映画を観る前に知っておきたいこと

【サクラメント 死の楽園】実在したカルト教団「人民寺院」による史上最大の集団自殺

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サクラメント 死の楽園

実在したカルト教団「人民寺院」による史上最大規模の集団自殺をモチーフにしたドキュメンタリー・ホラー。脚本・制作を務めたのは『ホステル』『グリーンインフェルノ』のイーライ・ロス。監督は『V/H/Sシンドローム』のタイ・ウェスト。

全編が「P.O.V.ショット」で撮影され、突き詰めた臨場感がより恐怖を体感させる。観客もカルト教団に潜り込んだような錯覚を起こしながら事件の真相に迫って行く。そこにあるのは「神」による絶対の恐怖!

「FANGORIA」「iHorror」2014年ホラー映画ベスト10。トロント国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭出品作品。

  • 製作:2013年,アメリカ
  • 日本公開:2015年11月28日
  • 上映時間:99分
  • 原題:『The Sacrament』
  • 映倫区分:R15+

予告

あらすじ

ある日、パトリックのもとに奇妙な手紙が届く。それは長らく連絡が途絶えていた妹からだった。

「私は共同体で頑張っているわ。神に導かれるままに。」

それがきっかけで、パトリックは過激な取材スタイルのVICE社のサムとジェイクの3人で、とある共同体に潜入取材を敢行することとなるのだった。サクラメント 死の楽園「エデン・パリッシュ」と名付けられたその共同体では、そこにいるすべての人が幸せそうに暮らしていた。またそこで暮らす妹は「ここで豊かな生活ができるのは“ファーザー”のおかげ」だと話す。サクラメント 死の楽園しかし、一見平和に見えた「エデン・パリッシュ」に、何やら不穏な空気が見え隠れし始めるのだった。中には彼らに救いを求める者も現れ……サクラメント 死の楽園そして彼らは取材を装い、妹を救い出そうとするが……

映画を見る前に知っておきたいこと

カルト教団「人民寺院」と実際の集団自殺

本作のもととなったカルト教団「人民寺院」による集団自殺事件は1978年のことでかなり前のことではあるが、2001年のアメリカ同時多発テロまでアメリカでは一つの事件による死亡者数は最大であった。そしてそこに至るまでにはカルト教団「人民寺院」の恐ろしい実体がある。

創始者はジム・ジョーンズで、これが本作で“ファーザー”と呼ばれる男だ。ジョーンズはもともと「人種差別撤廃」を掲げた活動家であったが、信者の8割以上は黒人などの有色人種で占めていたにもかかわらず、教団幹部は白人のみで構成されていたという実体がある。また共産主義に傾倒しており、それが「ジョーンズタウン」(本作に出てくる「エデン・パリッシュ」)という外の世界と完全に遮断された町を作る動機になっている。この時、社会からバッシングされ出した教団は拠点をサンフランシスコから南アメリカのガイアナに移し、「ジョーンズタウン」はそこに作られた。

しかし「ジョーンズタウン」は楽園ではなかった。ジョーンズらによる信者への暴力事件やレイプや、脱退しようとした信者を監禁したり、信者の子供は無理やり「ジョーンズタウン」に連れて行かれまともな教育を受けさせてもらえないなどの問題が明らかとなった。さらには外部からの侵略に備えた軍事訓練まで行っていた。日本人だったらオウム真理教を思い出してしまう。

そして「人民寺院」を危険視したアメリカ連邦議会は、レオ・ライアン下院議員と信者の家族、マスコミからなる視察団を教団に送り込んだ。そこで教団の実態を次第に目の当たりにした視察団は帰国希望者計16人をアメリカに連れて帰ることにした。しかし、その帰りの空港で事件は起きた。突然、帰国希望者の1人が発砲すると、教団の信者たちが密林からトレーラーで現れ議員らを銃撃した。結果ライアン議員を含む5人が死亡した。

その後、ガイアナ国防軍が「ジョーンズタウン」に向かったが、到着した時にはすでに集団自殺が行われた後だった。信者の約9割となる914人の死体がそこにあった。本作の中でも描かれているようにシアン化合物による自殺であったが、内300人は自殺を強要され殺されたと言われている。実際、誰にも死ぬことは恐ろしいことであり、自殺できなかった者がいるのは当然だと思うが、その300人以外は自らの意思だったかと考えると恐ろしい。

この事件をテーマにした映画はこれまで数本撮られているが、その実体はすべて暴かれたわけではない。それには「人民寺院」が資金力によって多くの政治家と繋がっていたことがある。この事件のすべてを公表することによって失脚する政治家がいるからとされている。そこも含め謎が多い事件である。そういう意味では、まだまだ考察の余地があり、本作ではまた新設が描かれているのではないだろうか。

「P.O.V.ショット」とは

本作の見所の一つである「P.O.V.ショット」とはPoint of View Shotの略で、日本語では「主観ショット」とも言う。その名称の通り、カメラの視線を登場人物の視線に合わせて撮影するカメラワークのことだ。わかり易い例えで言えば『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)がこの手法を用いた走りとなった作品だ。「P.O.V.ショット」で撮影することによって観客もその場にいるような錯覚を起こさせ、より臨場感を誘う。これにより作品は疑似ドキュメンタリー(モキュメンタリー)となる。ホラー映画やパニック映画でよく使われる。制作費が少ない映画が多いにも特徴の一つだ。

ただ「P.O.V.ショット」は、欠点もよく指摘される手法である。臨場感を演出できる反面、何が起こっているのかわかりづらかったり、手振れによる見づらさなど、映画としてのクオリティーを下げてしまうことも多いのだ。しかし、これらの問題を解決すると同時に臨場感もなくなってしまうので、「P.O.V.ショット」とはそういうものであると思って見る他ないのである。事実『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』も興行的な成功とは裏腹にかなり賛否両論を巻き起こした作品である。

中には、『REC/レック』のように撮影者がテレビ局のカメラマンという設定にしたり、「P.O.V.ショット」の欠点の克服にチャレンジした作品もある。好き嫌いの別れる手法だが、掘り下げてみるとそれぞれの作品に欠点を克服するアイデアがあったりしておもしろいのもこのジャンルだ。

-ドキュメンタリー, ホラー, 洋画

執筆者:


  1. 谷下豪志 より:

    イーライロスの脚本らしさが出ていて
    中盤以降、どんどん切迫した状況に陥るのは
    見ていて楽しかったです!

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