映画を観る前に知っておきたいこと

【親密すぎるうちあけ話】恋愛はミステリー。一風変わった大人の恋の駆け引き。

投稿日:2015年11月27日 更新日:

親密すぎるうちあけ話

精神科医と間違えて税理士の事務所に通う女の赤裸々な話を、当惑しながらも話を聞き続ける男の奇妙なラブストーリー。ラブロマンスというよりはミステリーに近い作品で、監督自身は本作を「感情ミステリー」と表現している。

監督は『髪結いの亭主』『仕立て屋の恋』のパトリス・ルコント。ミステリアスな女性を描かせたら彼の右に出る者はいない。

『マドモワゼル』のサンドリーヌ・ボネール、『バルニーのちょっとした心配事』のファブリス・ルキーニの緊張感のある恋の駆け引きにも注目。

  • 製作:2004年,フランス
  • 日本公開:2006年6月10日
  • 上映時間:103分
  • 原題:『Confidences Trop Intimes/Intimate Strangers』

あらすじ

パリのアパートの6階の一室。税理士を営むウィリアムのもとに、ある女が尋ねてくる。女どこか不安げな様子で「6時に約束してある」と語るが、ウィリアムには覚えがない。

とりあえず中に通して話を聞くと、彼女は夫との関係について悩んでいるとプライベートを赤裸々に語りだすのだった。

その様子を見て同じ階の精神科医であるモニカ医師の部屋と間違えたのだと気付くも、女は次の予約をして早々とオフィスから立ち去っていった。

こうして、二人の奇妙な関係が始まった。

2週目、約束の時間に女は現れた。誤解を解こうとするウィリアムだったが、彼の言葉を待つことなく彼女は語りだす。

前回よりも刺激的な性の相談に当惑するウィリアム。誤解を解こうと「医者ではない」と声をかけるが、彼女は「セラピストが医者とは限りませんものね」と良い残し去っていく。

3週目、女は現れなかった。ウィリアムは最初にモニカ医師のもとに電話したのであれば、彼女の連絡先が残されているだろう考え彼の部屋に向かうが・・・。

映画を見る前に知っておきたいこと

パトリス・ルコント監督がポジティブな映画を描く

フランスの巨匠として世界中に名を知られる監督。ドラマティックで悲劇的、そして官能的な作品で有名。

そんなルコント監督が本作については「ハッピーエンドの作品を描きたかった。」と笑いながら言っていた。以来、ずいぶん歳をとって楽観的になってきたのか、最近ではポジティブな作品も割と多い。

僕の中で彼は名台詞量産監督の一人で、彼の映画一本一本に一生残るクラスの名台詞がある。中でも、『列車に乗った男』のこの台詞が一番好き。

「歳は取るほどに輝きを増すものだ」

漫画家として雑誌社で働いていた経歴を持つからか、どことなし現実味のないぶっ飛んだ設定を持つ映画が多い。

『髪結いの亭主』なんかはモロにそんな感じ。どうしても美容師と結婚したいというのが一生の夢で、その夢を爺になっても持ち続けてる人なんて、映画を離れて冷静に考えたら「やべー人」である。

毎回設定が変わっていて面白いので、冒頭からいきなり物語に入り込めるのも多くの人に愛される理由のひとつだろうか。

加えて本作のようにちょっとした偶然をきっかけにストーリーが展開していく手法はそう珍しいものではないが、小さなきっかけから見せる広がりと深みはルコント作品の特筆すべき特徴である。

感想・批評

前述したが『髪結いの亭主』や『列車に乗った男』もそうだけど、「もしもこうだったら」という実際にありそうでなさそうな映画らしい発想がもとになっている脚本は、パトリス・ルコント監督作品の面白いところ。

この物語は簡単に言えば、精神科医と間違えて税理士にプライベートな相談をしまくって、その二人がどんどん親密になっていく話だ。

「そんなやつおらんやろ!!!」と思ってしまうが、今回はその辺にリアリティを持たせる描写もちゃんと用意されているので、安心して見られる。

本編は大人のラブストーリーと言えばそうだし、ミステリーのようなサイコスリラーのような、はたまたコメディのような・・・不思議な映画だった。

監督本人は本作を「感情ミステリー」と表現しているが、その表現は秀逸。なるほど納得の出来。

悪戯好きのフランスの名匠

最初は夫との関係に悩む女のうちあけ話だったはずの話が、物語が進むうちに主題がコロコロと入れ替わり、複雑に入り混じっていく。不思議とその様子がなんとも滑稽にも思える。

序盤で夫との冷え切った関係を語るアンナは、税理士ウィリアムに悩みを打ち明けるうちに、どんどんファッショナブルで女らしくなっていく。ミステリアスで官能的なんだけど、やっぱりどことなし滑稽だ。

作品全体に見られるユーモアは、おそらく飽くまで物語を客観的な目線で描いているからだと思う。それはラストシーンのカットに顕著に現れている。

他人の恋愛事情は、関係のない人間からすれば滑稽に見えるものだ。そしてユーモアとは限りない客観性から生まれるものである。

この辺の目線が、ワシントン・ポスト誌に「悪戯好きの名匠」と評価される所以だろうか。いやらしい!

ちょっと変わった大人の恋の駆け引き

果たして重大な悩みを抱えているのは女だけではない。というより物語の主人公はこの男。

男もそれなりに色々と抱えているが、彼はそれを自覚していないのか、それとも表に出せないのか。性を赤裸々に語る女たちに対して、ウィリアムはそれこそ少年の様に目を丸くして立ち竦むことしか出来ない。

彼の純朴さというか、精神的な幼稚さは劇中で詳しくは語られないが、オモチャというアイコンで暗喩的に表現される。女を含めて、回りの出来事に流されまくるウィリアムに自分を重ねる男はきっと多い。

そんなウィリアムも、アンナとのやり取りに救われて新しい一歩を踏み出していく。生まれてから何十年も踏み出せなかった一歩を。

そして迎えるラストシーンがまたドラマチックなんだが、そのドラマチックさが秀逸と言うかなんと言うか。「ドーン!!」じゃなくて「ホッ」って感じのおフランスらしい洒落たドラマチックさ。

ともあれ単純にSHOWとしても、興味深いという意味でも面白い映画だった。

しかし「愛しているよ」と情熱的に囁きあう濃ゆいラブロマンスを期待してみると肩透かしを食らうかも。

ちょっと変わった大人の恋の駆け引きを見たい人へ。

「男は大勢いると言うけれど、きっとそんなにはいないわ。」

ジャンヌ

-ミステリー・サスペンス, 洋画
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