『トレーニング デイ』(01)『エンド・オブ・ホワイトハウス』(13)を手掛けたアントワーン・フークア監督最新作は、どん底まで落ちたボクサーの再生、亡き妻との強い絆、娘と父親が成長していく姿を描いた感動のヒューマンドラマだ。
全てをなくしたボクシングの元世界チャンピオン、彼は亡き妻との最愛の一人娘のため過去の自分に打ち勝ち、再びリングを目指す。変われないことなんて、何もない。
主演として無敵のチャンピオン・ビリーを演じるのは、『ブロークバック・マウンテン』(05)でアカデミー賞にノミネートされ、『ナイトクローラー』(15)で批評家に絶賛された怪演も記憶に新しいジェイク・ギレンホール。半年に渡るプロボクサー並みのトレーニングで肉体改造を行い、ノースタントでファイトシーンに挑んだ演技は圧巻だ。そして、凶暴性を内に秘めるビリーを支える美しい妻モーリーンを演じたのは、2016年アカデミー賞作品賞を受賞し、今年一番の話題作でもある『スポットライト 世紀のスクープ』にも出演していたレイチェル・マクアダムス。この作品で自身もアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。さらに、ビリーのボクシングトレーナーで彼の再生への大きな手助けとなるティック役には、『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)でアカデミー賞主演男優賞を獲得したフォレスト・ウィテカー。
主題歌は、あのエミネムが本作のために書き下ろした曲「Phenomenal」が使われ、さらにサウンドトラックのエグゼクティブ・プロデューサーまで務めている。
- 製作:2015年,アメリカ
- 日本公開:2016年6月3日
- 上映時間:124分
- 原題:『Southpaw』
Contents
予告
あらすじ
無敗の世界ライトヘビー級王者ビリー“ザ・グレート”ホープは、ボクシングの聖地マディソン・スクエア・ガーデンで行われた試合で強烈な右で逆転KOを決め、世間の脚光を浴びていた。ビリーのファイトは怒りに任せた過激なスタイルだった。しかしそれ故、ビリーを支える妻モーリーンと娘レイラの心配は絶えなかった。そして、そんなビリーの性格が引き金となり起こったトラブルで、最愛の妻モーリーンを亡くしてしまう。悲しみに暮れ自暴自棄な生活を送るビリーは世界チャンピオンの称号を失い、収入を断たれ家を処分することになる。その結果、最愛の娘レイラは施設で保護されることとなる。信頼していた仲間も離れて行き、ビリーはすべてを失ってしまう。
明日の生活にさえ困るどん底の境遇の中、ビリーは第一線を退き古いジムを営むティックに救いの手を求める。彼は、無敗を誇った自分を唯一苦しめたボクサーを育てたトレーナーだった。
「お前にはしばらくグローブを握らせない」「お前の短気は命取りだ」「ボクシングはチェスのようなものだ」
ティックはボロボロとなった元チャンプ・ビリーへ罵詈雑言を浴びせる。しかし、その言葉にはビリーが再生するためのヒントが隠されていた。やがてビリーは、過去の自分と向き合い始める。そして、闇の中に光を見出していく。「娘を取り戻したい」と願うビリーはプライドも名声もかなぐり捨て、父親として、ボクサーとして最愛の娘のために自分を変え、再びリングを目指すことを決意する。そして、ティックは復活のための秘策をビリーに授けるのだった……
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映画を見る前に知っておきたいこと
エミネムファン必見の映画
本作は、1931年に巨匠キング・ヴィダーが監督した『チャンプ』をリメイクした1979年の名作『チャンプ』をさらにリメイクしたものだ。(カリフォルニア大学の心理学教授によると1979年の『チャンプ』のラストシーンは確実に人を泣かせる確立が高いという研究結果があるらしい)そして、この企画を発案したのがあのエミネムであった。それにより本作はただのリメイクに留まらず、エミネムの人生を投影した内容となっている。
例えばビリーの妻モーリーンが射殺されるシーンは、2006年にエミネムも参加するヒップホップユニットD12のメンバーである親友のプルーフがクラブでのケンカを発端に射殺された事件が基となっている。
結果的にエミネムは自身のアルバム制作のため、映画の制作自体には携わっていないが、サウンドトラックアルバムのエグゼクティブ・プロデューサーとして映画用に主題歌を書き下ろしている。そういう意味ではエミネムファン必見の要素が揃った作品と言える。
『サウスポー』主題歌 エミネム Phenomenal
ジェイク・ギレンホールがもたらしたボクシング映画としてのリアリティ
本作の監督アントワーン・フークア、主演のジェイク・ギレンホール、脚本家のカート・サッターは、『サウスポー』は1人の男のボクシングストーリーではなく、誰もが共感できる家族と個人の苦難と再生の物語だと語っている。この作品の大きなテーマは“父性”であり、それもエミネムと彼の娘ヘイリー・ジェイドがモチーフとなっている。
しかしその反面、この映画の見所は、誰もが共感できる感動作でありながら、それを表現するためのボクシングという媒体を徹底的にリアルに映し出していることだ。それは、ジェイク・ギレンホールによるノースタントでの演技や、忠実にボクシングの世界を再現することを目指したカメラワークだけではない。
アントワーン・フークア監督は自身もボクサーであり、日々のトレーニングだけでなく、リングで試合やスパーリングを経験している。ボクサーなのでボクシングへの理解の深さは当然だ。
そんなアントワーン・フークア監督と二人三脚でジェイク・ギレンホールの役作りは徹底して行われ、半年間ボクシングにだけ時間を費やした。本作での彼の肉体には感心するが、それはプロボクサー並みの練習と環境が生み出した産物だ。しかし、彼が本作で見せる演技の真骨頂はこうした役作りの過程で生まれたメンタルの方にある。彼は実際のボクサーたちが、精神的および肉体的に耐えている事に対して、並々ならぬ敬意を抱くようになっていった。彼は役作りの域を超えて、ボクサーの精神を共有している。そして、このことは見た目にわかる演出以上に本作にリアリティをもたらしていると思う。
「リングに足を踏み入れるときには、正真正銘、生きるか死ぬかの問題が出てくる。それは軍隊に入ることを例外にすれば、他のどんなスポーツにも、社会のどんな出来事にも見られない。それはある意味で美しい人生のメタファーがある。君は自らのリングに上がり、また同じようにそこから降りる。そしてその旅路は君自身のものだ」
ジェイク・ギレンホール
ジェイク・ギレンホールの1日2回のトレーニングメニュー
- ランニング/13㎞ 週5回
- 縄跳び/15分
- ディフェンス練習/3分×3
- パンチング練習/3分×6
- サンドバッグ打ち(動きなし)/3分×3
- サンドバッグ打ち(動きあり)/3分×3
- 腹筋/500〜1000回
- 懸垂/100回
- ディップス/100回
- 136㎏のタイヤをハンマーでたたく/3分
- 136㎏のタイヤを投げる/20回
- スクワット/100回