その引き金を引いたものは、
英雄なのか、テロリストなのか。
ボスニア紛争を題材にしたデビュー作『ノー・マンズ・ランド』(01)でアカデミー外国語映画賞に輝いたダニス・タノヴィッチ監督が、政治思想の強いフランス人作家ベルナール=アンリ・レヴィの戯曲『ホテル・ヨーロッパ』を原案に、サラエヴォ事件と現代をサスペンスフルに交錯させる。
第一次世界大戦の引き金となったサラエヴォ事件から100年後の2014年6月28日、記念式典が行われる予定の高級ホテル。戦争についてインタビューするジャーナリスト、演説の練習をするVIP、ストライキを企てる従業員。一発の銃声が鳴り響いた時、彼らは運命にたぐり寄せられる ──
2016年ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞のW受賞を果たし、再び2017年アカデミー外国語映画賞のボスニア・ヘルツェゴビナ代表作品に選ばれている。
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を観る前に知っておきたいこと
- 3.1 サラエヴォ事件
予告
あらすじ
2014年6月28日、サラエヴォ事件からちょうど100年のその日、現場からほど近いホテル・ヨーロッパでは記念式典が行われる予定だった。式典が目前に迫る中、ホテルでは賃金未払いに業を煮やしストライキ決行を企てる従業員とそれを阻止しようとする者たちがせめぎ合う。

© Margo Cinema, SCCA/pro.ba 2016
ごたつく事情を他所に、式典に向けてホテルに集まる様々な人々。屋上ではジャーナリストが戦争について取材し、招待された大物は演説のリハーサルに余念がない。そして、サラエヴォ事件の実行犯と同じ名を持つ男……

© Margo Cinema, SCCA/pro.ba 2016
それぞれの思惑が交錯する混沌としたホテル内に、一発の銃声が鳴り響く!
Sponsored Link映画を観る前に知っておきたいこと
第一次世界大戦の引き金となったとされるサラエヴォ事件、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身の監督であるダニス・タノヴィッチがついにこのテーマに切り込む。
2014年6月28日にはサラエヴォ事件の100周年を記念した式典が世界各地で催された。もちろん平和的メッセージを発信するという意味でだ。しかしことボスニア・ヘルツェゴビナに関しては、民族間の感情の違いによってサラエヴォ事件の捉え方がまったく異なる。
映画はそこに現代の感情までを組み込んだ群像ドラマとして、実際の記念式典に対するボスニア・ヘルツェゴビナの感情をなぞるように描かれる。
サラエヴォ事件
1908年、ボスニア・ヘルツェゴビナがオーストリアに併合されたことを受けて、南スラヴ諸国への統合を望んでいた多くのボスニアに住むセルビア人はこれに強い反感を抱いた。この民族間の対立感情がサラエヴォ事件へと発展していくこととなる。
1914年6月28日、オーストリアの皇位継承者フランツ・フェルディナントとその妻がサラエボを視察中に、ボスニア系セルビア人の青年ガヴリロ・プリンツィプによって暗殺。犯行グループの一人ダニロ・イリイッチの自白により、武器がセルビア政府の支給品であることがわかった。
これによりオーストリアがセルビア政府に宣戦布告したことが、第一次世界大戦の直接的な引き金となっている。
かなりざっくりとした説明だが、現在のボスニア・ヘルツェゴビナで実行犯ガヴリロ・プリンツィプをテロリストと見なすか、英雄と見なすか、その評価が割れていることだけ押さえてもらえれば十分だ。ここに映画のキャッチコピーが重ねられているという事実だけで。
決してセルビア人すべてがサラエヴォ事件を肯定するわけではないが、感情的にセルビア人にとって彼は英雄となる傾向が強い。それを最も象徴したのが、セルビア大統領によるサラエヴォで行われた記念式典への不参加表明だった。
「プリンツィプは英雄であり、ヨーロッパにまたがる暴君・殺人者による奴隷支配からの解放の象徴である」
セルビア大統領トミスラヴ・ニコリッチ
作品データ
原題 | 『Smrt u Sarajevu』 |
---|---|
製作国 | フランス・ボスニア ヘルツェゴビナ |
製作年 | 2016年 |
公開日 | 2017年3月25日 |
上映時間 | 85分 |
原作 | 戯曲『ホテル・ヨーロッパ』 ベルナール=アンリ・レヴィ |
キャスト
キャスト | ジャック・ウェバー |
---|---|
スネジャナ・ビドビッチ | |
イズディン・バイロビッチ | |
ベドラナ・セクサン | |
ムハメド・ハジョビッチ | |
ファケタ・サリフベゴビッチ・アブダギッチ | |
エディン・アブダギッチ | |
アレクサンダル・セクサン | |
リヤド・グボズデン |
監督・スタッフ
監督 | ダニス・タノビッチ |
---|---|
脚本 | ダニス・タノビッチ |
製作 | フランソワ・マルゴラン |
アムラ・バクシッチ・チャモ |