映画を観る前に知っておきたいこと

インビテーション
じわじわと煽る独特の不快感

投稿日:2017年5月29日 更新日:

インビテーション

招待されたのは10人 不穏なパーティーが始まる

かつての妻から突然届けられた招待状。気まずさと違和感に覆われたパーティーには、恐るべき目的が隠されていた。

ファンタジー系作品(SF・ホラー・スリラー・サスペンス)を中心に扱う世界三大ファンタスティック映画祭の代表格、シッチェス・カタロニア国際映画祭でグランプリを受賞したシチュエーション・スリラー。『イーオン・フラックス』(05)の女性監督カリン・クサマが、じっくりと心理描写を絡めながら、不可解なパーティーを覆う不穏な空気を観る者に伝染させていく。

主人公ウィル役に『プロメテウス』(12)のローガン・マーシャル=グリーン。元妻イーデン役として『イントゥ・ザ・ウッズ』(14)のタミー・ブランチャードが共演する。

予告

あらすじ

息子を事故で失い、立ち直れないまま別れてしまったウィル(ローガン・マーシャル=グリーン)とイーデン(タミー・ブランチャード)。その後、イーデンは消息不明となり2年の歳月が流れた頃、ウィルのもとに彼女から突然パーティーの招待状が届く。気乗りしないウィルだったが、現在の恋人キーラと共にかつて自分が住んでいた邸宅へと向かうことに。

インビテーション

© 2015 THE INVITATION, LLC

到着すると、見違えるほどに陽気なイーデンと彼女の現在の恋人デヴィッドが二人を温かく迎え入れてくれた。高級なワインが振る舞われ、懐かしい元我が家で上辺だけの会話を繰り広げる旧友たち。中にはウィルが知らない顔も見受けられる。このパーティーは何かがおかしい。執拗に玄関の鍵を内から閉めようとするデヴィッドの行動に、ウィルだけが過剰な違和感を覚えていく。

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© 2015 THE INVITATION, LLC

やがて、デヴィッドはパーティーの参加者たちにカルト集団の映像を見せ始める。そこには、末期がんの女性がカルト集団のリーダーらしき男に看取られる瞬間が映されていた。宗教の勧誘だと眉をひそめる旧友たちを前に、イーデンは彼らの教えによって過去の苦しみから解放されたと訴える。不穏な空気が充満する中、ウィルはめったに時間に遅れない友人がパーティーに現れていないことを知るが……

映画を観る前に知っておきたいこと

ホラーやスリラーでよく目にする“衝撃のラスト20分”という常套句は、この映画には似つかわしくない。シッチェス・カタロニア国際映画祭でのグランプリを始め、27の映画祭や批評家たちの評価の理由は、むしろラスト20分までの見せ方にある。

登場人物の心理描写をじっくりと絡めながら、パーティーを覆う不穏な空気を少しずつ映画の中に充満させていく語り口は、いわゆるスリラーを求めた者の期待を裏切るほどスローテンポだ。しかし、ラスト20分までの描写の中にこそ、意図的な伏線が張り巡らされている。

コヨーテにとどめを刺す主人公。パーティーをしている家を探す謎の来客。庭に赤いランプを灯すパーティーの主催者……映画を観終えた時、一つ一つの描写が線で繋がるように作られているだけに、“衝撃のラスト20分”のみを期待するように鑑賞してしまっては退屈するだけだ。

じわじわと煽る独特の不快感

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© 2015 THE INVITATION, LLC

映画はなかなか衝撃的な幕開けを見せる。パーティーに向かう途中でコヨーテを轢いてしまったウィルは、まだ息があることを知ると、持っていたレンチで殴りつけとどめを刺してしまう。コヨーテを安楽死させた彼の行動が、観る者にこの後に起こるであろう惨劇を予感させる。

しかし、そんな期待を裏切るように映画はパーティー風景が延々と続き、参加者たちの白々しい会話に不気味さだけが漂う。パーティーの主催者デヴィッドがカルト集団による安楽死の映像を見せ始めても、一向にその場の空気を変える者は現れない。一人その異様さに気づき警鐘を鳴らすウィルだけが、観る者にとって唯一まともに映るだろう。

過去にイーデンとの間に生まれた息子を事故で亡くした彼は、カルト集団の死を肯定する教えなど唯の洗脳だと激しく非難する。それもそのはず、彼にとっては未だ癒えないその痛みこそが真実なのだから。しかし、一人まともな主張を繰り返しているはずの彼の言動、なぜか観る者の不快感をじわじわと煽る。

ここで冒頭の衝撃的なシーンが効いてくる。コヨーテを安楽死させたウィルの行動が、カルト集団の教えのように死を肯定しているからこそ、その矛盾が彼を最も不可解な登場人物に仕立て上げるのだ。ウィルの主張がまともなほど、カルト集団を激しく非難するほど、この映画はスローテンポな裏で静かにアクセルを踏み込んでいく。

-スリラー
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