世界的な人気を誇る英BBCドラマ「SHERLOCK シャーロック」の劇場版。本国イギリスとアメリカでは2016年の元日に放送された特別編を、日本では劇場で公開する。この事からも日本での人気の高さが伺える。
「SHERLOCK シャーロック」は、これまで長編3話の3シーズン、計9話が放送されてきた。今回の劇場版は2016年に放送されるシーズン4に向けての特別編ということらしい。
劇場では、90分の本編に加えて、「脚本家スティーブン・モファットと巡るベーカー街221Bの旅」(5分)、「シャーロック製作の裏側 主要キャスト・スタッフとともに」(15分)が上映される、ファンには堪らない内容となっている。
- 製作:2015年,イギリス
- 日本公開:2015年2月19日
- 上映時間:115分
- 原題:『Sherlock: The Abominable Bride』
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 ついに見てしまった海外ドラマ
- 3.2 なぜこんなにヒットしたのか?
- 3.3 なのになぜか舞台は1895年
予告
あらすじ
1985年、ロンドン。
トーマス・リコレッティは、古いウエディングドレスを纏った妻の姿を見て驚きを隠せなかった。なぜなら彼女は、つい数時間前に自ら命を絶ったばかりだったからだ。
リコレッティ夫人の幽霊は、癒されることのない復讐への執念をまとい路地を徘徊する。霧に覆われたライムハウスから荒廃した教会の跡地・・・
ホームズとワトソン、そして彼らの友人たちは、冥界からやってきた敵を相手に頭脳船を繰り広げる。
そしてついに明かされる、忌まわしき花嫁の驚くべき真実とは――。
映画を見る前に知っておきたいこと
ついに見てしまった海外ドラマ
僕自身は、実は海外ドラマはあまり好きではない。
理由は、面白くないというのとは真逆で、続きが気になって止まらなくなるから。1シーズンだけでも日本人のわずかで貴重な休日を食い潰すには十分なほど長いのに、それが2、3、4といつまでも続いていく。
しかもどこまで行ってもスッキリと終わる回はなく、必ず後に引きずる何かを残して終わる。そして次がまた見たくなるというループから抜け出せなくなる。作品の出来に関わらず、どんなクソドラマでも必ずと言っていいほどこのループにはめられる上に、どんなに評判が良い作品も後に残るものは特になかったりする。
そんなわけで、ついに海外ドラマと銘のつくものには絶対に手を出さなくなってしまった。
しかもこの「SHERLOCK」ドラマシリーズは、“もしもあのシャーロック・ホームズが現代で活躍したとしたら”という空想に基づいて作られた物語で、あのシャーロック・ホームズがスマホやらPCやらの現代ITを駆使して大立ち回りを演じてみせるという内容。
そんなもん誰がどうやったって面白いに決まってるじゃないですか!
というわけで「SHERLOCK」だけは絶対に見ないぞ!と、どれだけ人に進められても適当に話を合わせて頑なに流していたのだが、ネットに山積している感想などを呼んでいるとまぁ評判のよろしいことで。
ドラマ好きはもちろん、クオリティと気の利いた小ネタでシャーロック・ホームズマニアまで唸らせているようで、みんながあんまりにも楽しそうに語るもんだから、ついに借りてきて見てしまった。
いやー面白い。尻切れトンボで次回に引きずる感じもなく、ちゃんと謎を解いてしっかり終わる。キャラクターがそれぞれに魅力的で、ワンカットそれぞれに見所がギュッと詰まっていて、単純に面白い。
続きが気になって惰性で見て疲れる感じもなく、ちゃんとエンターテイメントしてる。海外ドラマの評価を改める作品になりました。
なぜこんなにヒットしたのか?
英国アカデミー賞12部門、エミー賞7部門。ハッキリと“総なめ”と言っていいほどの評価とその人気ぶりから、もはやクオリティについて多くを語る必要はない。
しかし、それだけで世界的な人気を誇ることは到底無理である。だって、2015年のアカデミー関連の賞レースを制した『バードマン (あるいは無知がもたらす奇跡』は素晴らしい映画だったけれども、一般的には見向きもされていないもの。
というわけで、作品の出来を抜きにして「なぜこれほどまでに人気が出たのか」という事についてあれやこれやと考えてみた。
その秘密は“研究”の奥深さ
世の中には“シャーロキアン”と呼ばれる人たちがいることをご存知だろうか。
シャーロック・ホームズの熱狂的なファンを指す言葉で、その熱狂ぶりはコナン・ドイルの発表した長編4編、短編56編の計60編を正典とし、愛読するあまりシャーロック・ホームズを学問として研究してまうほど。
一般の人はもちろん、小説家、医者や弁護士、学者など様々な分野の知識人が集まり、「シャーロック・ホームズ」に登場する人物、動物、現象、書籍など、本当にいろんなことを考証・研究している。
これらの研究は「ゲーム」と呼ばれ、真面目一辺倒の考証よりも屁理屈とユーモアが大事にされる、ある種の知的パズルの趣を帯びている。研究というと、何か大仰なことのように思えるが、つまるところキリスト教における聖書研究を意識的に真似て遊んでいるだけである。
そういった“研究”を嗜む会は世界中にあり、古くは1934年にアメリカで発足したBSI(ベイカー・ストリート・イレギュラーズ)から、1977年には日本でも日本シャーロック・ホームズ・クラブが立ち上がり、毎年懇親と研究向上を目指した大会が開かれている。
この様に、“シャーロキアン”とは単なるファンとは別の次元にいらっしゃる方々のことを言う。
そして『SHERLOCK』は、「もし現代にシャーロック・ホームズが実在したら」というシャーロキアン達がご馳走を囲ってわいのわいの語ってそうな“研究”内容を、ハイクオリティドラマとして世界を巻き込んでやっちゃおうという企画である。
これがどこまでもこじつけられていて面白い。どれくらい面白いかと言うと、正典を読んだことはおろか、関連作品も何も見たことがない僕ですら、シャーロック・ホームズについてあれこれ語りたくなる程度には面白い。
証拠に、これを機に正典を読んでみたいと思った人、あるいは読んだという人は世界中にいる。そしてきっと、ドラマを見てから正典を読んでも、あるいは正典を読んでからドラマを見ても、どちらもより面白くなるに違いない。
『SHERLOCK』の面白さの秘密は、「もし現代にシャーロック・ホームズが実在したら」という“研究”の奥深さに支えられている。
ともあれ設定を抜きにしても単純に出来が良いので、ドラマ版を見たことがない人も十分に楽しめると思う。ベネディクトが演じるホームズは最高のハマリ役と称されたジェレミー・ブレットと並べて称される程の評価を得ているし、それだけでも見る価値がある。
そうだ、ジェレミー・ブレッドといえば、同じ役を演じたベネディクト・カンバーバッチをはじめ、「SEARLCOK シャーロック」はジェレミー・ブレッドに、またこれまでのシャーロック・ホームズの二次創作に対して大きなリスペクトを捧げている。
観客と同じ“シャーロック・ホームズのファン”という目線をさり気なく表現してくれるのもまた、人気の秘密なんだろう。
なのになぜか舞台は1895年
“現代の”という新鮮なシャーロック・ホームズ象が売りなのに、映画の舞台は1895年。原作のシャーロック・ホームズが生きた時代である。なぜなのか。
1895年のヴィクトリア朝と言えばゴシック・ホラー。それで幽霊ネタか。その辺りのことを考えると、制作側もこの舞台設定には特別な思いがあるようだ。
好きすぎてやっちまった
舞台を1895年に設定した理由のひとつは、作り手が生粋のシャーロキアンであること。お互いに脚本家であり、本作の共同制作者でもあるスティーブン・モファットとマーク・ゲイティスが、正典が好きすぎてやっちまった!というので大体正解のようだ。
特別編ということで、本編とは少し離れて色々試せる環境だったこともあって、ブレーキが利かなかったのかも。劇場で公開される特別映像では、その辺りの事情も詳しく語られるらしい。
意外にもファンの評価は上々なようで、ベネディクト・カンバーバッチのホームズを1895年で作りたい!という二人の正典傾倒に、「分かる!!」の声多数。
(もしあのシャーロック・ホームズが現代にいたら!!)→(もしあの現代にいたシャーロック・ホームズが1895年にいたら!!)と、一周回ってきて「普通か!!」とツッコミたくなる気もするが、ドラマ版を見た自分も実は「分かる」派。
しかしながら、ストーリーの中でどう辻褄を合わせているのかについては、あまり情報がない。劇中で語られるのか、それともシーズン4で語られるのか、期待が膨らむところである。
予告編の「所詮は19世紀だ」の台詞から、一応21世紀のホームズとワトソンであることは察しがつくが・・・。
今世紀最高も糞もあるか、20世紀最高と言うだろうが今世紀でも故ジェレミーブレットこそが最高のホームズだ