映画を観る前に知っておきたいこと

【だれかの木琴】『紙の月』を彷彿とさせる危険なサスペンス

投稿日:2016年9月3日 更新日:

だれかの木琴

私の心にその指が、触れたー

平凡に生きてきた主婦が、ふとした心の隙間に入って来た美容師の男にどうしようもなく心を囚われていく。それは好奇心…衝動…執着…恋…それとも欲望?得も言われぬ感情は、彼女の行動を次第にエスカレートさせる。愛と呼ぶにはあまりにも危険で切ない、求め合いねじれゆく男と女をスリリングかつエレガントに描く、大人のためのサスペンス。

直木賞作家の井上荒野の原作を基に、『絵の中のぼくの村』(96)でベルリン国際映画祭銀熊賞を始め40以上の栄誉ある賞に輝いた東陽一監督が映画化する。

少しずつ道を踏み外していく狂気はリアルに、膨らんでいく妄想は匂い立つようなエロスで。主人公・小夜子を演じるのは常盤貴子。池松壮亮との初共演が実現した。

予告

あらすじ

平凡な主婦・親海小夜子(常盤貴子)は、警備機器会社勤務の優しい夫・光太郎(勝村政信)と、可愛い中学生の娘・かんな(木村美言)と3人、念願の一軒家へ引っ越してきた。小夜子は、たまたまあった近所の美容院で髪を切ってもらう。小夜子の担当に着いたのは山田海斗(池松壮亮)という若い美容師だった。
だれかの木琴

© 2016「だれかの木琴」製作委員会

「本日はご来店、ありがとうございました。」

「今後ともよろしくお願いします。」

その日のうちに海斗からのお礼のメールが届く。何気なく返信する小夜子の中では何かがざわめ始めていた。その返信にさらに返信を重ね、レスが途絶えると再び店を訪れて海斗を指名する小夜子だった。
だれかの木琴

© 2016「だれかの木琴」製作委員会

ある日、店での会話から海斗のアパートまで探し当てた小夜子は、ドアノブに「買いすぎたのでどうぞ」というメモとともに苺のパックを吊るして帰る。この時、海斗は小夜子に対する拭いがたい違和感が、自分に対する危険な執着だと気付く。
だれかの木琴

© 2016「だれかの木琴」製作委員会

次の休みの日、またしても小夜子は海斗の家にやってきた。そして今度は家の呼び鈴を押してしまう。

「汚いとこですけど、どうぞ。」

「そんなつもりじゃ。」

慌てる小夜子を部屋に招き入れる海斗。部屋に吸い込まれるように入ってしまう小夜子。

やがて2人の関係は家族や周囲まで巻き込んでいく……

映画を観る前に知っておきたいこと

SNSが生活の一部となっている人は身につまされる映画かもしれません。しかし、そんな人こそ観ておもしろい映画です。もし、現代社会に何かしらの閉鎖感を感じているなら、その漠然としたものの正体がわかるかもしれません。映画は誰にでもある感情が強迫観念へと変わる時、人はそれに抗えなくなることを教えてくれます。

『紙の月』を彷彿とさせる危険なサスペンス

エスカレートしていく彼女の言動に息をのみながら、私たちはふと気づくだろう。SNSでフォローしている特別な相手に対してやっている自分の行為と似ていることに。休日に誰とどこへ出かけたのか、今どこで何を食べているのか、見たい、知りたいー

イントロダクション

© 公式サイト

公式サイトでは、平凡な主婦・小夜子の得も言われぬ感情の正体を、SNSが当たり前となった現代社会における僕たちの感情に照らし合わせて映画を紹介している。

イントロダクションだけでどこか納得してしまえた人にとって、映画は特別な破壊力を発揮する。おそらく、どんな恐ろしい殺人が行われるサスペンス映画より、ずっとスリリングな物語に映るだろう。

いつでも誰かと繋がることができるSNSにはある種の麻薬のような作用がある。相手のことを知る術が用意されていることは、他人に対する独占欲や執着を肥大させ、依存し、それは強迫観念へと姿を変えていく。気が付けば、自分では制御しきれないところまでいってしまうものだ。便利さに慣れた代償に、僕たちは閉鎖的な社会を手に入れてしまった。

これは誰にでも起こり得る状態、あるいは潜在する感情であるがゆえ、映画はフィクションでありながら身近で現実的なサスペンスとなる。

また、少し年齢を重ねた今の常盤貴子と最も勢いのある若手俳優の一人池松壮亮による初共演も映画にリアリティをもたらしている。どこか新鮮で違和感すら感じさせるこの二人のコントラストは、劇中の小夜子と海斗の関係をトレースしたような見事なキャスティングだ。離れた世界の中で生きる二人の不倫関係は生々しく、映画に映える。

そういえば、2014年に宮沢りえ主演で高い評価を得た『紙の月』でも全く同じような印象を抱いたのを覚えている。この時、宮沢りえ演じる主人公・梅澤梨花の不倫相手を演じたのも池松壮亮だった。人間の危険な強迫観念を扱っていた点では映画のテーマも同じだった。

2014年を代表する邦画を彷彿とさせるこの映画が、スリリングな展開で観客を結末まで誘ってくれることは間違いない。

-9月公開, ミステリー・サスペンス, 邦画
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