映画を観る前に知っておきたいこと

ゼロの未来 哲学的なテーマを扱った近未来SFドラマ

投稿日:2015年4月15日 更新日:

ゼロの未来

『12モンキーズ』『ブラザーズ・グリム』『未来世紀ブラジル』を世に贈りだした名匠、テリー・ギリアム監督の最新作。生きるとは何か、幸せとは何か、愛とは何か、そしてゼロとは― 。誰もが一度は考える永遠に普遍的なテーマをドラマティックに、そしてブラックなユーモアたっぷりに描いた近未来SFドラマ。

  • 製作:2015年,イギリス・ルーマニア・フランス・アメリカ合作
  • 日本公開:2013年5月16日
  • 原題:『The Zero Theorem』
  • 上映時間:107分

予告

あらすじ

教会にこもるまで

近未来の世界。マンコム社という企業がコンピューターで世界を支配していた。そこで働く天才プログラマーのコーエン・レスは、”人生の意味を教えてくれる”電話がかかってくるのを待っていた。

ある日、コーエンは上司のジョビーが開催したパーティにいやいやながら出席することに。そこで前々から面会を求めていたマネージメントにようやく会うことができ、会社に出勤せず、在宅勤務をしたいという要求を出す。その方が仕事が捗るし、電話を逃すリスクを回避することができると考えていたからだ。マネージメントはこの申し出を渋々認め、コーエンは自身が住む荒廃した教会にこもって仕事を始める。
ゼロの未来

謎の女性と謎の少年

コーエンに新たに与えられた任務は「ゼロ」という謎の数式を解読する作業だった。何か月もかけてこの仕事に集中するも、一向に答えは見つからないし、ずっと待っている電話もかかってこない。そんなストレスがピークに達し、彼は仕事で使用している大切なスーパーコンピューターを壊してしまう。

そんな時、以前ジョビーのパーティーで出会ったベインズリーという女性が不意に彼の元を訪れる。明るくて魅力的、優しく彼に理解を示すベインズリーに、人間嫌いだったコーエンは次第に心を開き始める。それからさらに数日後、壊れたコンピューターの修理をしにマネージメントの息子ボブが現れ、「ゼロ」に隠された驚くべき秘密をコーエンに明かす・・・。
ゼロの未来

映画を見る前に知っておきたいこと

いろいろと難しい作品

未来なのか過去なのか分からないむちゃくちゃなデティールの街並み。壮大なスケールに思えてコンパクトに完結しそうな個人ドラマ。リアルなのかデジタルなのか分からない登場人物の不気味さ。作品全体に渡る『ゼロ』の謎。とにかく全てがむちゃくちゃでどう見たら良いのか分からない難しい映画だ。そこがまたギリアムらしいと言えばらしいのだが・・・。

全く新しい世界観と言えば聞こえが良いが、新しいものは大絶賛されるか大ブーイングを受けるかのどちらか極端。そして、この手の映画は特に新しいものでなければウケが悪い。英語圏で一番有名な映画批評サイト「Rotten tomatoes」では現在108のレビューがあり、10点満点中5.2点。賛否両論を呼んでいる。

思うにこの作品の難しさはその壮大なテーマにある。というのも、漠然とした疑問からは、漠然とした答えしか返ってこないのが世の常だ。生きるとは、幸せとは、愛とは、一体何なのか。その秘密がゼロに隠されている―、というのがこの映画の本筋だが、どんなに素晴らしい道中でも結末に満足がいかなければ当然、首をかしげながら映画館を後にすることになる。
ゼロの未来

ハマる人はハマる

映画レビューの中間点は大体の場合、最高点と最低点が一定数いるからそうなっている。”誰もがそれなりに、つまり10点満点中5点くらい楽しめた”ということはないだろう。ゼロの秘密に思索を巡らせて、作中で語られる哲学や風刺と手を取り合える人には、かなり見応えのある作品だと思う。そうでない人には退屈な時間になるかもしれない。

とはいえやはり鬼才と言われたテリー・ギリアムだ。ネームバリューに乗っかるわけではないが、人の評価にはそれなりの理由がある。好きな人は言わずものがな、よく知らない人でも”彼の表現を見に行く”という腹づもりで行けば、得るものもあるし楽しめると思う。
ゼロの未来

-SF, 洋画

執筆者:


  1. PineWood より:

    (ゼロの未来)のゼロの定理の謎の解明は?100%楽しい悪夢のような未来社会はテクノストレスも多くて男は孤独な教会に引き籠る。バーチャルな画像の奥の愛の夢と現実の女性との愛が交錯…。限り無くゼロに向かって禅の境地で無心を究めた時、ゼロの意味を知った!?(自分は何も知らない)と言うことを悟るソクラテスの如く。

  2. Raccoon より:

    全てを失い、或いは手放し、産まれたままの姿を晒したとしても、何も無いはずの「ゼロ」の未来には何故か美しい思い出だけは強く「頭の中に」残っていて、自分自身を変えていく。

    「持たざる者になる」という事が、イコール「無意味な結果を得る」という事ではない。電話を取らずとも、結果として全てを取りこぼしていたとしても、「人生の価値観を変えたい」という彼の望みは叶ったのだから。

    一方で、それを理解したうえでビジネスに利用する者もいるのかも知れない。
    「マンコム。人生の幸福を見つけるセンスを磨きます」という標語。
    全く違う会社が街中で口々に宣伝する「巨額の富があなたの足元に埋まっています」という同じフレーズ。
    リアルタイムで自らのあられもない姿を公開するベインズリーのネットビジネス。山のような監視カメラ。

    ともすれば、それらは全て誰かの手によってマネージメントされているのかも知れない。

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