映画を観る前に知っておきたいこと

【帰ってきたヒトラー】ブラックユーモアと社会風刺的テーマを両立させた秀作!

投稿日:2016年5月20日 更新日:

帰ってきたヒトラー

21世紀の諸君、お待たせしました。歴史上、絶対悪とされるあのアドルフ・ヒトラーがタイムスリップして現代に蘇る!しかし、存在するはずのないヒトラーはモノマネ芸人と勘違いされテレビで大ブレイクしてしまうのだが、ヒトラーはどこまでいってもヒトラーだった!!設定がすでにブラック過ぎるモラルと背徳の狭間のギリギリのコメディ。

原作は世界41ヵ国で翻訳され、ドイツ本国では賛否両論渦巻きながら200万部を売り上げる大ヒットとなった。ヒトラーも蘇れば、この問題作も映画として再び蘇る。そして、ドイツではディズニーの『イン・サイド・ヘッド』を抑え1位となり再び大ヒットを記録した。映画では原作とは違う結末が待っている。

監督・脚本を務めたのは、ドイツ国内はもとより、ヨーロッパで高く評価されるデヴィッド・ヴェンド。ヒトラー役には、よりリアリティを追求するため無名の実力派舞台俳優オリヴァー・マスッチが起用された。

  • 製作:2015年,ドイツ
  • 日本公開:2016年6月17日
  • 上映時間:116分
  • 原題:『Er ist wieder da』
  • 原作:小説「帰ってきたヒトラー」ティムール・ヴェルメシュ

予告

あらすじ

ヒトラーの姿をした男が突如街に現れたら?それは不謹慎なコスプレ男?はたまた顔が似ていればただのモノマネ芸人?しかし、それはかつてナチス・ドイツを率いて世界を震撼させた独裁者アドルフ・ヒトラー本人だった。1945年に死んだはずのヒトラーは2014年にタイムスリップして来たのだ。

帰ってきたヒトラー

しかし、本物だと誰にも気付かれないヒトラーはリストラされたテレビマンに発掘され、復帰の足がかりにテレビ出演させられるのだった。そこで長い沈黙の後、とんでもない演説を繰り出し、視聴者のドギモを抜く。自信に満ちた演説は、かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸と認識され、過激な毒演は、ユーモラスで真理をついていると話題になり、大衆の心を掴んだ。誤解が誤解を生み、当時はなかったテレビやインターネットでまさかの大ブレイク。

帰ってきたヒトラー

しかし、ヒトラーはどこまでいってもヒトラーだった!!戦争を経験した一人の老女は彼が本物のヒトラーだと気付いてしまう。ヒトラーは民衆の望む世界の実現を目指し、再び世界を導こうとする。

帰ってきたヒトラー

生来、天才扇動者である彼にとって、現代のネット社会は願ってもない環境だった……

映画を見る前に知っておきたいこと

本作に込められたテーマを見逃すな!

この映画が問題視されるのは、ヒトラーを笑いの種にすることでホロコースト(大量虐殺)やその犠牲者を軽んじていると捉えられてしまうからだ。しかしデヴィッド・ヴェンド監督の意図は真逆で、ヒトラーを真正面から笑い飛ばすことでドイツ国民に歴史と向き合う事を促しているのだ。

もちろん本作はヒトラーを題材としている以上、ただのコメディ映画であるはずがない。扱うテーマは社会派としての側面が強い。ただ、それを表現する手法としてユーモアを選択したに過ぎない。

ヒトラーと言えば、ドイツ国民を煽動してユダヤ人迫害に駆り立てた怪物というイメージが強いが、それは同時に歴史の責任はまるでヒトラー一人にあるような認識に繋がってしまう。しかし、実際はヒトラーを独裁者にしてしまったのはドイツ国民に他ならない。自ら進んでヒトラーに投票しなければナチスが台頭することもなかったはずだ。ヒトラーが独裁者となった後は、もはやその流れを止める力は国民になかったとしても、原因を生み出した責任はある。

本作ではヒトラーを怪物としてではなく、一人の人間として映す事で歴史の責任の所在を伝えようとしている。同時にドイツ国民にヒトラーを笑い飛ばす勇気を与えようとしているのだ。この作品のこうしたテーマはティムール・ヴェルメシの原作小説の時点からあったもので、それをデヴィッド・ヴェンド監督が引き継いだ格好である。

「“誇大妄想狂で情緒不安定”でありながら、一方では“チャーミングで礼儀正しく柔軟性のある”リアルなヒトラーを小説で描きたかった。多くの人々は、人を洗脳して魔法をかける怪物としてのヒトラーを見たがる。でもそういう悪魔化は、彼が大衆を巻き込むほど友好的で、賢く魅力的だったからこそ、政界での台頭やホロコーストが可能だったという事実を隠してしまう。」

ティムール・ヴェルメシ

そして、デヴィッド・ヴェンド監督は「帰ってきたヒトラー」を映画化する上で、この重要なテーマを伝えるためにはリアリティが必要だと考えた。突拍子もない設定の物語りにリアリティを吹き込もうとしたのだ。

原作とは違う映画ならではのアプローチを実行した作品にリアリティを与える手法とは、ヒトラー役に無名の実力派舞台俳優オリヴァー・マスッチを起用すること。そして、ヒトラーに扮したオリヴァー・マスッチがベルリンやミュンヘンを始め、ドイツ中を回ることで、街の人々にアプローチし、近付いてくる人々と交流させた。その様子を収めた映像は380時間以上に及び、本作にセミドキュメンタリーの要素をプラスしている。

どうしてもユーモアを用いると、深いテーマというのはその影に隠れてしまうが、本作は爆笑とテーマのバランスを取る努力がなされた秀作なのだ。実際、ドイツでの公開は批判もあったようだが、決して不謹慎な映画ではないということは理解しておいて欲しい。タブーであることは間違いないが、ドイツで初めてヒトラーを真正面から笑い飛ばす映画を製作した勇気は賞賛したい。

-コメディ, 洋画
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