年老いたイギリス人作曲家が人生を振り返りながらも、前を向きに若さを満たしながら生きる様を描いたヒューマンドラマ。
監督は、映像の魔術師の通り名で呼ばれるイタリアの奇才パオロ・ソレンティーノ。『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』がカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞、続く『グレート・ビューティー 追憶のローマ』ではアカデミー外国語映画賞を受賞するなど、名実共にイタリアを代表する監督になった。
本作も第28回ヨーロッパ映画賞でヨーロッパ作品賞と同監督賞、男優賞の三冠を制し、キャリアに恥じない名作の予感を漂わせる。
主演は俳優人生の酸いも甘いも知り尽くしたイギリスの名優、マイケル・ケイン。この作品でヨーロッパ映画賞では主演男優賞とともに栄誉賞を受賞した。共演のハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズなど、華々しいキャリアを持つ役者が揃った。
人生とはなんて素晴らしいものだろうか。見終わった後、多くの人がそんな感想を抱く映画だ。
- 製作:2016年,イタリア・フランス・スイス・イギリス合作
- 日本公開:2016年4月16日
- 上映時間:2015分
- 原題:『Youth』
- 映倫区分:R15+
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 原題:Youth
- 3.2 極上の音楽と人生賛歌
予告
あらすじ
世界的なイギリスの音楽家であるフレッド(マイケル・ケイン)は80歳を迎え、今では作曲も指揮も引退。親友の映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)とともに未来への希望もなく、アルプスの高級リゾートホテルへやってくる。
ハリウッドスターやセレブが宿泊しているそのホテルで、穏やかな日々を過ごしていたが、そこへエリザベス女王の使者を名乗る男が現れる。フレッドの代表作を女王のために指揮して欲しいという依頼だった。
条件の良い話なのに、なぜか頑なに聞こうとはしないフレッド。その理由は、娘のレナ(レイチェル・ワイズ)にも言えずにいる、妻とのある秘密にあった──。
Sponsored Link
映画を見る前に知っておきたいこと
原題:Youth
若さ、元気、活気などを意味するこのタイトルが付けられた映画の主人公は80歳のおじいちゃんだ。
この物語は人生の最後を飾る「フィナーレ」などではない。歳を重ねても過去を振り返ることなく、若い頃と同じように現実に悩み、さらに先に進むことが出来るということを描いた人生賛歌である。
パオロ・ソレンティーノ監督は、主人公フレッドの人生を最高の形で終わらせたかったわけでは決してないだろう。
歳をとると体は衰え、親しい人の死を経験し、これまで得てきたものへの喪失感から孤独を募らせて顔は下へうつむいてゆく。歳を取ることは悲しいことだと、僕らは無意識のうちに考えがちだが、その後ろ向きな気持ちを吹き飛ばしてくれるのが『Youth』この80歳の作曲家の物語だ。
生きること、それ自体が悲しみであり苦しみであるということを知ってなお、 人が前を向いて生きることができるのを知った。 嘆息も骨の軋む音も、いやそれこそが美しい音楽になるということも。
引用:公式サイト/COMMENT
公式サイトに寄せられた数々の著名人からのコメントの中で、作家・町田康の文章が目を引く。
パンクバンド「腐れおめこ」から「INU」を結成しアルバム「飯食うな!」でデビュー。わずか3ヶ月で解散し、その後も数多のユニット、バンドを作って活動するもうまいこといかず、作家として大成した紆余曲折を経て、どうしようもない社会不適応者を独特のニヒリズムで描いてきた町田康がちょっと前向きで素敵なことを言っている。
個人的には、町田康にこんなふうに言わせているというだけで、『グランドフィナーレ』がどんな映画なのか気になって仕方がない。
おまえらはまったく自分という名の存在に 耐えられなくなるからといって 飯ばかり食いやがって 飯、食うな
飯食うな:町田康
極上の音楽と人生賛歌
この映画を語るときは、必ず音楽について語らなければならない。
「Simple Song #3」がアカデミー主題歌賞にノミネートされた他、ソレンティーノ監督の『グレート・ビューティー 追憶のローマ』に続いてDavid Langの楽曲は幅広く使われている。
USロックのスローコアというジャンルの草分け的な存在であるSun kil moonのMark Kozelekは本人役で演奏を披露している。サウンドトラックには収録されていないが、昨年2015年にはアルバム『benji』でキャリア最高の評価を受け、50歳を間近に油の乗り切った時期を迎えたエピソードもこの映画を少し感慨深く考えさせる。
他にも80年代ニューウェイヴの空気を今風にブラッシュアップしたかのようなThe Retrosettes Sister Bandや、女優とダンスのキャリアを持ち演劇的な独特のライヴパフォーマンスで人気を博すUKポップアーティストのPaloma Faithなど、ジャンルや国を超えて様々なアーティストが『グランド・フィナーレ』の世界観の下に集っている。
映画を見ると必ずサウンドトラックが欲しくなるだろう。むしろ先にサウンドトラックを聞いてから映画を見ても良いぐらい『グランド・フィナーレ』の世界はどうしようもなく音楽と繋がっている。