氏たちの姿を映し出す。その昔は酒を腐らせ自殺する者もいたというほど、本気の世界がそこにある。

監督は『ひとにぎりの塩』で同じく能登半島で塩づくりに励む人々をテーマにした石井かほり。篠原ともえがナレーションを務める。

  • 製作:2015年,日本
  • 日本公開:2015年9月26日
  • 上映時間:103分

予告

あらすじ

石川県能登半島で古来より日本酒を造り続けてきた技能集団“能登杜氏”たち。そんな彼らの夏は、漁業や農業に勤しみ、自然と共にある。そして農閑期の冬になると家族と離れ、出稼ぎとして酒を造る。そうした生活サイクルが“能登杜氏”たちの酒造りの始まりとなっている。一献の系譜その酒造りの中で最も重要な役割が“杜氏”。酒造りを管理し、蔵全体の行く末を左右するほどの責任が課せられる。それは選ばれた者にしかできない仕事であった。その昔は酒を腐らせ自殺する者もいたというほどである。一献の系譜そして、全国の“杜氏”の中でも、現在の吟醸酒の礎を築いた“能登杜氏四天王”と呼ばれる4人。彼らが残したものは後に続く後輩たちによって受け継がれていた。“能登杜氏四天王”全員を師とあおぐ現役トップの坂口幸夫杜氏と家修杜氏、その下に続く若手杜氏たち。その中には“能登杜氏”始まって以来、初の“女性杜氏”も。そんな彼女の姿や、大き過ぎる先輩たちの背中に追いつけずに焦る者も・・・

酒造りの世界を通じて「生きる道」が見えてくる。

一献の系譜

映画を見る前に知っておきたいこと

日本酒の歴史

日本酒の歴史は稲作とともに始まったと考えられている。ということは弥生時代にはすでに日本酒が造られていた。日本酒について最も古い書物は10世紀頃の「延喜式」で、その中に「造酒司」というお酒の造り方が書かれている。

室町時代中期、京都の市内では三百件もの造り酒屋があり幕府は酒屋からの税を重要な収入と考え、酒屋の発展を支援していた。この頃、“三段仕込み”や“火入れ”といった日本酒造りの特徴的な技術が僧坊酒(そうぼうしゅ)によって完成されたと伝えられている。

江戸時代初期までは1年間に計5回お酒を仕込んでいましたが、冬に仕込む「寒づくり」が良い事が明らかになり、低温長期発酵といった醸造条件上も重なり「寒づくり」が主流となった。この時代の高級酒なお酒は、1升(1.8リットル)当たりの値段が大工さんの日当に匹敵したと言われ、こうした背景もあって、江戸時代には技術もさることながら産業としても大きく発展していった。

明治後半には速醸法が開発され国立の醸造試験場が建てられ、日本酒造りには科学が必要不可欠の要素だということが日本に広く認識知られた。

昭和初期には技術革新が相次ぎ新型の精米機、酵母の培養など、業務に対する必要な計器機器類はすべて揃い、1升ビンも登場した。

現在では、さらに技術も進み優れた機械も開発されたが、機械でも真似できない複雑で高度な工程があり長年培ってきた“杜氏”の技とセンスが今もなお必要となっている。

1番最初のお酒

お酒の起源は“口噛み酒”と呼ばれるもので、中南米、アジアなど広い範囲で紀元前からあった。“口噛み酒”とは米、、アワ、ヒエ、トウモロコシなどの雑穀を噛んで吐き出したものに水を加えて造る。唾液中のアミラーゼでデンプンが糖化して甘くなり空気中に浮遊している野生酵母が落下し、アルコール発酵するという仕組みだ。実に原始的な造り方ではあるが、こんなに大昔からお酒が愛されていたかと思うと、そこに普遍的な人間の営みを感じる。

人間の温もりがある映画

大昔から存在するお酒、そして現在においても機械では真似できない複雑で高度な工程があり、人の手によってのみ生まれる味わいがある。これから先もお酒のない社会が訪れることはないだろう。

そう考えると“杜氏”という存在はこれから先も社会に必要な存在である。この映画にはそんな“杜氏”の苦悩が描かれており、僕は感謝したくなった。

おいしい日本酒が呑めることもそうだが、機械化が進み多くをパソコンで管理するような現代社会において、人の温もりに触れることに勇気づけられる。日々のデスクワークや機械相手の仕事に疲れた人、そして日本酒が好きな人にぜひ見てもらいたい。肩の力を抜いて見る映画ではないかもしれないが、肩が軽くなると思う。

-ドキュメンタリー, 邦画

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