スパイでも英雄でもない。
世界三大映画祭すべてで主要賞を獲得した韓国が世界に誇る監督キム・ギドクが仕掛ける、現代の朝鮮半島情勢に真っ向から斬り込んだ社会派ヒューマン・ドラマ。
北朝鮮の漁師ナム・チョルは魚網がエンジンに絡まりボートが韓国へと流されてしまう。韓国の警察に拘束された彼を待ち受けていたのは情け容赦ない取り調べだった。妻子の元に帰りたい願う彼に対し、執拗に持ちかけられる韓国への亡命。ようやく祖国に還されたチョルは、さらに苛酷な運命を辿ることに……
一人の漁師の悲運を通して伝えられる南北の分断というテーマから浮き彫りにされる、常に犠牲を強いられ切り捨てられていくのは弱者であるという現実。取り調べ官による暴行シーンをブラインドで隠し、ギドク作品に多く見られる極端な暴力的描写を封印することで、剥き身の社会派メッセージを叩きつける!
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を観る前に知っておきたいこと
- 3.1 鬼才キム・ギドク
予告
あらすじ
北朝鮮の寒村に妻子と共に暮らす漁師ナム・チョル。その朝も、唯一の財産である小さなモーターボートで漁に出るが、魚網がエンジンに絡まり故障してしまう。ボートはチョルの意に反して、韓国側へと流されていく。韓国警察に拘束された彼は、身に覚えのないスパイ容疑をかけられ、執拗で残忍な尋問を受けることに……

© 2016 KIM Ki-duk Film.
チョルの監視役を任された青年警護官オ・ジヌは、家族の元に帰りたいという願うチョルの姿に、次第にその潔白を信じるようになる。そんな時、スパイ容疑で捕えられた別の男がチョルにソウルにいる娘への伝言を託して自ら舌を噛み切り息絶える。
やがて韓国警察は、チョルを泳がせようとソウルの繁華街に放置する。街を彷徨う彼は、家族を養い弟を大学に入れるために身を売る若い女性と出会い、経済的繁栄の陰に隠れたダークサイドに気付く。チョルは何とか探し出したかの男の娘に伝言を告げ、ジヌが待つ場所に戻るのだった。

© 2016 KIM Ki-duk Film.
ところが、街中のチョルの姿を映した映像が北に流れ、南北関係の悪化を懸念した韓国当局はチョルを北朝鮮に送還する。資本主義の誘惑を退け、晴れて祖国に帰って来たチョル。しかし、彼を待ち受けていたのはさらに苛酷な運命だった……
Sponsored Link映画を観る前に知っておきたいこと
韓国で唯一、世界三大映画祭すべてで主要賞を獲得した監督キム・ギドク。中でも彼の代表作『嘆きのピエタ』(12)はベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、韓国に初めて三大映画祭での最高賞をもたらした。
ギドクは間違いなく韓国を代表する監督ではあるが、ハリウッド寄りの今の韓国映画界において彼の作品はあまりに異質なものが多い。
ヨーロッパでの評価が物語る通り、この監督に巨匠という呼び名は似合わない。キム・ギドクは鬼才だ。
鬼才キム・ギドク
主人公の台詞の一切を排した『うつせみ』(04)、隠遁生活中の自身の姿を映したドキュメンタリー『アリラン』(11)など、これまで三大映画祭で高く評価された作品の中にも独特な切り口が目立つ。
また彼の作品は常に社会問題に切り込みながら、その性的、あるいは暴力的な描写ゆえ、背徳的とも評される。しかし、実際の彼の作品には常に悲哀やそれに対する救いが用意されてい。
そして、本作は南北の分断をテーマにしたギドクらしい社会派映画である一方、前作『殺されたミンジュ』(14)でも見せた暴力的な描写を抑えている点で新しい。
衝撃的な描写をあえて使うことで観客の心に爪痕を残してきたこれまでの作品に対し、本作は観客がメッセージを自らすくい取るような作品である。観客の関心は、登場人物の肉体的な苦悩ではなく、自然と心の動きに向けられてゆく。
社会主義国である北朝鮮から韓国へとやってきたチョルの目線を通して、経済的繁栄の裏に潜む資本主義の闇を見つめるギドク監督の眼差しは、あくまでも鋭く揺るぎない。そこにあるのはまさしくキム・ギドクの真骨頂、彼はどこまでも社会的弱者が抱える悲哀を映し出す。
作品データ
原題 | 『The Net』 |
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製作国 | 韓国 |
製作年 | 2016年 |
公開日 | 2017年1月7日 |
上映時間 | 112分 |
キャスト
キャスト | リュ・スンボム |
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イ・ウォングン | |
キム・ヨンミン | |
チェ・グィファ | |
イ・ウヌ | |
ソン・ミンソク |
監督・スタッフ
監督 | キム・ギドク |
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脚本 | キム・ギドク |
製作 | キム・ギドク |
撮影 | キム・ギドク |