映画を観る前に知っておきたいこと

【歓楽通り】どこまでも退廃的な大人のメルヘン

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歓楽通り パトリス・ルコント

魅力的で幸の薄い娼婦マリオンと、彼女を一生賭けて幸せにすると誓う世話係プチ=ルイ、そしてマリオンの運命の男フランソワ。運命を共にする3人の奇妙なラブストーリー。

妖艶な女性像を描かせたら天下一品、『仕立て屋の恋』『髪結いの亭主』のフランスの名匠パトリス・ルコント監督が娼婦の館の女達をミステリアスに描く。主演はイヴ・サン・ローラン最後のミューズとして知られるレティシア・カスタ。フランスでは彼女の名を知らないものはいない程の大物女優だ。

ルコントが描く愛の集大成とも言われる本作は、なんともつかみ所のないメルヘンの世界だった。

  • 製作:2002年,フランス
  • 日本公開:2003年3月1日
  • 上映時間:91分
  • 原題:『Rue des plaisirs』

予告

あらすじ

ある雨の夜、娼婦たちがお客を取ろうと男達に声をかけるも一向に捕まる気配がなく、それぞれの不遇を愚痴りあっていた。

「だめね。街娼なんて時代遅れよ。」

「ならやめる?」

「娼婦をやめて成功した娘がいる?」

「一人だけ居るわ。マリオン―。」

彼女の成功の裏には、プチ=ルイという男の存在があった。ある雨の夜、街娼たちはプチ=ルイとマリオンの恋物語を語る。

プチ=ルイは娼婦とお客の間に生まれた子だった。“事故”で生を受けた彼は、娼館の娼婦たち皆に愛され、娼婦の世話役として人生を過ごしてきた。歓楽通り パトリス・ルコント彼の夢は「運命の女性と出会い、一生を賭けてその女を幸せにすること。」そんなプチ=ルイの人生も半分が過ぎ去ろうかというある日、ついに“運命の女性”と出会う。

名はマリオン。ミステリアスで魅力的だがどこか幸の薄そうな彼女に、プチ=ルイは彼女を一目見た瞬間に「あなたを一生を賭けて幸せにする」と誓うのだった。歓楽通り パトリス・ルコントひたすらにマリオンの幸せを願うプチ=ルイは、さっそく彼女の“運命の男”を捜し始めるが―。

感想・批評

レティシア・カスタを見るための映画

歓楽通り パトリス・ルコント娼婦の物語だけあって、ヒロインのマリオンはルコントの描く女性像の中でも突出して艶っぽくて女らしい。

マリオンを見るためだけの映画といっても差し支えないほど、彼女を演じるレティシア・カスタの存在感に支えられている映画だと思う。

すごい美人で艶やかなのに、常に幸せとは正反対の方向に猛ダッシュしていく昨今流行のダメンズウォーカーの女神。まぁ彼女の場合は運命と信じたたった一人の男がマジモンのクソだったわけなんだが・・・。

それでもマリオンは本気で彼を愛していた。幸薄ここに極まれり。

レティシア・カスタはモデルあがりの女優で、フランスでは凄まじい程の人気を誇っている。フランス全土の市庁舎にあるマリアンヌ像は彼女がモデルなんだとか。

とりあえず彼女の見た目が好きになれれば、この映画ほど面白い映画はないだろう。

幸せの絶頂で幕を閉じる理想

Rue des plaisirs2それこそ若い頃は人生の最高潮で死にたいっていう欲望みたいなのがあって、ルコントの描く悲劇には「これで幸せ完成!」っていう潔さに共感出来る部分が多い。『髪結いの亭主』なんか思いっきりそうだった。

なんというか、武士が死に場所を求めるみたいな感覚だろうか。人生絶頂期で幕を閉じたいみたいな。

今でこそ色々と楽観できるようになってきたけど、早くに死したロックスターが伝説になる現象とかを考えても、そういう感覚って普遍的な何かをはらんでいる様な気がする。

大人のおとぎ話

「全然理解出来ない!」という感想を良く聞く映画だけど、言ってみればウサギが紳士のカッコして喋ってるのを現実的に理解しようとしているようなもんで、ルコントの映画にはどうもそういう所があるように思う。

娼婦たちの思い出話として語られる本作も、物語はまるで現実味のないぶっ飛んだ展開が多く、なぜそうなっているのかを詳しく語るような描写はなかったり。

キャラクターもどこか人間らしさが感じられず、主人公の“運命の女の世話を夢見る男”プチ・ルイなんかはまるで夢のケモノ。

マリオンはマリオンで美しさが浮世離れしてる上に異様につかみ所がないし、夫となる運命の男は本当に人間かと疑うぐらいタガの外れたクソ野郎。

感情移入なんかさせないぞと言わんばかりに3人が3人とも人間味がない。特に3人の中でもプチ・ルイはめちゃくちゃ変な奴で、僕には途中から童話「不思議の国のアリス」に登場するウサギと被って見えていた。歓楽通り パトリス・ルコント冒頭にウサギを引き合いに出したのはそういう理由からで、そんなこんなでこの映画は退廃的な上にめちゃくちゃメルヘン。理解など出来ようはずもない。

僕はルコント映画に度々登場するこういう“人間としてどっかが完全にぶっ壊れてる”キャラクター達は結構好きで、『歓楽通り』はそんなキャラのオンパレードで面白い映画だった。

最近は「大人のおとぎ話」なんてチープなキャッチフレーズを良く聞くようになったが、それはパトリス・ルコントの映画、中でも『歓楽通り』こそふさわしいと思う。

いかにもフランス映画らしい作品なので合う合わないはあるだろうが、面白いかどうかはさておいて芸術点はかなり高い映画だ。

-ヒューマンドラマ, 洋画
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