映画を観る前に知っておきたいこと

【神のゆらぎ】俳優グザヴィエ・ドランの中にあるもの

投稿日:2016年7月6日 更新日:

神のゆらぎ

運命を決めるのは神か?自分か?奇跡を待つことも、運命だとしたら……

Mommy/マミー』(14)でカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞、そして最新作『IT’S ONLY THE END OF THE WORLD』では2016年カンヌ国際映画祭グランプリに輝いたカナダの若き天才監督グザヴィエ・ドラン。

彼はそれだけの才能を持ち合わせながら、「自分に役を与えるために監督になった」と平然と言い切る。俳優業を一義的とするグザヴィエ・ドランが、心底脚本に惚れ込み主演を熱望したサスペンスタッチの群像劇。

この映画から監督としてではない、本当のグザヴィエ・ドランの姿を感じ取れ!

  • 製作:2013年,カナダ
  • 監督:ダニエル・グルー
  • 日本公開:2016年8月6日
  • 上映時間:109分
  • 原題:『Miraculum』

予告

あらすじ

共にエホバの証人である看護師と、末期の白血病を患うフィアンセ……神のゆらぎ神のゆらぎ老境にありながら情熱的な不倫を続ける、バーテンの男とクロークの女……神のゆらぎ互いへの失望を偽りながら暮らす、アル中の妻とギャンブル狂の夫……神のゆらぎ神のゆらぎそして、取り返しのつかない過ちを償うためドラッグの運び屋となる一人の男……神のゆらぎ彼らの物語りが現在と過去を往来しながら交差する。ある終着点、墜落する運命にあるキューバ行きの機内へと向かって……神のゆらぎ誰も気付けない。自分の決断が知らないうちに、他人の運命を変えてしまっていることに。正しい選択とは何なのか?人間に許された最良の決断など存在するのか!?

映画を見る前に知っておきたいこと

俳優としてのグザヴィエ・ドラン

グザヴィエ・ドランは、今最も注目される若き才能であることに異論はない。しかし、それは映画監督としてだ。

Mommy/マミー』で一躍時代の寵児となり、『IT’S ONLY THE END OF THE WORLD』で2016年カンヌ国際映画祭グランプリに輝いたのはつい先日の話だ。

去年その『Mommy/マミー』で「グザヴィエ・ドランの現在地を見逃すな!」と紹介したばかりなのに、映画監督としてもの凄いスピードで階段を上っているのだろう。

Mommy/マミー』の時点で既にその美しい映像感覚はずば抜けていた。『IT’S ONLY THE END OF THE WORLD』で彼は今どこにいるのか。日本公開が楽しみだ。

さて、そんなドランが本作では監督ではなく主演を務めている訳だが、監督としての評価が高過ぎるゆえ、俳優としての彼の存在が霞んでいる。

ドランの俳優としてのキャリアは監督よりも古く、父親が俳優だったこともあり、幼少期から子役として映画やテレビに出演していた。

15歳で主演を務めた短編『鏡』(06)では80人のオーディションの中から発掘され、監督であるエチエンヌ・デロシアーズは既にその才能を高く評価していた。

しかし僕も『神のゆらぎ』の日本公開が決定するまで、ドランが監督業より俳優業を一義的としていることを知らなかった。監督として不動の評価を得ても「自分に役を与えるために監督になった」と平然と言い切るあたりは、彼の“自由さ”が創作の域を超えて、もはや生き方であることを感じさせた。

自身がゲイであることを公表し、人と違う事を忌む人を嫌う反面、その才能ゆえ誰よりも孤高の存在であるドランが本当にやりたかったことがこの映画の中にこそある!

俳優グザヴィエ・ドランの中にあるもの

グザヴィエ・ドランが主演だからと軽い気持ちで見ることはあまりお勧めしない。

人間の辿る運命は個人の選択なのか?神のいたずらなのか?というテーマに挑んだ作品であるが、それを表現する設定として「エホバの証人」の信仰が大きく関係しており、宗教色の強い作品だということは理解しておいて欲しい。

ここで面白いのが、ドランが演じる主人公も「エホバの証人」であることだ。ドラン自身が脚本に惚れ込み主演を熱望したと言うが、「エホバの証人」はホモセクシャルを禁じた宗教であり、ドランのアイデンティティとは正反対の一面を持つ役となっている。

それでも劇中の登場人物と自分の皮膚を同化させるだけと語り、幼少期に厳格なカソリックの叔母に連れられ教会に通っていた経験から、信仰心がある人間を演じることは難しいことではないという。

ドランが「エホバの証人」を信仰する役をあえて熱望したのは、作品に魅力を感じ、ただ俳優として新しい役に挑戦したかったというドランの飽くなき探究心からだ。

俳優グザヴィエ・ドランの欲求に比べれば、アイデンティティの問題などどうでもいいことのようだ。

監督としてのグザヴィエ・ドランが知りたい人は是非こちらを参考に!
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-8月公開, ミステリー・サスペンス, 洋画
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