結婚45周年を迎える夫婦ジェフとケイトの絆と愛情を描いた知的で感動的なドラマ。夫のもとに届いた一通の手紙に記されていたのは元恋人の遺体が発見されたという事実だった。それをきっかけに夫は過去の想いに酔いしれ、妻は存在しない女性への嫉妬と夫への不信感を募らせていく。心のさざなみは次第に大きくなり、やがては堤防を決壊させる。妻の心は目覚め、夫は眠り続ける……
監督は同性愛をテーマにした『ウィークエンド』(2011)を手掛けたアンドリュー・ヘイ。夫婦ジェフとケイトを演じるのは戦後イギリス映画の黄金期を代表する二人の名優、シャーロット・ランプリングとトム・コートネイ。二人の演技は第65回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(主演男優賞と主演女優賞)をダブル受賞している。第88回アカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされた。
鋭い切り口で結婚や愛について深く考察した2016年のイギリス映画の傑作。
- 製作:2015年,イギリス
- 日本公開:2016年4月9日
- 上映時間:95分
- 原題:『45 Years』
- 原作:短編小説「イン・アナザー・カントリー」デヴィッド・コンスタンティン
Contents
予告
あらすじ
イギリスの小さな地方都市に暮らす夫婦ジェフとケイトは土曜日に結婚45周年の記念パーティーを控えていた。しかし月曜日、ジェフのもとに一通の手紙が届いたことで45年間の夫婦の関係性は大きく変わっていくこととなる。その手紙はスイスの警察からで、50年以上前、雪山でジェフの元恋人カチャの遺体が発見されたという内容であった。カチャはクレパスに落ち、行方不明となっていたが、温暖化により雪が溶け、当時の姿のまま発見された。ジェフが「ぼくのカチャ」と不用意に口にした時、二人の関係に変化が訪れる……
「彼女が生きていたら、結婚してた?」
「そのつもりだった。」
ケイトに事情を説明するジェフは目の前の妻の存在を忘れ、上の空となっている。ケイトは家の中に冷たいものが入り込むのを感じる。祝賀会の下打ち合わせに出掛けたケイトは、時計店でスイス製の高級時計を見つける。45周年の記念に夫にふさわしいと思い、家に電話を掛けるが、夫は出ない。何かに気を取られて電話に出られないのだと察し、ケイトの気持ちに陰りが生まれていく。ケイトが家に戻ると、ジェフはいつもの夫に戻っていた。しかし夕食の席で、ジェフはケイトにカチャとの出来事を語り出す。警察には夫婦と言ってあり、カチャはおもちゃのような指輪を左手の薬指にしていた、と。ケイトは余裕の表情でやり過ごすが、内心は存在しない女性への嫉妬心と夫への拭いきれない不信感を募らせていた……
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映画を見る前に知っておきたいこと
シャーロット・ランプリングとトム・コートネイの演技
本作の最大の見所はイギリス映画界の名優二人、シャーロット・ランプリングとトム・コートネイの演技だ。そして、それなくしてこの映画は成立しない。
それを物語るのが本作の賞レースでの評価だ。数々の映画祭で受賞した賞の多くは女優賞と男優賞だった。中でも2015年のベルリン国際映画祭での銀熊賞(主演男優賞と主演女優賞)ダブル受賞はそれを象徴したような快挙だった。同一作品で主演男優賞と主演女優賞を受賞するというのはかなり稀である。しかもそれが世界三大映画祭となるとなおさらだ。
この作品で扱うテーマは愛や結婚というものではあるが、夫婦の深い関係性と感情から描いた複雑なものだ。45年間も連れ添った夫婦というのは独自の関係性が築かれているため、それだけでも演じる側は深い演技を要求される。それに加え、夫婦の間に投下された問題が二人の心をさざなみのように揺らしていく。
妻は存在しない女性への嫉妬心と夫への拭いきれない不信感を募らせ、夫は亡き恋人への想いを蘇らせる。これらの感情には悪意がないため複雑で繊細なものだ。アンドリュー・ヘイ監督自身もこの映画に悪役はいないと語る。描かれるのはあくまで自意識にもがく人間である。
これらの要素が、愛や結婚というテーマを深く考察した作品にしているのだ。シャーロット・ランプリングとトム・コートネイの演技が素晴らしいほど、その考察は恐ろしささえ感じさせる。一言で言ってしまえばリアリティがある。
アンドリュー・ヘイ監督が描く愛
本作を手掛けたアンドリュー・ヘイ監督は自身も同性愛者であることから同性愛をテーマにした作品を撮っている。前作『ウィークエンド』(2011)はゲイの青年二人のラブストーリーであったし、米HBOドラマ『LOOKING』ではサンフランシスコに住むゲイ達の友情を描いた。『ウィークエンド』は東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映され喝采を浴びている。
アンドリュー・ヘイ監督がここにきて、熟年夫婦の愛を描くというのは始めは少し意外に感じたが、本作で扱われる愛は単純な恋愛感情ではなく、関係性や信頼が重要になっているため実際はまったく違和感がなく、むしろアンドリュー・ヘイ監督の畑であると感じた。
シャーロット・ランプリングとトム・コートネイの演技を引き出したのは、アンドリュー・ヘイ監督の脚本や演出あってのことだと実感させられた。