映画を観る前に知っておきたいこと

ノーカントリー
完全解説

投稿日:2016年1月27日 更新日:

ノーカントリー

純粋な悪にのみこまれる

第80回アカデミー賞で作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の4冠を始め、世界の映画賞で89部門(作品賞22・監督賞19)を受賞した映画史に残る名作。コーエン兄弟として知られる今やアメリカを代表する監督ジョエル&イーサン・コーエンの代表作でもある。原作はピュリッツァー賞作家コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」(05)。

アカデミー賞の話題作として入ると『ノーカントリー』の夜は限りなく長くなる。この映画を観た人の多くがその解釈に悩み、呆気にとられ、その一方でこの難解さにやみつきになるのだ。なぜなら、メッセージ性、ストーリーのおもしろさ、緊迫感、ユーモア、あらゆる解釈、それらを表現する演技や撮影技術に至るまで、映画に必要な要素のほとんどがここに詰め込まれているからだ。

この映画は決して多くを語らないため、ストーリーひとつとっても様々な見方がされている。そこで“ある程度の正解”と言える『ノーカントリー』の解説をしてみたい。

そのためにはまず、ストーリーを正確に把握する必要がある。詳細なあらすじから書いていくが、映画を見終わったばかりの人は飛ばしてもらって結構だ。

予告

あらすじ

舞台は1980年のアメリカ合衆国テキサス州西部。凶悪化する犯罪を憂える保安官ベルの語りを背景に映画は始まる。

「私は25歳で保安官になった。ウソのようだ。私の祖父も父も保安官だった。少し前、ある少年を死刑にしたことがある。彼は14歳の少女を殺害した。新聞は“激情犯罪”と書いたが、本人は“感情はない”と言った。“以前から、誰か人を殺そうと思っていて出所したらまた殺す”と。どう考えたらいいのかまったくわからない。最近の犯罪は理解できない。恐ろしいわけじゃない。この仕事をするには死ぬ覚悟が必要だ。だが、魂を危険にさらすべき時は“OK”と言わねばならない。“この世界の一部になろう”と。」

殺し屋シガーは保安官に連行されるが、保安官を殺してその場を去る。シガーは奪ったパトカーから車を乗り換えるため、エア・タンクの装置を使った家畜銃ピストルで一般人を殺して逃走する。

ノーカントリー

その頃、銃を持ってプロングホーンを撃ちに行ったベトナム帰還兵モス(ジョシュ・ブローリン)は偶然にも殺人現場に遭遇する。状況からすると麻薬取引がスムーズに進まず、途中で銃撃戦に発展したようだ。死体の転がる中を歩くモスは、麻薬を積んだトラックの運転席で息も絶え絶えになっているメキシコ人を発見する。いろいろと質問するモスだが、相手の言う言葉は「アグア」(スペイン語で「水」の意)のみ。その後、モスは事件現場から少し歩いたところにあった男の死体から200万ドルの札束が詰まったブリーフケースを発見し、自宅に持ち帰る。

ノーカントリー

その夜、運転席で苦しんでいた男のことが気にかかったモスは水を持って現場に戻るが、不運にも戻って来たメキシコのギャングたちに発見されてしまう。命からがら脱出したものの現場に置き去りにした車から身元が割れ、メキシコのギャングから命を狙われることになる。

ノーカントリー

一方、シガーはアメリカ側の組織から、モスが持ち逃げした金の発見を請け負った。二人の男に麻薬取引現場まで案内されたシガーも車の検査証プレートからモスを追う。この時、シガーは案内した二人の男を撃ち殺した。

その後、現場検証に訪れた保安官ベルもモスの身を案じ、行方を探す。

ノーカントリー

危険を感じたモスは妻カーラをバスに乗せて実家に帰し、自身はモーテルに潜伏する。そして、部屋の通気口の奥へ金の入ったブリーフケースを隠した。一旦部屋を出たモスだったが、戻った時に部屋のカーテンに違和感を感じたため別の部屋へ移る。始めに借りた部屋は既にメキシコ側の追っ手にばれていた。また、金の入ったブリーフケースには発信器が隠されており、シガーもそれを頼りにモスの滞在する部屋を発見する。シガーがメキシコ側の追っ手と交戦中、モスは金を持って逃走する。シガーはこの時、通気口にブリーフケースが隠されていた痕跡を発見する。

次に潜んだホテル・イーグルの部屋で発信器の存在に気付いたモスは、これを逆手に取ってシガーを返り討ちにしようとするが、激しい銃撃戦の末どちらも重傷を負う。シガーが傷の治療に時間を取られているうち、モスは国境を越えてメキシコに到達、現地の病院に入院する。

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入院中のモスに面会に来たのは、賞金稼ぎのウェルズだった。ウェルズはアメリカ側の組織から金の奪還を命じられており、金と引き換えにモスの命を守るという交換条件を出すが、モスはこれを拒絶。

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ウェルズは、モスとシガーが銃撃戦を行ったホテル・イーグルに滞在していた。ホテルに戻ってきたウェルズはシガーにあっさり殺される。その時ウェルズの部屋に電話をかけてきたのはモスであった。シガーは電話を取り、二人の会話が初めて実現する。モスが自分の手で金を持ってくること、そうすればカーラに手出しはしないと約束するシガーだが、モスはこれも拒否し、そこで会話は終わった。

ノーカントリー

米国に戻ってきたモスはカーラに電話し、彼女の母親ともどもエル・パソのデザート・サンズ・モーテルで落ち合うよう打ち合わせる。そこでモスはカーラに金を渡し、飛行機でどこかへ逃がそうと考えていた。カーラのことを張っていたメキシコ側の追っ手は、親切な紳士を装いカーラの母親から目的地のモーテルを聞き出す。

ノーカントリー

不安になったカーラからモスと落ち合う場所を聞いた保安官ベルもエル・パソに向かう。

シガーは自分以外の追っ手を雇ったアメリカ側の組織のボスを撃ち殺し、モスが飛行機で逃亡しようとしていると読んで空港のあるエル・パソに向かう。

デザート・サンズ・モーテルに先に着いたモスは、プールサイドに座っていた女と会話をする。保安官ベルはデザート・サンズ・モーテルに到着する直前に銃声を聞き、逃げていくメキシコ側の追っ手とすれ違う。モーテルに着いた時、モスは既に殺されていた。現場ではマシンガンを持ったメキシコ人とプールサイドに座っていた女も撃たれていた。

ノーカントリー

ベルは己の無力さを感じながら、地元の保安官と犯人について話す。地元の保安官の「非情どころの話じゃない。モーテルで人を殺した翌日、戻って来てまた殺した。」という話でピンときたベルは、再びモスが殺された現場に戻る。そこで部屋のドアの錠が吹き飛ばされていることに気付いたベルは犯人が再び現場に戻って来たことを確信する。気配を感じて恐る恐る部屋に入っていくと、そこには誰もいなかった。そしてベルは洗面所の窓が閉まっていることを確認し、ベッドに腰掛ける。その時、開けられた通気口と、コインが落ちていることに気付いた。

ノーカントリー

後日、ベルは元保安官だった叔父と会って引退の意思を話す。時代の流れに伴って凶悪化する犯罪がその原因だが、叔父はこの地域はもともと暴力的な土地であり、一個人の働きで状況が変化するようなものではないと説き、ベルをたしなめる。

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母親の葬儀から帰ってきたカーラは家の中で待ち伏せていたシガーと対面する。シガーはモスと交わした会話に基づいて彼女を殺害しなければならないと説明するが、気を変えコイントスでカーラが勝てば命を助けると言い出す。表か裏か。カーラの答えは「賭けない」であった。「決めるのはコインじゃないあなたよ」とカーラは言う。

ノーカントリー

カーラを殺し、家を出たシガーは靴の裏を気にした。そして現場から離れる際、シガーは車のバックミラーで自転車に乗った二人の少年を確認する。そして次の瞬間、青信号で交差点に入ったシガーの車に右側から別の車が突っ込んで来た。車から降りて来たシガーの左腕は骨が突き出ていた。シガーのもとにさっきの自転車の少年二人がやってきて、近くの人が救急車を読んだことを告げる。シガーは少年の着ていたシャツで骨折した腕を吊ると、その少年に金を渡し、「俺を見なかったと言え」と言ってその場を後にした。

ノーカントリー

物語は、ベルが妻に昨夜見た2つの夢の話をしている場面で幕となる。

ノーカントリー

「2つの夢を見たが、両方に親父が出てきた。親父は今の俺より20歳若くして死んだ。夢では俺が年上だ。どこかの町で親父に金をもらい、それを無くした。2つめは二人で昔に戻ったような夢で、俺は馬に乗り夜中に山を越えていた。寒くて地面には雪が積もっていて、親父は俺を追い抜き何も言わず先に行った。体に毛布を巻き付け、うなだれて進んで行く。親父は手に火を持っていた。夢の中で俺は知ってた。親父が先に行き、闇と寒さの中どこかで火を焚いていると。俺が行く先に親父がいると。そこで目が覚めた。」

描写から読み取れる確定的な解釈

この映画はあらすじ一つ取っても見る者の想像力を要求するので、迷子にならないように物語のポイントとなる箇所を挙げていく。ただ、ここでは描写から読み取れる確定的なことだけを紹介するので、飛躍させて解釈することは一切しない。また、すべての描写に意味があるという前提で話を進める。

モスはアメリカとメキシコのギャング両方から追われていた

全体のストーリーは、麻薬取引現場から金を持ち逃げしたモス、麻薬を買うアメリカ側の追っ手であるシガー、麻薬を売るメキシコ側の追っ手の三つ巴となっているので、まずはそこを正確に把握しないと物語を見失ってしまう。これも劇中ではっきりと説明がされるわけではないので、メキシコの公用語であるスペイン語を話しているなどの描写から読み解くしかない。

アメリカ側の追っ手

  • シガー
  • ウェルズ

メキシコ側の追っ手

  • 取引現場に戻って来てモスを襲撃したギャング
  • 最初のモーテルでシガーに殺された3人
  • カーラの母親に近づき目的地を聞いたスーツの男
  • モスが殺された現場から逃走したギャング
  • モスが殺された現場でマシンガンの側で倒れていた男

シガーが使っている武器について

これも映画を見ていて気になった人は多いのではないだろうか。ガスボンベの先から何かを撃ち出す銃のような武器だが、これはエア・タンクの装置を使った家畜銃ピストルと呼ばれるもので、本来は家畜を殺すためのものだ。原理は圧縮した空気圧でボルトを撃ち出し、そのボルトはバネですぐに引っ込むようになっている。

映画の中でベルともう一人の保安官が、シガーの行った殺人現場から銃弾が見つからないという話をするシーンがあるが、これは家畜銃ピストルには弾がないからである。また、ベルがモスの妻カーラに対して家畜の牛を殺す話をするシーンがあるが、ここでベルが語る「今は牛の殺し方も全く変わった。エアガンを使う。鉄のボルトを頭に撃ち込む。牛は瞬時に死ぬ。」という話は、まさしくシガーの武器のことである。

一見アナログなように見えるシガーの武器は、家畜を殺すための最新型の武器だった。これは、現代の悪意を象徴する存在であるシガーをよく表したシーンである。

シガーのキャラ設定としておもしろいのが、家畜銃ピストルを武器にした完全無欠の恐ろしい殺し屋だが、その反面本物の銃の腕前はイマイチだというところだ。シガーが車の中から橋に停まっているカラスを狙い撃ちするシーンがあるが、至近距離に関わらずハズしてしまう。雇い主であるボスを撃つシーンでも少し狙いが逸れているためボスは息絶え絶えとなっている。映画全体を通してもシガーは常に至近距離から相手を殺している。

「モーテルで人を殺した翌日、戻って来てまた殺した」という台詞の意味

モスが殺された後、ベルが地元の保安官と犯人について話すシーンがあるが、地元の保安官の「モーテルで人を殺した翌日、戻って来てまた殺した」という台詞の意味がわからず困惑した人が多かったようだ。この台詞が指すモーテルは、モスとシガーが銃撃戦を繰り広げた2番目のホテル・イーグルのことである。

最初に殺されたのは、ホテルのフロント係、次に殺されたのはウェルズのことである。映画の中でウェルズが滞在していたホテルがモスが潜伏していたホテルと同じだと語られることはなかったが、それぞれのシーンで建物にホテル・イーグルという名前が見えるので間違いない。

メキシコ側の追っ手がモスを見つけられた理由

ストーリーとしてはモスの逃亡劇がメインとなっているが、メキシコ側の追っ手がどうやってモスを見つけていったのかが納得できなかった人は多いのではないだろうか。シガーが最初のモーテルでモスを見つけたのは、金の入ったブリーフケースに発信器が隠されていたからというのはわかったと思うが、シガーより先にモスの部屋にメキシコ側の追っ手が隠れていたのはなぜだろう?

これに関しては字幕の訳し方が悪かったこともある。シガーが雇い主のボスを撃ち殺した後、横にいた会計係に「他の追跡者を送ったな」と言うシーンがあるが、ここのシガーの実際の台詞は「He gave the Mexicans a receiver.(メキシコ人にも受信機を渡したな)」である。ここから、アメリカ側とメキシコ側の追っ手はどちらも受信機を持っていたことがわかる。

モスを殺したのは誰か?

ベルがモスの殺害現場に到着した時、メキシコ側の追っ手が逃げて行くシーンがあるので一見彼らの仕業のように思えるが、現場にはもう一人メキシコ人が倒れていたことからシガーも現場にいたことがうかがえる。この倒れていたメキシコ人はまだ生きていたことを考えれば、標的のモスを殺したのに死んでいない仲間を置いて逃げないだろう。よってその場に別の驚異があったことがわかる。

もう一つこのシーンで重要なのが、プールサイドにいた女も殺されていたことだ。関係のない人間を殺すのはこの映画の中には一人しかいない。

ベルが現場に戻った時、シガーはいたのか?

これに関しては大きく2つの解釈が存在している。1つは、ベルの極度の緊張状態から生まれた想像を描写したものという説。もう1つは、そこに実際にシガーがいたという説。

ベルがモス殺害現場に戻った時、部屋のドアの錠が吹き飛ばされていたことからシガーもその部屋に戻って来ていたことは間違いない。ここで2度シガーが部屋の中に隠れているような描写があるのだが、実際ベルが部屋に入った時、そこには誰もいなかった。このシーンで重要なのは洗面所の窓の鍵が映されるカットだ。これが何を意味しているのか読み解ければ、現場にシガーがいたのかがわかるはずだ。

映画の原作であるコーマック・マッカーシーの小説「血と暴力の国」では、部屋から金の入ったブリーフケースを回収したシガーが駐車場に停めた車に乗り込んだ時に、ベルのパトカーが到着し、ベルがモーテルの中に入るまでシガーは車の座席で銃を膝に載せたまま待っていた。

原作と比較すると、シガーは部屋にいたと解釈するのが妥当である。そうすると洗面所の窓の鍵が映されるカットは、ベルとシガーがすれ違ったということを暗示している。部屋の入り口から入ってきたベルは、そのまま奥の洗面所まで進んで行く。シガーが洗面所の窓から逃げた形跡を否定することで、ベルはあの瞬間、死と隣り合わせだったという緊迫感を生み出している。ベルが映画の冒頭で語った「魂を危険にさらすべき時は“OK”と言わねばならない」という状況を描いたのがこのシーンである。

仮に部屋の中にシガーがいなかったとすれば、ベルには魂を危険にさらすべき時が訪れなかったことになり、映画の中でベルは凶悪化する犯罪を憂うだけの存在になってしまう。ベルが保安官を辞めるためには、シガーとすれ違ったという事実が不可欠なのだ。

金は誰の手に?

この答えは、ベルがモス殺害現場の部屋に戻った時に目にする、開けられた通気口とそこに落ちていたコインから読み取れる。モスが通気口の中に金を隠していたとすれば、それを知っているのはシガーだけである。最初のモーテルでシガーはモスが通気口の中に金を隠していた形跡を発見している。また、コインで通気口を開けるのもシガーだ。

カーラはシガーに殺されたのか?

結論から言うとカーラはシガーに殺されている。カーラがコイントスの賭けを拒否したことから多少困惑した様子を見せたシガーだったが、カーラの家から出てきた直後に靴の裏に血が付いていないかを確認するような描写がある。それに加え、カーラの家から出てきた時に自転車に乗った二人の少年が横切っているのだが、その直後にシガーは車のバックミラーで二人の少年の様子を気にしている。これらは殺人現場に、証拠や目撃者を残さないための行動と読み取れるのでカーラは殺されている。

解説

ここからは、少し主観を交えて映画の本質に迫ってみたい。僕の見方が正しければそれに越したことはないが、様々な解釈が存在することこそがこの映画の魅力だということを頭の片隅に置いて読んでもらえたら幸せだ。

映画に込められたメッセージ

本作の原題『No Country for Old Men(それは老いたる者たちの国ではない)』は、アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツ(1865~1939年)の詩「ビザンチウムへの船出」の冒頭を引用したものだ。

それは老いたる者たちの国ではない。
恋人の腕に抱かれし若者たち
樹上の鳥たち
その唄と共に、死に行く世代たち、
鮭が遡る滝も、鯖にあふれた海も、
魚も、肉も、鶏も、長き夏を神に委ね
命を得たものは皆、生まれ、また死ぬのだ。

W・B・イェイツ 「ビザンチウムへの船出」冒頭より

イェイツが活躍した19世紀末のヨーロッパでは産業革命が浸透し、科学技術の進歩による都市人口の増加と階級対立の激化など、社会全体が大きな変革を迎えた時代だった。それに伴うように芸術や文学における潮流もロマン主義に別れを告げ、現実をそのまま表現することを目指す写実主義へと切り替わっていった。そしてイェイツは、そんな時代の流れに逆行するように神秘とロマンを謳い続けた。

イェイツが詠んだビザンチウムとは、紀元前7世紀頃に繁栄を極め、芸術の都と呼ばれた歴史的都市である。後期の代表作とされる「ビザンチウムへの船出」の中で、60歳を過ぎ老いさらばえるイェイツは、芸術の中でなら人は永遠に生き続けられると夢想していたのだ。

しかし映画では、このイェイツの詩のようなロマンは一切描かれていない。ひたすら、時代とともに変貌する“世界”を表現したという点ではイェイツに対する皮肉のようにもとれる。その上で『No Country for Old Men(それは老いたる者たちの国ではない)』というタイトルは、映画を一言で表している。

映画に登場する殺し屋シガーは、“悪意”や“暴力”を象徴する存在であると同時に、現代社会における犯罪や戦争を象徴している。映画の中でシガーがコイントスによって相手の生死を決定するシーンがあるが、これによってシガーは人間が抗うことができない天災のような存在となっている。しかし、「決めるのはコインじゃないあなたよ」というカーラの台詞が、シガーは天災ではなく人災であることを暗喩する。その直後にシガーは信号無視の車に突っ込まれてしまうが、これは不条理な人間の“悪意”や“暴力”ですら、さらに別の不条理なものに飲み込まれてしまうことがあることを示している。シガーですら“世界の一部”なのだ。

そして保安官ベルは、時代とともに変貌する“世界”に翻弄される存在である。ベル以外の登場人物が“世界”を表している。映画の冒頭のベルの語りが映画の本質を最も表した台詞だろう。

「私は25歳で保安官になった。ウソのようだ。私の祖父も父も保安官だった。少し前、ある少年を死刑にしたことがある。彼は14歳の少女を殺害した。新聞は“激情犯罪”と書いたが、本人は“感情はない”と言った。“以前から、誰か人を殺そうと思っていて出所したらまた殺す”と。どう考えたらいいのかまったくわからない。最近の犯罪は理解できない。恐ろしいわけじゃない。この仕事をするには死ぬ覚悟が必要だ。だが、魂を危険にさらすべき時は“OK”と言わねばならない。“この世界の一部になろう”と。」

『ノーカントリー』冒頭より

僕たちも「最近の犯罪は理解できない」と感じることがあるだろう。そして、どんどん不条理になっていく“悪意”や“暴力”に恐怖することも。しかし、僕たちにそれらを変える術はない。これがこの映画が伝えようとしていることである。

タランティーノ顔負けのスリリングな物語の中心はモスとシガーだが、あくまで主人公をベルとしていることが、このメッセージを強く印象付ける。アメリカは老いたる者たちの国ではなくなってしまったのだ。

最後の言葉“この世界の一部になろう”とは、映画の後半にあるベルの叔父の台詞「(この国を)変えられると思うのは、思いあがりだ」に対する答えになっている。世界が変えられないのならば、その一部になるしかない。これは誰にも変貌する“世界”を止められないことを表している。運命を享受するしかないと、そこには死も含まれる。

夢の解釈

映画のラストシーンでベルが妻に昨夜見た2つの夢を話すが、ここに込められた意図とは何か?これに関しては、正解はない。

映画の終わりになってようやく主人公らしくなってくるベルだが、ここで語られる夢はベルの感情であり、ベル以外の登場人物が“世界”を表しているので、映画の中で初めて描かれた人間ドラマでもある。ただ、ここにロマンはない。あるのは現実と向き合う男の感情だけだ。

1つめの夢

「どこかの町で親父に金をもらい、それを無くした。」

映画の後半にベルが元保安官だった叔父に会いに行くシーンがあるが、ベルはここで祖父マックの最期について聞かされる。ベルの祖父は7、8人の悪党が家に押し入り玄関先で撃たれた。左の肺を撃たれ死を覚悟しながら、それでも祖父は銃を拾おうとした。この話が、1つめの夢を解釈するヒントになる。

夢の中で親父にもらった金とは、祖父から父へ、そして父から自分へ、親子三代に渡って受け継いできた“正義”を暗喩している。しかし、ベルの心は折れ、保安官を辞めることで、受け継がれた意思は失われてしまう。よって夢の中でも金を無くしてしまった。

ベルがこの夢を見たのは、リタイアすることに後ろめたさを感じたからだと思われる。それを表すのが叔父との会話の中のベルの台詞「俺が神でも、俺を見放す」である。

2つめの夢

「俺は馬に乗り夜中に山を越えていた。山道を通って行くんだが、寒くて地面には雪が積もっていて、親父は俺を追い抜き何も言わず先に行った。体に毛布を巻き付け、うなだれて進んで行く。親父は手に火を持っていた。昔のように牛の角に火を入れて。中の火が透けた角は月のような色だった。夢の中で俺は知ってた。親父が先に行き、闇と寒さの中どこかで火を焚いていると。俺が行く先に親父がいると。」

ここで語られる雪が積もった夜中の山道と、その道を先に行く父という存在から、これは親子が辿った保安官としての険しい人生を表している。父が何も言わず先に行ったのは、ベルが父親の背中を見て育ったということだろう。しかし、ベルが尊敬する父親もその道をうなだれて進んで行くことから、父にとってもまた険しい道のりだった。

そして、中の火が透けた角は月のような色だったという表現からは、暖かさを感じさせる良いイメージしかない。ベルが行く先がどこであっても父は火を焚いてそこにいる。これは1つめの夢の答えにもなっていて、保安官を辞めたベルを父は責めないだろうことを思わせた。

評価

『ノーカントリー』は難解な映画の部類に入ると思うが、作品の意図が汲み取れなかった場合大抵はおもしろくなかったという評価になるのに対し、この映画は意味がわからなかったけどおもしろいという評価が異常に多かった。その証拠にネット上では、映画に関する質問が飛び交い、それに答えるような解説が無数にある。

『ノーカントリー』の最も優れている点は、難解なメッセージを誰もがおもしろいと感じるような物語の中に完璧に落とし込んだことだ。これにより映画を見た人は、どうしても意図まで知りたくなる。

僕たちは結局、映画についてああだこうだと言うのが好きなのだ。こんなに大勢の人間と語り合える映画は他にない。

最後に生じた疑問

映画を20回も見て、僕なりに“ある程度の正解”と言える『ノーカントリー』の解説をしたつもりだが、結局僕の中にも疑問は残った。

それは、誰が金を持っているのかだ。これについては既に解説済みで、原作でもシガーが金を持って行ったことは書かれているのだが、それでもどうしても一つだけ解せない点がある。

モスが殺された部屋の通気口に、あのブリーフケースは入らない。開けられた通気口のカットに部屋のコンセントが映っているのだが、そこから通気口の大きさを推測するとどう考えてもブリーフケースより小さい。ここまで無駄なく完璧に映画を撮ってきたコーエン兄弟がここに気付かないとは思えない。

『ノーカントリー』の夜はまだまだ続く……

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執筆者:


  1. 神長 拓紀 より:

    萩山様
    「【ノーカントリー】完全解説」、大変興味深く読ませていただきました。
    私もこの映画の魅力にはまった一人です。こんな面白い映画、ほかにちょっと無いと改めて感じています。
    新しい発見もあり、「なるほど」と思わせられた箇所がいくつもありました。が、私の考えたこととは違った部分もありましたので、そこのところを書かせていただきました。
    ①メキシコ側の追っ手がモスを見つけれた理由
    「He gave the Mexicans a receiver.(メキシコ人にも受信機を渡したな)」は、初めて知りました。萩山様はこの台詞から、殺された3人はメキシコ側と考えられたようですが、なぜ競争相手に受信機を渡したのでしょうか?メキシコ人だけれども、アメリカ側ということも考えられます。保安官助手がベル保安官に「3人はメキシコ人でした」と報告すると、保安官は「アメリカ国籍を取っているかも」と答えています。
    しかし、受信機を持っているとしたら、なぜダクト内にある金を探そうとせず、のんびりモスの帰りを待っていたのかは疑問です。
    ②モスを殺したのは誰か?
    私も、「そこに実際にシガーがいたという説」をとります。
    私の推理はこうです。
    1:モスの部屋のドア付近でメキシコ側がモスを捕獲(殺すのではなく)しようとする。
    2:プールの近くに隠れていたシガーが、いきなりモスを射殺する。
    3:ビックリしたメキシコ側とシガーとの撃ち合いになる。
    4:巻き添えで女が死ぬ。
    5:メキシコ側の一人がシガーに撃たれる。
    6:メキシコ側の残りがあわてて逃げる。
    メキシコ側の目的はモスの殺害ではなく「金の回収」にあるわけで、モスを殺してしまっては回収が不可能になりますので、いきなり殺すことは無いとおもいます。
    メキシコ側の計画は、
    1:モスを捕える。
    2:やがてやってくる妻と母を人質として、モスに金のありかを白状させる。
    ということだと思います。
    銃撃戦の後、メキシコ人が3~4人、逃げ去りますが、これもシガーの計算とおりで、すべてが、シガーのたてた計画とおりにはこんでいるのだと思います。
    だいいち、ここにシガーがいなければ映画として「マヌケ」ですよね。
    このあとシガーは計算通り飛行機に乗ってずらかります。

    ほかにもお話ししたいことがありますが、ながくなりますので、このへんで失礼させていただきます。

  2. 今川 幸緒 より:

    貴重な御意見ありがとうございます。

    ①メキシコ側の追っ手がモスを見つけれた理由
    これについては「He gave the Mexicans a receiver.(メキシコ人にも受信機を渡したな)」というセリフから殺された3人はメキシコ側の追っ手と考えました。しかし、保安官ベルの「アメリカ国籍を取っているかも」というセリフはアメリカ側の追っ手であることを示しているのかもしれません。シガーにとっては同じ組織に雇われていても邪魔者は敵でしかないですしね。

    3人が受信機を持っているにも拘らずダクト内にある金を探そうとしなかったのも確かに疑問は残ります。モスを捕まえることで金の在処もわかると考えたのかもしれません。組織のメンツを考えると、金を回収することとモスを捕まえることが絶対であったのは間違いないでしょう。

    ②モスを殺したのは誰か?
    これについては、細かい箇所は想像の話になりますが僕も同じような意見です。ここにシガーがいなければ映画として「マヌケ」という感覚が最も重要な解釈になるような気がします。コーエン兄弟がここで観客をスカすことはしないでしょう。

    この映画はどこまでも話が長くなる気持ちわかります。『ノーカントリー』についてああだこうだと語るのは本当に楽しいですよね。

  3. tess より:

    以前観て、最高に面白かったので、もう一度観ました。モス、プールサイドにいたご婦人、メキシカンが殺されるシーンがあった様に記憶しておりました。が、今回観たら、一番の緊迫したシーンがありませんでした。別の編集版が、あるのでしょうか?それとも私の勘違いでしょうか?質問になってしまいましたが、教えてください。

  4. 今川 幸緒 より:

    >tess

    コメントありがとうございます。

    僕が観たのはレンタルの通常版DVDとWOWOWの放送でしたが、モス、プールサイドにいたご婦人、メキシカンが殺されるシーンはありませんでした。

    また、完全版があるという話も聞いたことがありません。

    現在はスペシャル・コレクターズ・エディションが発売されていますが、
    こちらもメイキングなど39分ほどの特典映像があるだけです。
    本編は同じ122分ですのでtessさんが今回観られたものと全く同じだと思います。

  5. 神戸人 より:

    ぼくとほぼ同じ解釈をされていて、自分と自分以外の方の感覚が同じで嬉しかったです。

  6. 今川 幸緒 より:

    自分とは異なる誰かと映画の感想を共有できることは、僕にとっても喜びです。しかも、それが『ノーカントリー』ならひとしおというものです。

  7. 神長 拓紀 より:

    今川様
    1年ほどまえに、コメント(①&②)を投稿させていただきましたが、その続きになります。長くなりますが・・・。

    ③ベルが現場に戻った時、シガーはいたのか?
    私も、「そこに実際にシガーがいた」という説をとります。
    まず、外からベル保安官が、吹き飛ばされた鍵穴を凝視します。けっこうしつこく映します。穴に白く反射したものが、ぼんやり写りますが、少し動いているように見えます。次に同じ鍵穴を今度は部屋の中から映します。中からの映像では、同じように外にいる保安官の少し動く影が、ぼんやり写ります。このシーンは保安官が外から見ているのと同時に、中から誰かが見ていることを表しているものだと思います。
    中にシガーが居るのを承知で、意を決してベルは中に入ります。「窓などから逃げていてくれれば」というはかない望みは、窓に鍵が掛かっていることでいることで打ち砕かれます。この部屋の中にシガーが居ることをベルは確信します。恐怖が最高点に達するシーンですが、ここでベル保安官の心が折れます。
    騒げば間違いなく殺される。かといって、逃げ出すのはこの職業を選んだというプライドが許さない。とれた行動は、ベッドにすわり込むことだけだったということでしょうか。
    このことが、引退を決意した理由になったように思います。

    この鍵の掛かった窓ですが、この映画では同様の窓が3回登場します。
    1回目は、ホテルでシガーの襲撃をうけてモスが「外へ逃げ出す=出ていく」シーン。
    2回目は、上記の、シガーが「出ていかない」シーン。
    3回目は、モスの奥さんの家に、シガーが「入ってくる(映像はありませんが)」シーン。

    窓は本来人が出入りするところではありませんが、この映画では明らかに、意図的にこの窓の出入りのパターンを変えて、3度、使われたものとおもいます。
    この3回目のシーンのあと、奥さんが部屋に居るシガーを見ても驚かないのは、窓が開いている(カーテンが揺れているので気づく)のを見た時に、「殺し屋が入ってきた」ことを理解したものと思います。

    ④金は誰の手に
    私もシガーが手に入れたことに間違いないと思います。
    モスがまだ金を持っていた時に、ケースの中から何枚か抜き出して使いますが、国境付近で、傷を負ったモスが若者に100ドル札を出してシャツを譲ってもらうシーンがあります。一方、交通事故で傷を負ったシガーが、同じように少年に100ドル札でシャツを譲ってもらいます。これは「金はシガーのところ」ということを暗示しているシーンだと思います。
    「②で、銃撃戦のあと、メキシコ人数人を逃がしたのはシガーの計算」といいましたが、これは、警察に、金はメキシコ側が持ち去ったと思わせるためではないでしょうか。ヤクはメキシコ側が早期の段階で回収していますので、金が手に入らなくてもメキシコ側に損は無いわけです。あれだけ脅かしておけば金はあきらめるだろうということかなと思います。

    ⑤カーラはシガーに殺されたのか
    いよいよクライマックスですが、このシーンではいろいろな要素がからんできます。
    まず、私なりに考えたシガーのプロファイルを見ていただこうと思います。
    A:潔癖症
    B:マザコン
    C:ユーモアを解する(カーソンは、シガーはユーモアを解さない男と言ったが)
    D:狂気
    アメリカ側のボスやカーソンを殺したのはA+Dだとおもいますが、カーラを殺したのはA+B+Dだとおもいます。
    マザコンという表記が正しいかどうかわかりませんが、意味としては、女性に対しては自分の行動規範がとれず、動揺すらしてしまうということです。それは、ガソリンスタンドの男の店主とトレーラーハウスの管理人のおばちゃんとのやりとりを比較してみれば明らかです。男に対しては完全に話の主導権を取っておりますが、おばちゃんに対しては、やりこめられて、すごすご退散してしまいます。
    そして、カーラとのシーンですが、殺すために訪ねたのは(A モスとの約束を果たすため)で、対話になると、まるで主導権をとれません(B)。「殺しに来るなんておかしい」といわれ、動揺したシガーは「コイントス」を提案します。これに対してカーラは「決めるのはコインじゃなくて、あなたでしょ」とまで言われてしまいます。自分の行動には絶対の自信を持っていたシガーのプライドが、ここで崩壊します。
    このあとは、コイントスをすることなく、だまったまま引き金をひいたのだろうとおもいます(D)。・・・怖い
    シガーがかなり動揺していることは、家から出てきたときに、両足の裏に血が付いていないかを確認することでも解ります。ホテルでカーソンを殺したあと、電話で話をしながら足元に流れてくる血を見もしないで、スッと避けるくらい冷静なシガーですから、カーラの殺害に関してはかなり動揺していたことがうかがわれます。
    このあと交差点での事故になりますが、この動揺の影響があったのではないでしょうか。たしかに青信号で直進中に側面から突っ込まれたので、もらい事故なのですが、もしシガーが冷静であれば、あそこまでまともにぶっつけられなかったのではと思います。
    (C)はストーリーに直接関係してこないと思いますが、シガーの人物表現に深みが出ているように感じます。
    私がシガーにユーモアを感じた部分
    1:車を奪うため、屠畜銃で男を殺すシーン、(ハイ大きく息をすって~、息を止めてそのまま動かないで~、ハイ終わりです。・・・みたいな感じ)
    2:運転中、橋の欄干に留まっている鳥を撃つ、(子供っぽい行動。まわりにだれもいないから、つい衝動的にやってしまった。しかも外したりして。)
    3:ガソリンスタンドの店主にコインを渡し、「そのコインはおまえにとって幸運のコインだから、他のといっしょにするな。」と言うシーン(そのコインのおかげで俺に殺されずに済んだのだのだぞ!)
    4:受話器と取る直前にカーソンを殺し、「そこにカーソンはいるか?」とモスが尋ねたのに対しての答え、「おまえの言う意味では、いない。」
    いずれにしても、ユーモアというにしては怖いですが・・・。

    わたしにとっても、『ノーカントリー』の夜はまだまだ続く……です。

  8. 今川 幸緒 より:

    神長 様

    お久しぶりです。1年越しで更に深く読み解かれたようですね。

    それぞれの疑問に対して、より深い考察がなされています。特に「⑤カーラはシガーに殺されたのか」のシガーのプロファイルが興味深いです。

    女性に対しては自分の行動規範がとれなくなってしまうシガーは、どこか純粋さを漂わせるため、それがより不条理な暴力の化身のようにも感じられます。

    実を言うと、僕もこの1年の間にもう一度鑑賞しました。と言っても妻と一緒でしたので、彼女の反応が気になって僕は流してしまいましたけど。

    次回の鑑賞では、鍵穴の描写に注視してみたいと思います。

  9. 種浦将暉 より:

    こんにちは。
    率直に言って、僕はこの映画をつまらなく、駄作に感じていました。
    しかし、おふたりの解釈を読み、ようやくその面白さに・・というよりはおふたりの考察の深さに惹かれました。

    正直そこまで補足して頂いてようやく自分でも考える足掛かりを得たような思いです。
    実はついさっき観終わり、難解さ・・というより不愉快さをやり過ごせなくなり藁を掴む思いで解釈をネットに探し、このサイトに巡り合えたのです。
    どうもありがとうございました。

    メキシコ人が部屋を見つけたことは本当に意味が分からなくご都合主義に感じていたのですが、「メキシコ人にも受信機を渡したな」のおかげである程度腑に落ちました。
    その上で、確かに取引相手とはいえ相手に受信機を渡す必要はなく、メキシコ人はアメリカ側の組織とみるのが保安官の「アメリカ国籍を持ってるかが重要だな」の意味も全く分かりませんでしたが、それへの解答として最上だと思いました。
    アメリカ側のボスの話から、メキシコ側が麻薬を回収したようなので、落とし前の問題を除けばメキシコ側に損は存在してないわけです。
    そうすると、最初に現場でモスを襲ったのとモーテルで殺されたのは同じアメリカ側の人間ということになり、筋が通る気がします。
    車の型が同じなのは、同一人物か少なくとも同一組織という示唆ではないでしょうか。
    しかし、そうすると最後にモス殺害現場まで来たメキシコ人もアメリカ側の人間ということになります。
    厳密に言って、メキシコ側が金を回収しようとするのはおかしな話です。
    と、なると考察の一つに「モスはアメリカ側からもメキシコ側からも追われていた」とありますが、そう見せて実は追手は終始アメリカ側だけだったのではないでしょうか。

    保安官がシガーが潜伏しているのを承知で屈した。出て行くほど恥知らずにはなれずといって戦う選択肢も出来ず座り込んだ、そしてそれこそが彼を引退させたという解釈は最高だと思います。本当に素晴らしい。
    確かにあの鍵を外側からかけるのは不可能で、あの鍵の接写は「ここからは誰も出ていっていない」ということを示していると考えた方が妥当に思います。
    そしてそれでこそ「俺が神でも俺を見棄てる」というのが重たく生きてくると思います。

    もうひとつ、カーラ殺害は全てシガーの動揺を現わすものだという解釈も卓越した素晴らしいものだと思いました。
    その解釈で、あのあたり一帯のわけの分からない描写がみんなきれいに説明がつくと思います。
    シガーは顔色変えず殺害し現場からは悠々と去る存在でしたが、あそこではご指摘の通り靴についた血を気にするなど衝動的な何かが行われたことを示唆しているように思います。
    また男の子二人を気にするのも、シガー本来の特性からすればちょっと異様で、あれは露見を怖れるというより神の目を気にするとでもいうか、何らかの後ろ暗さをシガーが感じていることを示唆するためのシーンだったのではないでしょうか?
    つまり・・賞金稼ぎが「金や麻薬を越えたルールが奴にはある」というような意味のことを言っていましたが、あのカーラ殺しはそのルールを破った殺しだった、という意味ではないでしょうか?

    そうすればあのちょうど都合よく追突してきた車にも、一定の理解ができます。
    動揺してた為、避けられなかったのかも、と。
    まあしかし青信号なのだから当たり前な気もしますが・・・

  10. 種浦将暉 より:

    すみません。
    興奮して大変な長文を書いてしまったようです。
    申し訳ありません。

    僕が一つ分からないのは
    どうしてモスは最初のモーテルを探知されたか、です。
    なるほど追手はみんなレシーバーを持ってはいました。
    いましたが、あれはある程度の距離近づかないと反応しないもののはずです。

    どうしてまず受信機が反応するほどの距離まであたりを付けられたのか?
    それがちっとも分かりません。
    日本と違ってアメリカは道と建物が少なくってある程度調べられるものなのでしょうか?

    もうひとつ、
    そもそも発信機は札束をくりぬいて仕込まれていましたが、そんなものの存在がそもそも疑問ではないでしょうか?
    あの金は麻薬を買った代金であって、メキシコ側に支払うという以上の意味はなかったはずです。
    そういう性質のものに中の札束くりぬいてまで発信機を仕込むというのは・・
    最初から金もブツも手元にこないのをある程度想定してなかったらやらない措置で、ちょっと珍妙な気がします。

    まあ実際に取引は不成立だったわけですから、それを察知して・・と言われたらそれまでですが。
    しかし麻薬も金も同時にあり、かつ持ち去られていなかったということは、お互いの組織がお互い取引するつもりで集まり、特に問題もないのに殺し合いお互い全滅した、ということになってしまいますが・・

  11. 今川 幸緒 より:

    種浦将暉 様

    コメントありがとうございます。
    この作品を観てから、随分と時間が経ってしまいましたので、少し記憶を辿るような話で申し訳ないですが。

    どうしてモスは最初のモーテルを探知されたか?
    これについては、やはり発信機でおおよその場所は特定できたのだと思います。

    そもそも発信機は札束をくりぬいて仕込まれていましたが、そんなものの存在がそもそも疑問ではないでしょうか?
    発信機を隠した動機までは描かれていなかったように思いますので、これは大いに疑問です。ただ、逆の見方をすれば、この作品においてそれは重要ではないということなのかもしれません。

    男の子二人を気にするのも、シガー本来の特性からすればちょっと異様で、あれは露見を怖れるというより神の目を気にする……
    この感想が何よりも映画の本質を捉えているように感じます。確かにカーラ殺しが彼のルールの外だったことを物語っている描写なのかもしれません。暴力の化身のような男の理解不能なルール。それすらも飲み込んでしまう不条理な暴力の連鎖。昨今のテロや動機の明確でない殺人など、現代を覆う暴力を憂う作品だということを改めて実感させられました。神の目、いいですね!

  12. より:

    ブログ主様の詩の引用と原作の内容は大変興味深かったです。

    私もベルがモスの殺人現場に戻るシーンの最後の排気口がアップされるカットだけはよく分からずにいましたが、改めて見て自分なりに理解しました。

    あのカットは、シガーが殺人現場の部屋に来た事の証明です。何のために排気口のカバーを外したかまでは分かりません。

    また、ベルが訪れた時にあの部屋にシガーが隠れていた。というのは部屋の配置からしても物理的にあり得ず、ベルの想像だと思います。またベルが座り込む時には(誰もいなくてよかった。思い過ごしか)という安堵の溜息をついているように見えました。もともとシガーがいる前提で銃を構えて戦うつもりで入ったわけで、奥まで確認して座る理由は戦意喪失ではないかと。中にシガーがいたという説が正解とすれば、緊張感は保たれるはずではないかと思います。

    加えて、この殺人現場に訪れる前に、保安官の友人とファミレスで話すシーンの最後、ベルに友人が「最近の犯人は理解できない。犯人が殺人現場に堂々と戻ってくるなんてどう理解したらいいんだ」的な事をボヤいていました。その後ベルはあの現場に向かったことから、犯人が事件現場に戻る事を友人の話から着想したのだと思います。

    これらより、部屋の中にいたシガーは、ベルのイメージではないかと思います。

    よって重複になりますが、あの排気口カットは、シガーは奥にもおらず、(いくら最近の犯罪がどうかしてると言っても犯人がのこのこ現場にくる事なんてさすがにどうかしてるよな。少し考えすぎたか。)と安堵して腰を下ろした所、(多分現場検証では見当たらなかった)何者かが何かの目的でこの現場に来た痕跡を見つけ、ゾッとする。という意味だと思いました。

    ほかの部分は概ね同感です。

    私は最後の夢の話のシーンが好きですが、一つ目の夢は、そこまで考えていなかったためとても参考になりました。二つ目は、自分を導いて待っていてくれる父の夢ですが、これは彼の人生観や世界観を表していると思います。(人生に神が入ってくると思っていた、とも)つまり、世界は険しいながらも導いてくれたりするものや正しい方向があり、寒い中先を行く父と火はその象徴ですが、目を開けると広がっているのは、目印もなく秩序も理解もできず自分の無力さを感じ保安官を引退した現実、というシビれるほど残酷なシーンと思っており、夢も希望もありませんがキレキレで好きです。

  13. より:

    あのバカみたいな発信機でなぜあたりをつけられたかについては、完全な説明はできないと思います。シガーは超人的な存在であり彼のような理解不能で無慈悲で完璧な殺人者はありえないでしょう。その点で、まだこのノーカントリーは非現実的といえ救いがあると思います。

    一方、原作者のコーマックマッカーシーはその少しあとに「悪の法則」という作品の原作を書いています。そちらでは、主人公達がモスよろしく追われるという点は同じですが、その主人公を追い詰める存在が、シガーのような一人の超人的な殺人者という形ではなく、より卑近な人間達の集合体として描かれています。

    要するに、コーマックマッカーシーの作家性を二つの作品から推測すると、シガーがなぜあたりを付けられたのか、金は最終的に誰の元に行ったのかというのは、彼の(世界は秩序もなければ理解も抵抗もできない)という作品性かつメッセージがメインであり、ツッコミどころがあるとはいえ、そこを明確にする事に大きな意味はないかと思います。

  14. バッピ より:

    今川様
    初めまして。

    ノーカントリーを見て、わからなかった点がありこちらに辿り着きました。

    アメリカ側にも発信機を渡したな
    この一文で色々解けていったので、とても有り難く思います。

    また、下記の疑問
    「そもそも発信機は札束をくりぬいて仕込まれていましたが、そんなものの存在がそもそも疑問ではないでしょうか?
    発信機を隠した動機までは描かれていなかったように思いますので、これは大いに疑問です。」
    発信機を隠した動機に関して私なりの見解があります。

    発信機を札束の中に入れた理由は、麻薬を買う側が金を渡す気が無かったのだと思います。
    普通に取引した場合、札束のくり抜きが露見すると金額が足らない等問題になります。持ち帰らす気が無かったのだと思います。
    また、金を持ち帰らす気が無いというのは銃撃戦が起こった理由にもなります。

    こちらが私なりの見解です。
    いきなり失礼致しました。

  15. 匿名 より:

    ×驚異
    ○脅威

  16. takeoka より:

    はじめまして。
    興味深く読ませていただきました。
    英訳のメキシコ人の発信機の件、唯一分からず理解できました。
    ありがとうございました!

    あと、シガーが部屋にいたかどうかの件、
    想像というより描写ができてると思うのですが、
    鍵穴のどアップのカットの後に、画面右下の鍵穴を見つめるシガーがいます。
    ちょうど位置的にベルがドアを開けるとドア裏に隠れるようになっています。
    ベルが洗面所まで見に行って戻ってきた際、ここは確信がないですが、
    ドアはドアノブの影から察するに少し戻っている(シガーが抜け出した)
    ようにも見えます。
    こっからは私の想像なのですが、中にシガーがいようといまいと、
    ベルは影の揺らめく鍵穴を確認したにもかかわらず中に入ったわけですから、
    その時点で魂を危険にさらすべき時は訪れたと解釈しています。
    よって、ベルの退職へと続く魂を危険にさらした描写もあり、
    洗面所に完全に入ると居間は同時に視認できずドア影からシガーが
    抜け出せる時間軸があるというアングル描写もあり(戻ってくるシーン)、
    私的には納得しています。
    ベルがため息をつきベットに腰を下ろしたあとの表情から察するに
    そのまま額面上だれもいない安堵の表情ととらえています。
    窓の鍵の描写は映画の観客には中にまだいる(窓から逃げてない)証拠として、
    ベルに対しては本当に直前までいなかった(とっくに逃げている)証拠として、
    映しているものと考えます。

    以上長文失礼しました。

  17. あきら より:

    難解な映画だと思ってましたが、偶然も重なって3回目に観た時、ストーリーの最後、保安官の話す2つの夢の話でなぜか泣けて来ました。なんとなく自分でもわかった気もしましたが、保安官を辞めた選択も父親は責めないし、これからも見守ってくれると保安官は感じたのかな?そう思ったらから泣けたんだと思いました。
    解説を読んでさらに深く広く夢のことを思わされました。

  18. KuroiRuka より:

    略啓 詳細な解説や諸氏の書き込み内容からはおもいっきりズレますが、2つほどネタです。

    モスがブリーフケースを通風口に隠すシーンと回収するシーンの矛盾
    138号室の通風口にブリーフケースをまっすぐに、更に、左に押し込みます。結果、ブリーフケースの底面は右、取っ手は左に位置しています。
    よって、38号室の通風口からブリーフケースを回収する際は、通風口に向かって「左」にブリーフケースがあり、取っ手が見える状態になるはずです。
    ところが、映像では、通風口に向かって「右」にケースがあり、取っ手が見える状態でケースを回収しています。最初見た時に混乱してしまいました。
    その後、https://www.moviemistakes.com/film7088でも確認しました。

    モスが2つ目の部屋を借りる際の、従業員女性の字幕の間違い
    138号室を借りているモスが部屋の配置図を見て、裏の38号室を借りようとする際、従業員女性は右隣の137号室を勧め、Number one, thirty seven=No.137と言ってますが、wowowの字幕では37号室と誤訳されています。
    このため字幕だけ追ってると、右隣の137号室でなく、斜め右後ろの37号室がどうしてお勧めなのか混乱します。

    不一

  19. トーヤマ より:

    皆さまはじめまして。

    いま映画を見ていて気がついたことあるのでコメントさせて頂きます。モスが殺されモーテルにベルが戻るシーンですが、最初に踏み込んだ時には部屋の前に貼られた黄色いコーションテープの影が壁一面に映っています。しかし、バスルームをチェックして再び部屋に戻ってきた時にはこのコーションテープの影がなくなっています。

    これはすなわちシガーがドアの陰から忍び出して、テープを切って出て行ったことを示しているのかなと思いました。

    シガーは実は妄想?という議論もありましたが、この物理的なテープの影の有無が、シガーがそこにいたけどこっそりと去って行ったことの証明かと思います。

  20. keep より:

    発信機はイーグルホテルでモスが気づき放置、以後カバンには発信機はついていない。
    デザートホテルにモスが現れるのは、嫁のおかんから親切なふりをしたスーツのメキシカンマフィアが聞き出した。

  21. 若輩 より:

    色々な解釈があり面白いです。
    これだけ多くの意見が出るとゆうことはやはりそれだけ意欲を掻き立てる作品とゆうことですね
    私としては、あえて理解しきることができない材料しか出さないことで、捉えきれない時代の変化への不安を保安官を介して表現したように思えます。保安官は日本人には身近ではないですし、あの地方に雪が降るのかは知りませんが、アメリカの文化をもっと知っていれば、理解は早いのかとも思いました。
    猟奇的な犯罪が起きる時代の到来を表現するために細部までこだわって作られたグロテスクな表現が、流行りつつある刺激を与えるためだけの無意味にグロテスクな映像と同一視され、この映画なんだか面白いと言われる要因になっていないかが心配です。
    この映画のメッセージはその感覚に向けられたものでもあるはずです
    逆にブービートラップでもあるのかもしれませんが…

  22. No County For Young Men より:

    ベルがモーテルに戻るシーンについて書かせて下さい。
    要点は、シガーがそこに居たのか居なかったのか、です。
    私は、シガーが実際に部屋にいたという考えです。以下、説明です。
     実際動画を見ながらだとわかりやすいと思います。↓
      https://www.youtube.com/watch?v=xO9kcTeRFG0

     ⓪ベルが車から降り、現場保持のためのコーションテープをやぶらずにくぐる。
     ①ドア鍵のエアーによる破壊痕を確認(シガーが部屋に入ったことは確定される)
     ②ドアの鍵穴に映る影(光)が微妙に動く
     ③シガーがドア側面に待機しているカットの挿入。鍵穴から漏れる光から推測して
      ベルから見て右側。つまりドアを開けて中に入る場合、ベルの死角になる位置に
      いる。(このカットはベルの妄想だ、というリーディングもこの時点では可)
     ④ベルが部屋に入ると正面の壁にコーションテープの影が映る。
     ⑤洗面所に入るベル。窓の鍵が掛かっているのを確認。
     ⑥部屋に戻ると先ほどのコーションテープの影がない。
     ⑦内側に開けたドアの位置が、人ひとり通れるくらいに移動している。

    以上から、私はあの時、シガーは部屋にいたのだと解釈します。
    ベルが洗面所にいるあいだ、シガーはドアをずらし外に出て、テープをやぶって逃げた。この直後にベルは、蓋のはずされた通気口を見てシガーが金を持って逃げたと理解してこのシークェンスは終わります。(以上はすでに他の方が指摘済みです)
    しかし、重要なのは描かれなかったその直後に起こったであろうことです。外に出たベルはテープがやぶられているのに気づく。さっきまでシガーと自分が同じ部屋にいたことを察知し、文字通り死と隣り合わせになっていたのを理解する。その気づきがなければ、ベルが引退を決意する決定的な要因はないことになります。シガーという存在を後追いして逃したというだけの話であれば、ベテランの保安官がわざわざ引退するはずもない。部屋に入ったとき、ベルの影が二重になっているのはとても重要な意味があります。そのことに関しては、後日あらためて書かせてください。

  23. 匿名 より:

    遅くなりましたがつづきを書きます。説明下手ですが、了承下さい。
    モーテルのシーンで、ベルが部屋に入ったとき、正面の壁に、ベルの影が二重になります。ベルが前進するたびに、左の影は洗面所に、右の影は反対側に移動する。
    左の影がベル本体と合体しながら洗面所に入ると、右の影は反対側に移動しながら消えてなくなる。影と合体したベルはシガーがいないことを得心し、ベッドに座り安堵する。右の影(シガー)は、そのあいだにテープを破って逃げた。

    時間を巻き戻します。モスのトレーラーにシガーが来る。モスがいないのを確認して、ソファーに座るシガー。ミルクを飲んで寛ぐ、テレビのブラウン管に映ったシガーの影。背後の窓は開いている。
    のちに、ベルと使えない補佐がトレーラーに入る。モスもシガーもいないのを確認したベル。シガーの飲み残したミルクを飲んで、同じようにブラウン管に映るベル。背後の窓は開いている。
    このシークェンスは、ベルとシガーが相似形だということ暗示しています。保安官/殺し屋、追う者/追われる者、という対立項の両翼でありながら、実際の映像において、まったくふたりは似ている。ミルクの入ったグラスの水滴からして、時間差はそれほどない。にも拘わらず、ベテランのベルは悠長にもシガーのミルクを飲んでいるのです。シガーと遭遇しないための時間稼ぎをしているのではないか、と勘繰ってしまいます。

    映像的に、まったく同一に扱われているベル=シガー。だからこそ、モーテルのシーンで、二重になったベルの影は意味を持ってくる。本来は同一であるはずの本体が、ふたつの影に分裂している。善を行おうとするベル。善悪なしに殺人をするシガー。それがひとつの部屋で、僅差ですれ違うのが重要なところです。たんにベルは、シガーの凶悪さにひしがれて、保安官をやめたのではない。どんな理由であれ、人を殺すという一点で、殺人鬼とことを同じくするという自身の境遇に、恐れをなした。

    父も祖父も、保安官だった。夢で父が自身を追い越す。灯りを持っていた。しかしこうべを垂れて暗い。その灯りとはなにか。善でも悪でもある、ひと一人が背負うには、あまりに大きい、罪業のようなものであるだろうか。

  24. おっさぬ より:

    ネットフリックスで鑑賞しました。

    モーテルのシーン 右の影についてはベルの物であって、シガーの物ではないと思います。
    テンガロンハットの陰影がありますし、直前のシーンでもシガーはハットを被っていません。
    ブラウン管のシガー影も見直しましたが、おかっぱ頭でもさすがにハットのような影にはなっていませんでした。

    ベルがシガーを自身と重ねて見ていた事。(相似形の暗喩も含め)
    シガーと対峙する勇気が持てなかった事。
    これらが引退を決意させたという考察はその通りだと思います。

  25. とっくさん より:

    初めまして。
    私はよく理解出来なかったけど、めちゃくちゃ面白い!と思ってたクチなので、こちらの解説を読んでさらに大好きな映画になりました。
    主様の最後の疑問ですが(最後の排気口のカット)。私も気になり再度見直しました。
    ブリーフケースはダクトに入れたのではなく、手間にあるスペースに置いていたのではないでしょうか。ブリーフケースがぴったりはまる様なスペースです。
    その証拠に、そのスペースには何かを引きずった様な跡が付いています。

    楽しい解説をありがとうございました!

  26. No County For Young Men より:

    おっさぬ様 
     反応ありがとうございます。
    やはり私の説明下手が祟ったようで、あらぬ誤解でご迷惑をお掛けいたしました。
     
     モーテルのふたつの影は、現実的にはベル保安官のものです。右の影をシガーのものだと言ったのは比喩であり、実際はベルの影が二重に反射しただけのものです。ベルとシガーが相似体であるかぎり、物理的な描写でも、比喩的に別のものを表現する場合があると思います。人々の命を守る保安官としての影(左)。しかしそれによって結果的に人を殺めることもある暗部として、右の影があると思っています(ベルはシガーと自分との違いを自問するでしょう)。実際、あの部屋にシガーがいたと仮定したら、暗部で結合していたベルとシガーは、左右に分かれて離れ離れになってしまいます。ベルが保安官を辞めたのは、シガーと対峙する恐怖より、自身の回帰するかもしれない暗部と向き会うのが怖かったからではないでしょうか。

     トレーラーの件は、まずシガーが入り、時間を措いてベルが入る。ふたりを捉えるショットがあまりに似通っているため、相似形を強調するためのシークェンスなのかな、と思ったのです。このシーンではふたりは別々の時間軸にいるので、シガーはおかっぱ、ベルはテンガロンで正解だと思います。

     ラストのベルの夢語りには、おおくの解釈が寄せられているようですが、夢の中でベルの父が持っている灯り(松明?)については、希望の光、未来へ橋渡しする火、のようなポジティブな意見が目立つようです。ただ私が思うに、あれだけの物語で、あれだけ打ちのめされたベルに、いったいなんの希望があるというのでしょう。彼はシガーと対峙するのが怖いのではない。自分と向き合うのが怖いのです。そんな人間に、どんな未来があるというのでしょうか。あの灯りは、私にはやはり、人が否応なく背負う罪業のように思えてなりません。だから夢のなかの父も、こうべを垂れて、無言だったのです。

  27. JJ より:

    「あのバカみたいな発信機でなぜあたりをつけられたか」について

    シガーが手にした電話の請求書には、通話先にダラス、オデッサ、オースチン、デル・リオの4箇所があります。通話が多いのは妻実家のオデッサとデル・リオです。
    デル・リオには友人ロベルトが住んでいます。
    (モスはモーテルからロベルト車販売店に電話しますが連絡はつきませんでした)
    シガーはモスがデル・リオに向かったと踏んで向かい、車でデル・リオに入ったあたりで発振器が反応した、という流れだと思います。

  28. えなり より:

    救急車を呼んだことを告げる
    が正解です。誤字があります。

  29. シェリフの奥さん より:

    13という数字が一般的な人々の信仰心の現れとして、使われてますね。
    なんでこのビルは一つ階がないのか?
    と言う質問の後以降にでてくるシーンに効果的に使われてあります。
    その後のシーンで出てくる他の部屋番号を見てください。
    この映画の中で悪の象徴、悪の道へ進む人達は13という数字に無頓着、一般的な人たちは13を避けて部屋番号、階数をつくっています。

    この映画は微妙なニュアンスが日本語では伝わりづらいところがあると思います。

    シェリフがメキシコ人が三人殺された、と報告するところで、
    言い直してメキシコ人だったと言い換えます。
    そこで、いつメキシコ人である事を辞めたのかが大切であると報告を受けたシェリフが言ったと思います。

    殺し屋が女性には弱腰になるという他の方のご指摘を参考に、そこに注目して観てみました。
    殺し屋がトレーラーハウスでいかにも南部の気の強い女性という感じの管理人に対する態度、
    これはこの役者さんの名演技だなと思いました。
    教えてくださった方に感謝します!

    最後の妻と殺し屋が対峙するシーンの1番最後のセリフですが、
    これもこの役者さんの名演技だと思います。
    そして日本語ではコインと同じ道を辿った、と言ったと思うのですが
    英語のニュアンスはコインがそうしたから同じように、ここに来たI got here the same way the coin didだったとおもいます。
    天を仰ぐように首を回しながら、困惑したような顔で、さも自分には選択肢がなかったかのような口ぶりです。
    別のシーンでのこの殺し屋のセリフに、
    自分が信じてきたルールでいま殺されそうになっているのなら、そのルールは必要あるのか?と言うような内容のものがあったと思います。

    この殺し屋には信仰心もモラルも一般の人が持つような常識もないように見受けられます。
    しかし、女性に対しては人間らしさのほんの少しのかけらを見せるんですね。
    これが何を表現しているのか考えてみたいと思います。
    この映画は本当に深いですね。

    あとシーンの順番がバラバラで申し訳ないのですが、
    モスが国境の近くの病院からアメリカ側に帰ってくるシーンも印象的でした、
    ベトナム戦争も象徴的に登場人物の会話に出てきますね。
    警備の人が一部のアメリカ人だけがアメリカに入れるんだ!といい、その後にベトナム戦争に2回行ったと知ると急に態度を変えます。
    ベトナム戦争はかなり悲惨な戦争です、戦争は人道的な行為とは真逆の象徴です、なのにアメリカに優遇されて入れるアメリカ人は、人道的行為とは逆をする人達なのか?
    と思わされるようなシーンでした。

  30. 太田橋聡子 より:

    こういった場所へのコメントは初めてなので、何か問題があればご指摘お願いします。

    皆様のコメント楽しく読ませていただきました。
    金の行方について拙いですが自説を聞いていただきたいです。
    僕は金は警察が横領したのではないかと思います。
    シガーがホテルの排気口を開けたのは探したのに見つからなかったことを表していると考えました。わざわざ金の入るはずもない小さな排気口を映したのも“探した”表現であると。
    また現場に行った(シガーはベルが来た時現場にいたと考えています。)のは金を探すためだと思いました。よく考えたらシガーは自身の移動についてはわりと合理的に動いてました。意味もなく現場に立ち入ったとしたら不自然です。よってモスが殺された時はシガーは居合わせてなかったと考えます。
    「金も麻薬も超えた行動規範をもってる」というように紹介されていたシガーはそれでも約束のためだけに奥さんのところへ行きます。

    やたら小さい排気口をこじ開けていたのを発見したシーンだけからの考えですが、どう思われますか?
    雑な根拠からなのに自分の考えがかなり正しく思えてきていて、最後の方でベルが他の警官と「金は?」「200ドルだけ。ポケットに」という会話をしていたのも、客への説明なら最後のシーンでシガーが持ってるだけでよかったのに、と、この説を裏付けているように思ってしまいます。

  31. 匿名 より:

    排気口小さいけどカバン替えたんじゃん?普通に。

    あとベル保安官モーテルのドア開けるとドアがピタッ!
    アイツがドアの裏にいるからね。。初共演

    たしかにマザコンつか女性と交際できない人の代償行動ぽい。

    ここに書いてある説、色々面白かったです!

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