映画を観る前に知っておきたいこと

【あの日のように抱きしめて】ドイツの優しくも切ない衝撃作

投稿日:2015年7月31日 更新日:

あの日のように抱きしめて

1945年ドイツ・ベルリン、顔に傷を負いながらもアウシュヴィッツ強制収容所から生還した妻と、変貌した妻に気付かない夫。再会により炙り出される心の傷。そして夫婦の愛の行方をサスペンスフルに描いた優しくも切ない衝撃作。

監督は『東ベルリンから来た女』のクリスティアン・ペッツォルト。『東ベルリンから来た女』でも主演を務めたニーナ・ホスとロナルト・ツェアフェルトの2人と再び描く第二次世界大戦後直後の深い葛藤。

亡命作曲家クルト・ヴァイルの名曲「スピーク・ロウ」がやさしくささやきかける。

  • 製作:2014年,ドイツ
  • 日本公開:2015年8月15日
  • 上映時間:98分
  • 原題:『Phoenix』

予告

あらすじ

1945年ドイツ・ベルリン。アウシュヴィッツ強制収容所から奇跡的に生き残ったネリー。しかし、その代償として顔に大きな傷を負い、再生手術を受けることに。そして元歌手のネリーは想い出の曲をいつかまた歌いたいと思うのだった。

それからネリーは過去を取り戻すために夫ジョニーを探し出そうと決心する。そしてついにジョニーと再会を果たすが・・・あの日のように抱きしめて

「妻を演じてくれ。」

ジョニーは顔の変わった彼女が自分の妻ネリーであることに気付かない。そればかりか、収容所で亡くなった妻になりすまして一族の遺産をせしめようとネリーに持ちかけるのだった。夫は本当に自分を愛していたのか、それともナチスに寝返り自分を裏切ったのかを知るため、ネリーは彼の提案をあえて受け入れることにする。あの日のように抱きしめてネリーを別人だと思い、容姿や筆跡までも妻に似せようと試みるジョニー。ネリーはそんなジョニーに亡命作曲家クルト・ヴァイルの名曲「スピーク・ロウ」を弾いてと頼むのだった・・・

映画を見る前に知っておきたいこと

クルト・ヴァイルの名曲「スピーク・ロウ」

本作でも想い出の曲として重要な意味を持つクルト・ヴァイルの名曲「スピーク・ロウ」は1943年に発表されたジャズのスタンダードナンバーだ。「愛を語るのならささやく(speak low)ように」という歌詞の通り優しくも切ない曲だ。まさにこの映画にぴったりの曲だ。

クルト・ヴァイルは高名なユダヤ人作曲家であったことから、ナチスの当局から危険視されるようになり、後期の作品の発表時には、コンサートの会場でナチ党員によって組織された暴動が何度も起きた。ドイツを離れる以外音楽活動を続ける道がなくなったヴァイルは、1933年にパリへ逃れることを余儀なくされ、1935年にはアメリカに移住した。そして市民権を取得した1943年頃に発表されたのが「スピーク・ロウ」だ。クルト・ヴァイルもまたナチス政権の被害者なのだ。こうした経歴が「スピーク・ロウ」が映画をより強く彩る要因になっていると思う。

音源と歌詞を貼っておくので、曲を聴きながら目を通してみてほしい。

https://youtu.be/cJGzEjCK_5g[youtube id=”” width=”100%” height=”60%” rel=1]

Speak low
word by Ogden Nash music by Kurt Well

愛を語る時は、優しくしゃべって
二人の夏の日はとってもはかない
愛を語る時は、優しくしゃべって
二人の時間は漂う船のように早い
とっても早く過ぎ去ってしまう運命なの

ダーリン、優しく、優しく
愛は暗闇に消える花火のよう
どこに行っても感じている
明日はすぐそこ
すぐそこまで来ている
そしていつもすぐにやって来る

時はすぐに過ぎ去り
愛もあっという間
愛は純金
そして時は泥棒のよう

急ぎましょう、ダーリン、急ぎましょう
幕は下り、全てのことはやがて終わる
私は待っている、ダーリン、待ってるよ
愛を語る時は、優しく、そして早く

『あの日のように抱きしめて』と『東ベルリンから来た女』

2012年公開の『東ベルリンから来た女』も本作同様、クリスティアン・ペッツォルト監督と主演を務めたニーナ・ホスとロナルト・ツェアフェルトの3人で作られた。実際、雰囲気もよく似ている。

『東ベルリンから来た女』は、人々が秘密警察の存在に怯えていた社会主義時代の東ドイツを舞台に、恋人の待つ西側への脱出を準備する一人の女性医師が、医師としての矜持や2人の男の愛に揺れ動くさまを、静謐な中にも緊張感あふれる筆致で描き出したサスペンス・ドラマだった。『あの日のように抱きしめて』もドイツの社会主義という時代背景から描かれている点や、愛をテーマに置いている点など共通点がある。

『東ベルリンから来た女』はベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を獲得しアカデミー賞外国語映画賞のドイツ代表にも選ばれた作品で、本作も同様のキャスト・スタッフで製作されているので期待したい。『あの日のように抱きしめて』をおもしろいと感じた人には『東ベルリンから来た女』もぜひ見てほしい。気になる人のために予告動画を貼っておく。

-ミステリー・サスペンス, ラブストーリー, 洋画

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