運命に手繰り寄せられるフランスの秀英ウニー・ルコントによる長編2作目が日本でも公開される。
実の親に捨てられ、韓国から養子としてフランスに渡ったウニー・ルコント監督の実体験を基に製作された初の長編『冬の小鳥』(09)は東京国際映画祭アジアの風部門で最優秀アジア映画賞を受賞するなど、新たな才能を感じさせる鮮烈なデビューだった。
そして本作でも再び、自身の体験を込める……
パリで夫と8歳になる息子と暮らす理学療法士のエリザは産みの親を知らない。自らの出生を調査するために引っ越した港街ダンケルクで、娘と母は30年の歳月を経て見えない糸に導かれるようにめぐり逢う。エリザにウニー・ルコント監督自身の姿が重なって見える。
- 製作:2015年,フランス
- 日本公開:2016年7月30日
- 上映時間:104分
- 原題:『Je vous souhaite d’etre follement aimee』
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 運命に手繰り寄せられる監督ウニー・ルコント
- 3.2 ウニー・ルコント三部作
予告
あらすじ
パリで夫と8歳になる息子と暮らす理学療法士のエリザは自分の出生を知らない。
匿名で出産され、養子として育ったエリザは養父母の了解を得て、実の母の調査を専門機関に依頼していた。しかし、匿名で出産した女性を守る法律による守秘義務から見つかった母の情報は開示されない。
6ヶ月後、遂にエリザは自ら調査をするため、息子ノエと共に自分の出生地である港街ダンケルクに引っ越して来る。ノエが転校した学校で給食の世話や清掃の仕事に従事する中年女性アネットは、なぜかノエの事が気になってしまう。アネットはノエを優しいまなざしで見守っていた。
ある日、背中を痛めたアネットは学校から教えられたエリザの診療所にやって来る。「長いまつ毛ときれいな目をしたかわいい息子さんね」とノエを褒めるアネット。治療を重ねるうちに、エリザもアネットに対して親密感を抱く。エリザはアネットに「子供はいるか?」と尋ねるが、彼女の答えはノーだった。ある時、今度はアネットがエリザに「ノエはあなたの実の子?」と尋ねる。エリザの表情は強ばり、「養子は私の方よ」と切り返す。次第にアネットは、エリザは自分が30年前に産んだ子供ではないかと思うようになる。そして、アネットは自分を探している女性の名前を知るため、匿名解除を決意する。
私は1981年11月17日にダンケルクの産院で女児を出産。エリザベットと命名…
申請書を見たエリザはアネットが実の母だと知る。しかし、待ち望んだはずの母との再会だったが、ショックを受けて混乱したエリザは「母じゃない」と否定してしまう。
30年の歳月を経て、見えない糸に手繰り寄せられた母と娘を待っていたものは……
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映画を見る前に知っておきたいこと
運命に手繰り寄せられる監督ウニー・ルコント
運命に手繰り寄せられる監督ウニー・ルコント。そんな風に紹介したのは、彼女が類い稀な悲運と幸運の持ち主だからだ。
実の親に捨てられ、韓国から養子としてフランスに渡った過去を持ちながらも、ウニー・ルコント監督はそんな自身のアイデンティティを映画にぶつける事で幸運な監督デビューを果たしている。
ウニー・ルコント監督は、FEMIS(フランス国立映像音響芸術学院)が開講する脚本執筆のワークショップに参加し、『冬の小鳥』の脚本を執筆した際、韓国の巨匠イ・チャンドンの目に留まった事で映画化される運びとなった。(イ・チャンドンはプロデューサーとして参加)
また、フランスと韓国で結ばれた「映画共同製作協定」があったこともウニー・ルコント監督にとって幸運な状況だった。その第1号作品となったのが『冬の小鳥』である。
ウニー・ルコント監督は『冬の小鳥』を「ほとんどの部分は創作だが、9歳だったときの心のままに書いた」と語るが、主人公の少女ジニも9歳で父親に捨てられ、映画のラストでは養子として韓国からフランスに渡るなど、殆んど自身を投影させた物語りとなっているように思う。
事実、この映画には圧倒的なリアリティがある。それは物語りを淡々と綴ったウニー・ルコント監督の手法によるものだけではなく、実体験に基づく感情表現が作品に説得力を与えている。
こうしたウニー・ルコント監督の人生は、フランスと韓国で結ばれた「映画共同製作協定」において格好の材料になったこともまた運命的である。
本作の「あなたの誕生に何一つ偶然はない。」というキャッチコピーからは、ウニー・ルコント監督の人生観を感じる事ができる。
ウニー・ルコント三部作
長編2作目となる本作もまた、ウニー・ルコント監督の実体験に基づいた作品となっている。『冬の小鳥』から始まる三部作の第二部であることも自身の口から語られている。
『冬の小鳥』が9歳の少女を主人公にしたのに対して、本作では夫も息子もいる自立した女性を主人公にしている。
これは本作が彼女の現在を投影させた作品となっているという事だろう。
1991年、ソ・ミョンス監督の『SEOUL METROPOLICE』に自分のルーツを探す孤児の娘という役で出演が決まっていたウニー・ルコントの新聞記事を目にした実母が彼女を訪ねてくるという出来事があった。
本作ではその時の心境が込められているのではないだろうか?
原題の『Je vous souhaite d’etre follement aimée』は、訳すと「あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている」という意味だが、これは作家アンドレ・ブルトンが著書「狂気の愛」の最終章で、娘に宛てて書いた手紙の最後の一行を引用したものだ。
これはウニー・ルコント監督自身が大切にしている言葉でもあり、その一節が朗読されるラストは観客に、生命の誕生への祝福と不変の愛を伝え、深い余韻を残す。
本作を上映する劇場は決して多くないが、その評価の高さから日本でも公開が決まっていることはフランス映画好きにとっては朗報だと思う。
ウニー・ルコントというフランスの新たな才能による三部作を追いかけてみるのも面白い。
また、本作は2016年フランス映画祭でも紹介されている。このフランス映画祭は日本で行われている映画祭で、海外でのフランス映画の普及を目的として開催されている。日本で初公開されるフランス映画が中心に上映されるので、フランス映画が好きな人はチェックしてみると、新しく映画に出会えるきっかけになるかもしれない。
2016年フランス映画祭ラインナップ
『太陽のめざめ』
『ミモザの島に消えた母』
『The Final Lesson(仮題)』
『愛と死の谷』
『モン・ロワ(原題)』
『アスファルト』
『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』
『ショコラ!(仮題)』
『めぐりあう日』
『パレス・ダウン』
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
『エヴォリューション(仮)』
『パリはわれらのもの』
日経新聞の紹介記事をみて冬の小鳥から見ましたが、ぜひたくさんの人にみてほしいと思います。毎日のように幼い子供の虐待がある日本で、又離婚など親の事情で不幸になる子供がたくさんいる中一人一人にしっかり考えてほしいと思います。
>宮崎初恵
コメントありがとうございます。
『冬の小鳥』から見たのであれば、三部作最後の作品が余計に楽しみですね。
僕も、たくさんの人に見て欲しい映画という感想は同じです。
エリザが理学療法士という事で肌の触れ合いのシーンも多く心の傷の回復に示唆的である。
>PineWoodさん
コメントありがとうございます。
あのシーンはフランス映画らしいタッチでとても印象的でした。