映画を観る前に知っておきたいこと

ありがとう、トニ・エルドマン
この優しさが世界の心を変える

投稿日:2017年5月23日 更新日:

ありがとう、トニ・エルドマン

愛は不毛じゃない。

はじめまして、トニ・エルドマンと申します。故郷を離れて働くイネスの前に突然現れたのは、別人を装った父だった。苛立つ娘と心配する父。衝突すればするほど二人の距離は縮まり、いつしか温かかったあの頃の父と娘に戻っていく。

『恋愛社会学のススメ』(11)のマーレン・アデが女性監督ならではの視点から、父と娘の微妙な距離感をシリアスかつユーモラスに描き出す。カイエ・デュ・シネマ、スクリーン・インターナショナルなど各国の有力誌がこぞって2016年の映画ベスト1に選出し、あのアカデミー賞常連俳優ジャック・ニコルソンが引退を撤回してまでハリウッド・リメイクを熱望したヨーロッパ版人情コメディ。

悪ふざけが大好きな父ヴィンフリートをペーター・ジモニシェック、キャリア志向の強い娘イネスをザンドラ・ヒュラーが演じ、ヨーロッパ映画賞ではそれぞれ主演男優賞と主演女優賞を受賞。どこかポーカーフェイスな父と娘の本心が、二人の芝居によってじんわりと見えてくる。

予告

あらすじ

音楽教師を引退し、自分と同じく年老いた愛犬ヴィリーと二人で暮らすヴィンフリート(ペーター・ジモニシェック)。悪ふざけが大好きな彼は、真顔でおかしな冗談ばかり言うものだから周囲はいつも苦笑い。そんなある日、ブカレストのコンサルタント会社で働く娘イネス(ザンドラ・ヒュラー)が、離婚した妻の所に帰省する。ヴィンフリートも娘と束の間の再会を果たすが、イネスは仕事の電話をしてばかりで大した会話もできないまま別れることに。

ありがとう、トニ・エルドマン

© Komplizen Film

それから暫くして、ヴィンフリートの愛するヴィリーが庭で静かに息を引き取った。そのことをきっかけに、彼は娘に会うためブカレストを訪れる。父の突然の訪問に驚くイネスだったが、二人はぎくしゃくしながらも何とか数日間を一緒に過ごしていく。しかし、重要な契約を目前に上客との約束を寝過ごしてしまったイネスは、その苛立ちを思わず父にぶつけてしまう。気まずいままドイツに帰る父を見送ることになり、またしても二人の別れ際は寂しいものとなってしまうのだった。

ありがとう、トニ・エルドマン

© Komplizen Film

父がいなくなってから、いつもの仕事中心の生活に戻ったイネス。何とか重要な案件を取りまとめた夜、彼女は友人との女子会で、父に振り回された悲惨な週末の愚痴をこぼしていた。すると、突然背後から彼女たちの会話に割って入ってきた奇妙な長髪のカツラに、もっと奇妙な入れ歯の男。それは、トニ・エルドマンという別人になりすました父だった……

映画を観る前に知っておきたいこと

くだらない冗談を飛ばす父親というのはどこの世界にもいるものなのだろう。監督のマーレン・アデは、架空の人物やとんでもない状況を創造して芝居をする自分の父親を見て、ヴィンフリートとトニ・エルドマンという二重のキャラクターを考えついたという。別人になりすまし娘の生活にズカズカと踏み込んでいく父親。その突飛な行動が親子にとっての非日常だからこそ、この映画からは普段気づかないものが見えてくる。

アデは女性らしい繊細な感受性によって父と娘の心の変化を捉えたかと思えば、要所要所で見せる演出はあまりにも大胆かつ自由。映画の雰囲気に似つかわしくないホイットニー・ヒューストンの「Greatest Love Of All」がこんなにも心に響き、突如現れる巨大な毛むくじゃらの生き物に僕たちは唖然とさせられる。ここにある感動もユーモアも、日本人が声高に反応するものではないかもしれないが、その全てが優しさに満ちている。

そんなアデの眼差しの先には、現在のEU社会が抱える経済格差に喘ぐ人々の苦悩までがある。そして、ヨーロッパの一員としてアデ自身もその問題に出口を見つけられないでいるからこそ、彼女は映画を通して観る者の心にその不条理を問いかける。

ヨーロッパの良心

ありがとう、トニ・エルドマン

© Komplizen Film

映画の舞台となった東欧の国ルーマニアは、石油、石炭、天然ガスなどの資源に恵まれている一方で、国民の平均月収が5万円程度しかないとても貧しい国である。そのため、EUに加盟した2007年から、安い労働力を求めたドイツやフランスなどの多国籍企業が多く参入することとなった。急速なグローバル化は一定の経済成長をもたらしたものの、実際にルーマニアの資源の恩恵を受けているのは採掘権を持つ企業、つまりそれを抱えるEUの豊かな国なのである。

首都ブカレストで経営コンサルタントとして働くイネスは、こうした多国籍企業の合理化を推し進めるため、末端労働者の人員削減をクライアントに提案しなければならない。しかし、仕事に心血を注ぐ彼女にとって、もはやそれは当たり前のこと。イネスが働くビルの眼下には、ボロボロの家に暮らす市井の人々の生活が広がっているが、それを見下ろす彼女の目に一切の憂いはない。

一方、イネスに付き添って石油採掘現場を訪れた父ヴィンフリートは、作業員の一人が解雇を言い渡されるのを見ると、それを必死にかばおうとする。大勢のクビを切ろうとする娘に対し、父はたった一人の解雇問題に躍起になるのである。そう、ヴィンフリートは知っているのだ。その人間らしさこそが、娘が人生の中で失いかけている大切なものだと。

合理化、合理化、合理化……タガの外れた資本主義はその巨大さ故、世界をはっきりと見通すことを困難にし、いつしか一人一人の暮らしや心を簡単に無視できるようにしてしまう。『ありがとう、トニ・エルドマン』は、父と娘の物語に資本主義の現実を重ね合わせることで、そこにある搾取の構図をヨーロッパの良心に優しく問いかける。きっとハリウッドがリメイクしたとしても、こんなに優しさに溢れた映画には仕上がらない。

-コメディ, ヒューマンドラマ
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執筆者:


  1. Lane Garica より:

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