イスラエル・パレスチナ問題の緊張化を生きる若者たちの現実を、サスペンスフルに描いたフィクションドラマ。
パレスチナからイスラエルへの“自爆テロ”を、自爆する側の視点からとらえた問題作『パラダイス・ナウ』のハニ・アブ・アサド監督最新作だ。今回は、分離壁によって阻まれたパレスチナの等身大の若者の姿を追いかけた。
資本、スタッフ、撮影地、全てが100%パレスチナ。本作はフィクションだが、まるでドキュメンタリーを見ているかのようなリアリティで描かれている。
第66回カンヌ国際映画祭、ある視点部門審査員賞受賞作品。
「これは占領下に閉じ込められ、厳しい状況に直面した愛についての映画なのだ」
監督:ハニ・アブ・アサド
- 製作:2013年,パレスチナ
- 日本公開:2016年4月16日
- 上映時間:97分
- 原題:『Omar』
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 感情と戦争
- 3.2 イスラエル・パレスチナ問題
- 3.3 パレスチナの分離壁
予告
あらすじ
パレスチナに住む真面目で思慮深いパン職人、オマール。町を二つに隔てる分離壁の向こう側には、ナディアという恋人がいる。
彼は監視塔の目を盗んでは壁を乗り越え、ナディアのもとに通っていた。
町の占領状態はもう長い。そこに住まう人には人権などない。ましてや自由の二文字など憧れても遥かに遠い、自分とは関係のないものになりつつある。
そんな日々を変えたいと、オマールは仲間たちと立ち上がるが、ついにはイスラエル兵殺害容疑で捕らえられてしまう。
秘密警察による拷問を受け、究極の二択を迫られるオマール。
一生を囚われの身として終えるか、仲間を売って裏切り者として生きていくか―。
彼の選択は、思いもよらなかった運命を引き寄せることになる。
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映画を見る前に知っておきたいこと
感情と戦争
戦争が起こっている。人情や優しさを排除した力だけが物を言う世界。
過去、戦争を生きる人のドラマはあらゆる場所で制作され、人々の感動を誘ってきた。
しかし、映画の中のそれはどこか遠くの国の出来事。はるか昔の出来事。どんなドラマを見ても、僕は「自分たちとは関係のないフィクションの世界」という感覚をどうしても拭えずにいる。
分からないのだ。
戦争を生きるということがどういうことなのか。
もしこれから日本が戦争に巻き込まれたとして、その時、僕らの生きようとする意志は、一体何と戦うのか。
主人公と世代が近いというのもあってだろうか。『オマールの壁』にはその答えがあるような気がしている。
公式サイトには、この映画を配給しているUPLINKの代表、浅井隆氏のコメントが掲載されている。
言葉もでない、涙もでない、感動を超えた何かの痕が心に刻まれる。
アップリンク設立29年。今、この映画を観てほしい。
世界を均質化する力と闘うために。
──アップリンク代表 浅井隆 公式サイトより
言葉もでない、涙もでない、感動でもない何か。
それは、僕らが今戦っている“何か”へ向けて、燻らせ続けてきた真実なのかもしれない。
イスラエル・パレスチナ問題
日本に届く報道を見ていると、「戦争なんて止めればいいのに」と思われながら見られているだろう。
しかし、イスラエル・パレスチナの問題は、実は非常に根が深い。なぜ問題がこれほど深刻化しているのか、事の発端はなんと紀元前にまで遡る。
この問題の歴史的な背景を知っておくと、映画の見方に深みが加わると思うので解説させてほしい。少々長くなってしまうが、『オマールの壁』に興味がある人にはぜひ読んでもらいたい。
パレスチナの分離壁
最後に、『オマールの壁』の物語の中心となった分離壁、これがどういうものなのかを解説しておこうと思う。
表向きはイスラエル政府による「セキュリティ・フェンス」という名目で、パレスチナ人による自爆テロ防止の大義名分のもとに建設された。
実際に対自爆テロの成果は凄まじく、完成前の2002年には自爆テロ47件、犠牲者238人が出ているのに対して、2008年には自爆テロ2件、犠牲者1名にまで抑えることに成功している。
しかし、分離壁はグリーンライン(1949年のパレスチナ戦争の停戦ライン)よりも内側に入り込んでおり、入植地をイスラエルの支配地域とするための既成事実を作るのが本当の目的だとも言われている。
さらに、分離壁はパレスチナ人の生活区域を貫いており、住民の生活に無視できない影響を与えていることから、国際的には違法、不当だという非難が集まっている。