『河童のクゥと夏休み』『クレヨンしんちゃんシリーズ』など、大人が泣けるアニメ作家として有名な原恵一監督が、自身が敬愛してやまない杉浦日向子の漫画作品を長編映画化。
- 製作:2015年,日本
- 日本公開:2015年5月9日
- 原作:漫画『百日紅』杉浦日向子
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 原作者、杉浦日向子
- 3.2 原作「百日紅(さるすべり)」
- 3.3 原恵一が映画化
予告
あらすじ
浮世絵師・お栄は父であり師匠でもある葛飾北斎とともに絵を描いて暮らしている。雑然とした家に集う善次郎や国直と騒いだり、犬と寝転んだり、離れて暮らす妹・お猶と出かけたりしながら絵師としての人生を謳歌している。
今日も江戸は両国橋や吉原、火事、妖怪騒ぎなど、喜怒哀楽に満ち溢れている。恋に不器用なお栄は、絵に色気がないと言われて落ち込むが、絵を書く事をあきらめるつもりはない。そして、百日紅が咲く季節が再びやってくる。嵐の予感とともに・・・。
映画を見る前に知っておきたいこと
原作者、杉浦日向子
原恵一監督が敬愛して止まなかった杉浦日向子とはどんな人物だったのだろうか。彼女は1980年代に活躍した漫画家で、浮世絵を下地にした独特の画風で、江戸の風俗を生き生きと描くことを得意とした。歴史的な過去のものを描いた作品が、史実として適正なものかどうかを検証する”時代考証”にも長けていて、彼女の作品はしばしば「文学漫画」と呼ばれていたりもする。
おっとりした見た目と違い、性格は豪放磊落で男性的だったらしい。1993年に漫画家を引退し「隠遁生活をする」と発表。以後は江戸風俗や浮世絵の研究家として、またエッセイストとしても活動した。2005年に下咽頭癌のため死去。担当していたTV番組を「念願だった豪華客船で世界一周旅行にでる」と言って降板したが、死後に実は闘病していた事が分かった。同時に、漫画家を引退した時にも実は闘病しており、体力の無理が効かなくなったことも明らかにされた。彼女の人柄がありありと浮かんでくるエピソードだ。
原作「百日紅(さるすべり)」
この映画の原作となった「百日紅」は1983年から1987年まで連載された連作短編集。奇行の絵師・葛飾北斎とその娘・お栄、そして居候の善次郎の3人の生活を軸に人情、恋愛など、江戸に生きる人々の様々な人間模様を描いた傑作だ。
凄まじい描画力と演出力、長編連載としての構成力に加え、圧倒的なオリジナリティによって連載から20年が経つ今でもその新鮮さは全く失われておらず、多くの人に愛されている。単行本は全3巻だが絶版となっており、今はちくま文庫から上下2巻が発売されている。
代表作「百物語」
話はそれるが、その他、彼女の代表作として「百物語」がある。百物語と銘打ってあるが、実際には99話の怪談短編集。この作品の特徴は、短編すべての話が物語の一部だけを切り取って終わっている点だ。この中途半端、無責任とも言える表現にみんなが口を揃えて言う。「背筋が凍った」と。
原恵一が映画化
さて、杉浦日向子がどんな人物か、どんな漫画を描くのかが分かったところで映画の話に戻ろう。今回、百日紅を映画化するのは原恵一監督だ。児童文学をアニメ化した『河童とクゥの物語』、森絵都の同名小説を映画化した『カラフル』などで特に評価を高め、作品の受賞歴は飛ぶ鳥を落とす勢い。
”日本PTA全国協議会の子供に見せたくない番組ランキング”トップ常連でもある『クレヨンしんちゃん』で、文化庁から文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞という評価を受けたことはかなり話題になった。
現代のアニメを「気持ち悪いキャラや、それに合わせて気持ち悪い声を出す声優や、勘違いした演出家などが放つ自意識過剰なナルシシズムとかろくでもないもの」と断じ、現代のアニメ界へのアンチテーゼのような作風で業界内でも多くのファンを持つ人物だ。その点、アニメというだけで敬遠してしまう人にも楽しめるアニメ映画だと思う。
そして、日常の情緒を描くのを得意とする原恵一監督に、まさに「百日紅」はうってつけ。どんな作品に仕上がっているのか楽しみだ。