映画を観る前に知っておきたいこと

イマジン 人の関係とは何かを教えてくれる

投稿日:2015年3月30日 更新日:

イマジン 映画 ポーランド

目の見えない男女二人のラブストーリー。愛とはお互いの共通の世界を発見して、育むこと。近年、ヨーロッパをはじめ世界各国で高い評価を受けているポーランド映画を代表する名作が、ついに日本で上映される。

  • 製作:2012年,ポーランド・ポルトガル・イギリス・フランス合作
  • 日本公開:2015年4月25日
  • 原題:『Imagine』
  • 上映時間:105分

予告

あらすじ

ポルトガルの首都リスボンにある、視覚障害者のための診療所。そこにひとりの男、イアンが現れる。彼は“反響定位” のインストラクター。“反響定位”を身に付ければ目が不自由でも視覚障害者用の白杖を使わずに外へ出て、自分を取り巻く環境を探求することもできる。盲目の子供たちにその技術を伝授するために、彼は診療所で働き始める。

イアンは生徒たちの好奇心を煽り、勇気づけ、ときには少々危険を伴う行為にも挑戦させた。最初は不信感を抱いていた生徒たちも、イアンの独創的な授業にだんだんと夢中になっていく。だが、診療所側は生徒たちの安全を第一に考え、イアンの授業を問題視するのだった。
imagine2イアンの部屋の隣には、外国からやって来たエヴァという女性が住んでいた。彼女もまた視覚障害を持っていて、自室に籠もり誰とも口をきかずにいた。だが次第にイアンに興味をひかれ、ときどき部屋を出て彼の授業の様子を探りにくるようになる。そうしているうちに、エヴァはイアンのノウハウを習得して自分も自由に動き回れるようになりたいと強く思うのだった。

そしてある日イアンとエヴァは、思い切って白杖なしで外へと出かけていく。迷路のようなリスボンの街角、路面電車やバイク、車の通過音、人々の足音、木々のざわめき。さまざまな音や匂いを楽しみながらたどり着いたバーのテラス席で、自家製ワインを楽しむふたり。イアンは、「この近くには港があり、そこに大型客船が出入りしているはずだ」とエヴァに語ってきかせる。
imagine3そんななか、イアンは診療所側から一方的に解雇通告をうける。これ以上彼の授業で生徒たちを危険にさらせないというのだ。残りたいと嘆願するイアンだが、彼の希望は受け入れられない。一方エヴァのほかにも、イアンの行動を興味深く見つめている生徒がいた。青年セラーノだ。彼はイアンを憧れの目で見ながらも、彼の語ることはすべて噓なのではないかという疑いも抱えていた。こうしてイアンがエヴァに話していた大型客船の存在を確かめに、セラーノとイアンは夜の街へと冒険に出かけていく。

やがてイアンが診療所を去る日が来る。ひとりさびしく街へ向かう彼。悲しみの表情に暮れる生徒たちを後にして、エヴァは目が見えないにも関わらず、一人でイアンを追いかけ外へ出ていく。果たしてふたりは出会うことができるのだろうか。そしてイアンの言う「船」は本当に存在するのだろうか・・・。
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映画を見る前に知っておきたいこと

悲しく複雑な歴史を持つ国ポーランド

 おそらく日本で一番有名なポーランド映画はカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『戦場のピアニスト』だと思うが、あの映画がポーランド映画だと知っている人は多くはないのでは。

ポーランドはドイツとロシアに挟まれ、ファシズムと社会主義に翻弄され、国土を分割され地図から消えたこともある不幸な歴史を持つ。ナチス治下ではあのアウシュビッツの悲劇に遭った国だ。首都ワルシャワでは罪のない女や子供が、花でも摘むかのように簡単に殺された。
 
そんな歴史もあり、ポーランド映画といえば反体制を主張する政治的な映画と思われている節もなくはない。確かにその通りでもあり、”ポーランド派”と呼ばれるヨーロッパで初となる反社会主義の芸術ムーヴメントも存在する。
 

ポーランド映画を形作る文化背景

ポーランド映画は特に難解だと言われている。歴史に翻弄され、検閲が恒常的に行われていた社会で、高度な表現を大衆の方で読み解くということが日常的に行われていたことがひとつ。もうひとつは、ポーランドの芸術に歴史文学が深く根付いているという点だ。このことから、ポーランド映画は極めて芸術的な評価を受けることが多い。
 
ポーランドは映画先進国である。ポーランドにはウッチ映画大学(48年創設)、カトヴィツェ映画大学(78年創設)、俳優を育成するワルシャワ演劇大学など多数の教育機関が存在し、その水準も高い。それはひとえに、国にとって映画の持つ役割がどれほど大きかったのかを示すものであり、芸術の力を感じさせられる事実だ。
 しかし1980以降の体制転換の折、ポーランド映画は長い低迷の時を迎えることとなる。組織の混乱による映画製作環境の悪化と、経済的困窮による予算不足が原因で。そして2000年代に入り、ポーランド映画は新しい時代を迎えようとしている。
 

妻に捧げられた『イマジン』

ポーランド映画は世代の声を大声で代弁するような歴史背景に強烈なメッセージを持つ作品が多いように思う。そんなポーランド映画の中にあり、目立たず、静かに、観客と親しげに対話をしようとする映画を作るのが本作『イマジン』の監督、アンジェイ・ヤキモフスキだ。
彼の映画は、日ごろの生活に誰もが見出す極めて個人的な哲学を込める。デビュー作『目を細めて』は時間とは何かを愛娘に説明するためだった。最新作のこの『イマジン』は”人間同士の関わりは共通世界の発見と創造に他ならない”ことを、妻に伝えるために撮った作品だ。

監督・キャスト

監督・アンジェイ・ヤキモフスキ

アンジェイ・ヤキモフスキ彼を成熟したアウトサイダーと表現している人がいた。この表現はまったく適当で、アンジェイ・ヤキモフスキがヨーロッパの名だたる映画祭で評価を得ているのは、他のポーランド映画にはない親しみやすさからかもしれない。彼の映画は日常の思い出や直感、感情を優しく織り上げる。アンジェイの作品はよく最上級のB級映画なんて矛盾した言い回しで絶賛されていたりするのも、親しみやすさに敬意を込めてのことだろう。ポーランド映画の歴史を切り開く人だと思う。

感想・評価まとめ

色彩豊かな映像美を褒める声もあるが、演出面では特に音に関する評価が高い。多彩な、繊細な、美しい、色彩豊かな、さまざまな表現を使って音響表現を絶賛するコメントをとにかくよく目にする。

見所は人間関係がシンプルに繊細に映し出されるドラマ。目が見えない盲目の登場人物たちが考えていること、感じていることに、想像以上にたくさんのことを感じさせられる人が多いようだ。友人のこと、恋人のこと、家族のこと、仲間のこと、社会のこと。共有することにその人が抱えるものが何であるかは関係ない。少し大げさかもしれないが、アンジェイ・ヤキモフスキが伝えようとした共通世界の発見と創造こそ、現代の人が探している「やさしさ」とは何か?という問いの答えなのかもしれない。


 
 

『パプーシャの黒い瞳』
ポーランド映画ファンに新作を待望されている監督、クシシュトフ・クラウゼの最新作。彼もまた、2000年以降のポーランド映画を語る上で、非常に重要な人物である。

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