包丁を片手にミンチを開始!
世界各国から未公開作品ばかりを集めた映画祭、“未体験ゾーンの映画たち2017”で上映される、あの“スウィーニー・トッド”にインスパイアされたイギリス製ホラー!
ダン・プリングルが初の長編監督と脚本を務め、真面目なひとりの青年が父の死をきっかけに残酷な殺人鬼へと変貌していく姿を、悪しきイギリス文化の風刺映画として描き出す。
カミソリの代わりに包丁を、パイの代わりにケバブを……
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を観る前に知っておきたいこと
- 3.1 スウィーニー・トッドとは?
- 3.2 クルド人移民
- 4 あとがき
予告
あらすじ
ロンドン郊外のサウスコート。そこは酒、ドラッグ、セックスが蔓延する若者たちの夜の世界。街の一角に佇むケバブ屋を営むクルド人移民の親子。病気がちな父と、そんな父を支える息子サラール(ジアド・アバザ)は、それぞれの夢を抱えながら、タチの悪い客を相手に店を切り盛りしていた。
ある日、店に訪れた酒に酔った若者たちから暴行を受け、父が殺されてしまう。目撃者もいない中、サラールの訴え虚しく、父の死は事故として片付けられた。移民だから受ける社会的苦痛。犯人がわからないサラールの怒りの矛先は、いつしか街全体を覆っていく。
父の死後、一人で店を守るサラール。ある時、店内で勝手な振る舞いをする若者ともみ合いになった末に誤って殺してしまう。経営が逼迫する中、サラールは死体をケバブに変えることを思い付く……
Sponsored Link映画を観る前に知っておきたいこと
人肉ケバブや、R18+指定、そしてそれらを助長するような予告映像が映画の印象を決定付けてしまっているかもしれない。しかし、本作はイギリス映画にしばしば見られる労働階級者や移民など社会的弱者をテーマにした作品のひとつである。
これは、驚愕のリベンジホラーであると同時に、イギリスにおける移民の苦悩を映し出した社会風刺映画なのだ。また、あの“スウィーニー・トッド”にインスパイアされた……とあるが、まさにイギリスらしいホラー映画となっている。
スウィーニー・トッドとは?
スウィーニー・トッドはイギリスの都市伝説にもなっている殺人鬼であり、その存在の真偽のほどは定かではない。
トッドが最初に登場したのは1846年、イギリスの犯罪雑誌「ピープルズ・ピリオディカル」だったとされている。これ以降、19世紀中頃の様々なイギリスの怪奇小説に登場するようになった。
架空の殺人鬼とされる一方で、1802年に群集の見守る中絞首刑に処せられた実在する殺人犯だと主張する研究者たちもいる。しかし、その主張を決定付ける裁判記録も報道記録もどこにもない。
スウィーニー・トッドの物語はこうだ。
理髪師であるトッドの店の椅子にはある仕掛けが施されていた。トッドは裕福な人物を地下に落としては殺害し、身に着けていた金品を奪い取る。そして、共犯者であるパイ屋の女主人がその肉をミートパイにして客に提供する。しかし、その隠蔽工作はトッドの店で働く若い見習いの男トビアス・ラッグによって暴露される。
この大まかなストーリーを脚色した作品が多く存在するわけだが、本作もそうしたイギリスの伝統的なホラーを受け継いだ作品のひとつである。
クルド人移民
主人公・サラールはクルド人移民であり、その歴史的背景は映画に深く関わっている。
人口3000万人の山岳民族であるクルド人は、ペルシャ、アラブ、トルコ、モンゴル、ロシア、イギリス、フランスによる分割支配を受けてきた歴史がある。そのため“世界最大の独立した祖国を持たない民族”と言われている。
クルド人の居住する地域クルディスタンは、現在もトルコ、イラン、イラク、シリアの4つの国の領土となっており、サラールの故郷はイラク領の南クルディスタンであった。
彼が移民となった背景には、フセイン政権に対して自治権を要求したクルド人とイラク軍の武力闘争がある。1988年、イラク軍は毒ガスを使い5000人のクルド人を虐殺した。この惨劇の舞台となった北イラクのハラブジャという村がサラールの故郷と思われる。
こうした歴史的背景を知ることで、よりサラールを凶行に駆り立てた動機が明確に見えてくるはずだ。
あとがき
社会風刺映画の側面が強いが、そう構える必要はない。
それは、若者たちの欲望にまみれた夜の街とサラールの純粋さを交互に描写していくコントラストが、彼の行動原理を浮き彫りにし、容易にテーマを観客に擦り込んでくれるからだ。
決して観客を置き去りにするような作品ではなく、ホラー映画としても十分魅力的な1本だ。
本作以外にも、まだまだ世界の未公開作品が多くラインナップされている“未体験ゾーンの映画たち2017”。まだ見ぬ傑作、怪作を求めて、年明け早々から映画三昧も悪くない。
東京はヒューマントラスト シネマ渋谷で2017年1月7日(土)より、大阪はシネ・リーブル梅田で2017年1月21日(土)より開催を予定。
作品データ
原題 | 『K-Shop』 |
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製作国 | イギリス |
製作年 | 2016年 |
公開日 | 2016年1月31日 |
上映時間 | 120分 |
映倫区分 | R18+ |
キャスト
キャスト | ジアド・アバザ |
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スコット・ウィリアムズ | |
ダーレン・モーフィット | |
クリスティン・アザートン |
監督・スタッフ
監督 | ダン・プリングル |
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脚本 | ダン・プリングル |
製作 | アダム・J・メリフィールド |
製作総指揮 | ゲラン・ワット |
トム・リトル |