90年代世界的なブームとなったグランジを代表するロックバンド「ニルヴァーナ」のボーカルであるカート・コバーンの死の真相を追求したドキュメンタリー。
1994年4月5日にショットガンで頭部を撃ち抜いたカートの死は、自殺と断定されているものの多くの謎を残したままである。
妻コートニー・ラブが事件の数日前に雇った私立探偵トム・グラントはその後の約20年にわたって独自の捜査を続け、驚くべき仮説に辿り着く。それは、“カートの死にはコートニーが関わっている”というものだった。
映画では、捜査資料や関係者へのインタビュー、事件前後のコートニーの音声や専門家によるカートの遺書の筆跡鑑定などから真実に近づいていく。
この映画を観た者だけが知ることになるだろう……
- 製作:2015年,アメリカ
- 日本公開:2015年12月12日
- 上映時間:89分
- 原題:『Soaked in Bleach』
Contents
予告
あらすじ
1994年4月3日(日)、私立探偵トム・グラントのもとに1本の電話がかかってくる。電話の主はコートニー・ラヴ。行方不明の夫=カート・コバーンを探して欲しいというのだ。
ロサンゼルスのホテルに滞在中のコートニーを訪ねて話をするが、どの話も筋が通らないと感じたトムは、「怪しいからすべて記録しておこう」とアシスタントに告げる。翌日、再びコートニーから話を聞いたトムは、彼女の口から、カートが離婚したがっていることを明かされる。
しかし彼女はそんな悲劇的な状況を、自分のバンド「ホール」の新作を宣伝するために利用しようとしていることまで、何のためらいもなく話した。6日(水)、カートの自宅があるシアトルに向かったトムは、カートの親友ディラン・カールソンに協力を依頼し、共に捜索することとなる。
7日(木)、自殺の可能性を考えた二人は、カートが寝室に隠しているショットガンを取り上げるべく自宅を訪れた。しかし、そこにカートの姿はなく、ショットガンも発見できなかった。
8日(金)、自宅でカートの遺体が発見される。第一発見者は、防犯ライトの設置のため自宅にやって来た電気技師だった。トムとディランは、手がかりを求めてシアトル郊外にある夫妻の山小屋に向かう途中で、この報せを聞いた。
物語前半は、トムがコートニーに雇われてからカートの遺体が発見されるまでの一連の流れを、トムが保管していた実際の録音音声を交えながら追っていく。
そして後半では、警察が出したあまりに性急な判断、カートが摂取していた致死量の3倍のヘロインの量、薬きょうが落ちていた位置、不自然な遺書、ローマでのカート自殺未遂(94年3月4日)の真相、夫妻の弁護士が明かす新事実など、専門家たちの証言を交えつつ、あらゆる角度から細部を検証することによって他殺説を立証していく。
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映画を見る前に知っておきたいこと
カート・コバーン
90年代のグランジと言っても、わからない世代も増えてきた。しかし、その時代にロックに熱中していた世代にとっては、とてつもなく大きなムーブメントだった。その代表格が「ニルヴァーナ」であり、フロントマンだったカート・コバーンはカリスマそのものだった。当時カートが着ていたボロボロのジーンズやネルシャツは古着ブームとなった。もともと金銭的に余裕がないためそうした格好をしていたのだが、それすらも若者には格好良く見えたものだ。音楽も含めその退廃的な空気は、あの当時のロックファンにとってあまりにもリアルな存在であった。
「ニルヴァーナ」は正規のアルバムは3枚しかないのだが、世界で7500万枚のセールスを記録している。中でも2ndアルバム「ネヴァーマインド」は4000万枚という驚異的なヒットとなり、シングルの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」はMTVでもヘビーローテションで流れていた。知らない人はいないぐらい時代を代表する曲だった。この映画を見るような人にとってこんな説明はまったく不要だろうが、もしカートを知らない人がいたらそれほどの男だということだけ理解していてほしい。
NIRVANA – Smells Like Teen Spirit (HD) (Live at the Paramount 1991)
これはただの商業的な映画なのか?真実を訴える映画なのか!?
90年代、あの世代にとってカート・コバーンはジョン・レノンのような存在だった。そしてファンはあの自殺に悲しみ、今ではロック史における一つの伝説の生き証人としてカートの死を受け入れているのではないだろうか。
本作は、そんなファンの気持ちを蒸し返すような問題作である。
この作品の是も非も、“カートの死にはコートニーが関わっている”という仮説がどれほど信憑性があるかに懸かっている。これまでカートの死については他殺説もしばしば囁かれてきたこどだし、有名人の自殺にはこの手の話は付き物だ。
これほどショッキングなテーマを映画で扱うこと自体が商業的な戦略であるような気もしてくる。その反面、実際に他殺であるとすれば、それは業界を揺るがすほどのスキャンダルである。
これはニュースではなく、あくまでドキュメンタリー映画による検証なので、そこに明確な答えはないだろう。映画を見た人が、「ニルヴァーナ」のファンが、各々で判断するしかない。
ただそんな中で、この映画をきな臭いものと無視できない事実もある。それはトム・グラントという一人の男がこの事件の真相を追い求めることに人生を捧げているということだ。何も疑問がなければ20年も調査することなどあり得ないと思う。
またカートの自殺の動機は、あまりにもバンドが売れ過ぎたことで、本来の自分とメディアに作られた自分の差に大きな戸惑いを感じ精神を病んだことだと考えられている。それはファンも納得できるものであったが、コートニーにも同じぐらい納得できるカート殺害の動機があるのも事実である。カートがコートニーと娘に残した遺産は約530億円とも言われている。また、共犯と考えられている当時の子守りアシスタントだったマイケル・デウィットはコートニーの元恋人でもある。
ちなみにトム・グラントの証言により、カート他殺説はこの映画で問題定義されただけではない。2014年現在もシアトル警察による捜査は再び続行されることとなっている。
果たしてこの映画は商業的な戦略を多く含むものなのか、それとも絶対に社会に訴えなければならない真実を伝えるために作られたのか、見た人には是非そこを判断してみてほしい。
この事件は私の人生を永遠に変えてしまった。
カート・コバーンの名は、毎日300〜400回、私の頭をよぎります。トム・グラント
カート・コバーンのソロ・アルバム発売
本作とは別のカート・コバーンのドキュメンタリー映画『COBAIN:モンタージュ・オブ・ヘック』のアメリカ公開に合わせて11月6日にカート・コバーンのソロ・アルバムが発売されるという。この映画を制作する上で出てきた未発表音源から作られたようで、全曲ボーカルとギターのみで構成されているだけではなく、完成している曲もないという異様な作品のようだ。作品というのも間違っているかもしれない。
ファンも嬉しさと嫌悪感が半々なのではないだろうか。「カートのリビングルームにお邪魔して、カートが弾いているのを眺めているような作品になる」と言われているが、アルバムとしては成立していないような気がする。商業的な話なら蛇足になるのでやめてほしいものだ。それでも聴いてしまうという矛盾は仕方ないとしても、もうカートの伝説は完結してもいいだろう。本当にファンが望んでいるかは疑問である。