父はカメハメハ大王の末裔、母はエリザベス女王の妹の夫のいとこ。実在した結婚詐欺師、ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐。彼は自分を米軍特殊部隊のパイロットと偽り、夢見がちな女性を狙っては金を騙し取る。しかし、そんな彼が実は一番の夢想家なのかもしれない。実際の結婚詐欺事件でありながら、その突拍子のなさはどこか滑稽で、騙す男と騙される女の心情をコメディタッチに映し出す。
個性的でコミカルなキャラクターを演じた堺雅人の右に出る者はいない。そんな彼のキャリアの中でも最も変な役がクヒオ大佐だ!
- 製作:2009年,日本
- 日本公開:2009年10月10日
- 上映時間:112分
- 原作:小説「結婚詐欺師 クヒオ大佐」吉田和正
予告
あらすじ
米軍特殊部隊のジェットパイロットという華麗なる経歴の持ち主、ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐。だが、彼の正体は純粋な日本人で、デタラメな経歴で女性たちを次々と騙す結婚詐欺師だった。わざとらしい片言の日本語と整形で高くした鼻、あまりにもくだらない嘘にまんまと騙されていく女性たち。クヒオ大佐に献身的に尽くす弁当屋の女将・永野しのぶ。クヒオ大佐は結婚を餌にして、恋愛経験のないしのぶに弁当屋の売り上げを貢がせていたが、正体に気付いたしのぶの弟・達也は逆にクヒオ大佐を脅して100万円を要求する。しかし、クヒオ大佐はしのぶからその100万円を引き出すのだった。
謎めいたクヒオ大佐にいつの間にか惹かれていく自然科学館の学芸員・浅岡春。同僚・高橋と別れた直後だった春はクヒオ大佐と関係を持つが、その翌日に彼と同じ制服を着た軍マニアを見つけ、制服がただの売り物であることを知る。
クヒオ大佐の金の匂いに引き寄せられる銀座のナンバーワンホステス・須藤美知子。彼女だけは違った。クヒオ大佐の名刺のスペルが間違っていたことに気付き、騙された振りをしながら独立資金を出させようとしていた。
純粋に愛する女、騙されたことに気付く女、利用しようとする女、それぞれの思いが交差する中、遂にクヒオ大佐に警察の捜査が迫る……
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映画を見る前に知っておきたいこと
実際のクヒオ大佐
本作は1970年代から90年代にかけて実在した結婚詐欺師をモチーフにしているが、本当に映画で描かれたような滑稽な人物で当時のワイドショーを賑わしていた。
父はカメハメハ大王の末裔、母はエリザベス女王の双子の妹(映画では妹の夫のいとこ)と偽り、結婚すると軍や王室から多額の祝い金がもらえると女性を騙し、貢がせた金額は1億円と言われている。
本当は北海道出身の鈴木和宏、もちろん生粋の日本人である。
当時の日本では金髪は珍しく、整形した高い鼻で軍服のレプリカを着て片言で話しかけられれば今よりは騙されるかもしれない……
まあ、以外と人は先入観があると簡単に騙されてしまうものである。この結婚詐欺事件、今となっては笑い話として、映画にまでしてしまっているが、実際に被害者もいることは忘れてはいけない。
最近の話で言えば、報道ステーションのコメンテーターをしていたショーン・マクアードル川上に僕たちも騙されたではないか。彼は企業のコンサルタントを手掛けるクオーターと自称していたが、実際は経歴を詐称している日本人だった。
しかし、報道ステーションを毎日のように見ていた僕は、その見た目や雰囲気から何の違和感もなく彼のコメントを聞いていた。彼の正体を知っってみれば、割と当たり障りのないコメントばかりしていたように思うが、先入観があると実に的を射た発言に聞こえてしまった。
彼は学生時代は“ホラッチョ”と呼ばれていたようだが、ある意味日本中を騙していたのだから、もはや才能である。僕は腹も立たなかったし、逆に少し感心したぐらいだった。情報を鵜呑みにはできないという教訓にもなった。
クヒオ大佐が映画になるんだったら、ショーン・マクアードル川上も十分映画にできそうだ。
解説・感想
ラストシーンの解説
実際のクヒオ大佐(鈴木和宏)は、映画のような滑稽な人物ではないのかもしれない。彼が結婚詐欺で逮捕された時に西ドイツ製のピストルと実弾23発も押収されているなど、スパイ活動をしていたという話もある。
しかし、映画では、まるで少年のように米軍特殊部隊のパイロットに憧れる夢想家のようにクヒオ大佐は描かれている。物語りはそんなクヒオ大佐と彼に騙されて夢を見る女たちという、夢の中でしか生きられない登場人物によって構成されている。
そして映画のラストシーンは、警察に追いつめられたクヒオ大佐の妄想で幕を下ろす。
ー妄想ー
突然正体不明の男が現れ、警察からクヒオ大佐を救う。しかし、その男に「何人の女を騙した?」と糾弾される。「騙したんじゃない。相手が望むことをしてやっただけだ!」と反論するクヒオ大佐。男は根性を叩き直しをやると両手を挙げるが、今度は米軍の特殊部隊員がクヒオ大佐を助ける。そして米軍のヘリコプターの中で、クヒオ大佐はベトナム戦線の第一線に派遣される特殊部隊員の指揮官として,隊員たちを鼓舞している。
こんな現実離れした妄想で終わるので、呆気にとられた人も多いかもしれない。ただ、このシーンは映画のテーマを良く表している。
劇中に、ファミレスで隣の席の子供を叱る父親にクヒオ大佐が怒るシーンがあるが、これは自身が父親から暴力を受けて育ったことに対するトラウマを表している。妄想の中で現れたクヒオ大佐を責める正体不明の男も父親を暗喩しているのだと思う。
また、子供の頃に米軍特殊部隊のパイロットに憧れた思いがそのまま妄想になっている。この妄想は、実際にL.A.で撮影されている映画の中でも最もリアルなシーンだ。そうした対比もラストシーンの重要性に一役買っている。
父親の暴力を恐れ、米軍特殊部隊のパイロットに憧れ、貧乏に育ったことでお金に憧れ、結婚詐欺に手を染める。映画ではクヒオ大佐は少年のままなのだ。
「騙したんじゃない。相手が望むことをしてやっただけだ!」と本人は結婚詐欺を否定しているが、これも本心なのかもしれない。もちろん悪い事という認識はあるが、女性も巻き込んで夢の中にずっと浸っていたかったのではないかと思う。
映画ではどこか愛すべき人物としてクヒオ大佐は描かれている。