映画を観る前に知っておきたいこと

【皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇】その内情にかつて無いほど入り込んだドキュメンタリー

投稿日:2015年1月20日 更新日:

皆殺しのバラッド

メキシコでは麻薬は若者たちがのし上がる手段、女学生はギャングとつきあいたいと言い、麻薬王を讃える音楽「ナルコ・コリード」に熱狂する。これはメキシコ麻薬戦争によってもたらされる圧倒的な暴力と莫大な富を、その内情にかつて無いほど入り込んで撮影したドキュメンタリー映画だ。

2013年ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品
2013年サンダンス映画祭正式出品
2013年ドキュメンタリー国際協会賞最優秀音楽賞受賞

  • 製作:2013年,メキシコ
  • 日本公開:2015年3月
  • 原題:『Narco Cultura』
  • 上映時間:103分

予告

あらすじ

世界で最も危険な街シウダー・フアレス

メキシコの都市シウダー・フアレスは年間3000件もの殺人事件が起こる。しかし、この街では犯罪の99%が罪に問われることなく放置される。原因は麻薬密輸カルテルの存在だ。メキシコでは麻薬カルテルは非合法でありながらも強大な力を持っているため、その資金力で警察組織を買収し組織に捜査の手が伸びることはない。さらには軍をも買収し、その武力で組織に従わない者は次々と処刑される。
下手に捜査をすれば命を落とす街で地元警察官のリチは日々殺人事件の証拠を集める。しかしリチの机の上には証拠品の山が積み上げられていくだけだ。まともに捜査もできず、1年間に同僚警官が4人も殺害される。

「この街にあるのは、死と暴力だけじゃない。愛もやさしさも気遣いもある。この仕事で私は街を救いたいんだ。」

リチは自分の信念を貫き、けっして地元を離れようとはしない。

麻薬王を讃えるバラッド「ナルコ・コリード」

「ナルコ・コリード」とは現在メキシコだけではなくアメリカでも人気を集めている音楽ジャンルだ。歌詞の内容は殺し、誘拐、拷問、麻薬密輸といった暴力的なもので「ナルコ・コリード」の歌手エドガー・キンテロが「手にはライフル 肩にはバズーカ 邪魔する奴は頭を吹っ飛ばす」と歌い若者達はそれを賞賛する。

麻薬カルテルのボスたちは自分の武勇伝をエドガーに話し、彼がそれを歌にする。歌が気に入ればエドガーは1万ドルを超えるチップを受け取る。そしてエドガーがリリースしたアルバムは10万枚を超えビルボードにもランクインしている。

麻薬戦争によってもたらされる暴力から街を守ろうとするリチと、麻薬戦争によってもたらされる富を掴んでのし上がろうとするエドガー。この映画はそんな対照的な二人の人生を追っていく・・・

映画を見る前に知っておきたいこと

ジャーナリズムによって生まれた映画

これまでにもメキシコの麻薬戦争を題材に作られたドキュメンタリーは存在したが、そのほとんどはインタビューを中心としたものばかりだった。それは現地での撮影があまりに危険なため仕方のないことであった。しかし「皆殺しのバラッド」ではかつてないほど麻薬戦争の内情に深く入り込んでいる。

これはシャウル・シュワルツ監督の経歴による功績が大きいだろう。彼はもともとフォトジャーナリストとして軍事衝突とその社会に対する影響を撮り続けていた。この映画を撮影するきっかけになったのは2008年からメキシコのシウダー・フアレスの暴力の写真を2年間撮影したことからだった。彼はその圧倒的な暴力の前に無力さとやるせなさを感じ、そのリアリティを伝えるために映画を撮影することを決めた。恐怖と危険のなかで撮影すること、取材対象の見つけ方、取材の仕方、彼のジャーナリストとして培った経験が「皆殺しのバラッド」をかつてないメキシコ麻薬戦争のドキュメンタリーとしている。

監督・キャスト

監督:シャウル・シュワルツ

シャウルシュワルツ1974年イスラエル生まれ。この映画を監督するまではフォトジャーナリストとして軍事衝突とその社会に対する影響を撮り続けていた。

2004年にはハイチ蜂起の報道により、2つの世界報道賞を受賞。
2005年にはガザ回廊の入植者をテーマとした写真でペルピニャンの国際報道写真祭ヴィザ・プール・リマージュで最高賞ヴィザ・ドール賞を受賞。
2008年ケニア暴動の報道写真でアメリカ海外記者クラブによりロバート・キャパ賞を受賞。

-ドキュメンタリー, 洋画
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