映画を観る前に知っておきたいこと

【バベットの晩餐会】特別に味わい深い極上の食卓を描いた名作

バベットの晩餐会

静かな田舎町で慎ましく暮らす姉妹のもとにやってきた家政婦バベットの一世一代の晩餐会とそれにまつわる人々の人生を追った群像ドラマ。カレン・ブリクセンの同名小説の映像化作品である。

カレン・ブリクセンは英語圏ではイサク・ディーネセンの名前で活動しており、英語とデンマーク語の自己翻訳作家として数々の名作を残したデンマークを代表する女流作家だ。

日本ではあまり知られていないが世界的にはかなりの大物であるため、小説を好む人にとって『バベットの晩餐会』は彼女の作品に触れるよいきっかけになるだろう。

監督は、ガブリエル・アクセル。低迷していたデンマーク映画史に光を刺したデンマーク人映画監督の一人である。第60回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞。2016年、4月9日にデジタルリマスター版でリバイバル公開される。

「食べること」に人生の全てを詰め込んだかのような奥深い味わいに、今日も多くの人が魅了されている名作だ。


    • 製作:1987年,デンマーク
    • 日本公開:1989年2月18日
    • 上映時間:102分
    • 原題:『Babette’s Feast』
    • 原作:短編集一節「バベットの晩餐会」カレン・ブリクセン

予告

あらすじ

19世紀後半、重苦しい雲が暗い影を落とす海の辺の田舎町ユトランドに暮らす美しい姉妹マーチーネとフィリパは、キリスト教の敬虔な牧師である父と貧しいながらも慎ましい生活を送っていた。
バベットの晩餐会美しい姉妹は男たちの憧れであり、姉のマーチーネには地元で謹慎中の若い士官ローレンスが、妹のフィリパには休暇中の著名なフランス人歌手アシール・パパンが、それぞれ想いを寄せていたが、姉妹が彼らの想いに答えることはなかった。

二人は父と共に神に仕える道を選び、独身ののまま静かに年老いていく。
バベットの晩餐会そんな姉妹のもとに、パパンの紹介でメイドが一人やってきた。

バベットと名乗るその女性は、パリで家族を亡くし自身も命も危うくなったため、フランスからこの地へ亡命してきたのだという。
バベットの晩餐会その頃、バベットがやってきたこの村では姉妹の父である牧師が亡くなってから村人の信仰心が陰りを見せ始めていた。その事を憂う姉妹は、父の生誕100年を記念したささやかな晩餐会を催して村人を招待することを思いつく。

そんな折、フランスからバベットに1万フラン(約100万円)の宝くじが当たったという知らせが届く。マーチーネとフィリパはバベットがそのお金でパリへ戻るだろうと考え寂しく思っていたが、バベットは「晩餐会の食事を自分に作らせて欲しい」という意外なお願いを申し出る。

実は彼女はかつて、パリの有名レストラン「カフェ・アングレ」の女性シェフだったのだ。

バベットに晩餐会の準備を一任したまでは良かったが、食材として運び込まれてくる生きたウミガメやウズラがマーチーネの信仰心を怖がらせた。

「何を食べさせられるか分からない・・・。」
バベットの晩餐会天罰を恐れた彼女は、村人たちと相談して晩餐会で出される食事は味わわないこと、食事の話も一切しないことを決めるのだった。


映画を見る前に知っておきたいこと

原作者カレン・ブリクセン/イサク・ディーネセン

カレン・ブリクセン イサク・ディーネセンイサク・ディーネセンは、デンマークの女流作家であるカレン・ブリクセンの男性名、英語名である。彼女は英語で作品を発表するときにこの名前を使った。

自己翻訳の作家なので、英語版とデンマーク語版で邦訳にかなり違いがある。訳者によっては全く違う作品になっていると言われるほど、複雑な事情を持つ作家として知られている。

波乱万丈の人生を生きた作家で、デンマークの軍人の父の元にうまれ、貴族と結婚しするもすぐに夫婦生活は破綻し離婚(夫に移された梅毒は生涯彼女を悩ませた)。その後17年間をアフリカで過ごし、1931年に帰国。48歳にして本格的な作家活動を始めた。

アフリカ生活でのインスピレーションを作品に投影した「アフリカの日々」は、『愛と哀しみの果て』として映画化されアカデミー作品賞を受賞した。

あのJ.D.サリンジャーが敬愛していることでも知られ、『ライ麦畑でつかまえて』の主人公ホールデン・コールフィールドが「図書館員から誤って渡された本が、読んでみたらすごくよかったというのが「アフリカの日々」だ。

2作のみとはいえ、映画化された作品全てがアカデミー最高賞に等しい賞を受賞している稀有な作家である。

日本ではあまり知名度がある作家ではないが、本国デンマークでは50クローネ紙幣に肖像が使われるほど。つまりデンマークでは日本でいう夏目漱石と同列で語られる“知らないとヤバイ”人物ということになる。
50クローネ カレン・ブリクセン
「七つのゴシック物語」、「アフリカの日々」、「運命譚(この短編集の一編が『バベットの晩餐会』)」などが代表作として語られている。
ピサへの道 七つのゴシック物語1 (白水Uブックス 海外小説 永遠の本棚) 夢みる人びと 七つのゴシック物語2 (白水uブックス―海外小説永遠の本棚) アフリカの日々 (ディネーセン・コレクション 1) 運命綺譚 (ちくま文庫)

その中でも短編「バベットの晩餐会」は、短いながらもその奥深い普遍的な人生描写に多くの人が舌鼓を打った名作だ。果たしてどんな映画になっているのだろうか。

特別に味わい深い極上の食卓

バベットの晩餐会1987年のガブリエル・アクセルの『バベットの晩餐会』と1987年のビレ・アウグストの『ペレ』のアカデミー外国語映画賞の連続受賞は、デンマークの映画史に大きな光をもたらした。

特に『バベットの晩餐会』はデンマーク映画史上初のオスカー受賞であり、デンマークの映画が世界的に注目を集めるきっかけとなった映画である。

押しも押されぬグルメ映画の名作『バベットの晩餐会』。「グルメ映画」と言えばまさしくその通り。何の異論もないのだが、巷に溢れる「グルメ○○」とこの映画を同列にして語ることは到底出来ることではない。

バベットは一世一代の大判振舞いで周囲の人たちとの距離をグッと縮め、十分に認められてめでたしめでたし・・・であるはずなのに、なぜかそう思えない不思議な浮遊感が、この物語を特別味わい深いものにしている。

名作映画が持つこの「特別な味わい深さ」は、常に僕らの思考をかき回して新しい世界へと誘ってくれる。

食事を目の前にして誰もが感じたことのある感情“おいしい”とは、いったい何なのか。『バベットの晩餐会』においてそれは“愛”とは何かを問う行為であり、“幸福”とは何かを問う行為であり、あるいは“芸術”とは何かを問う行為でもある。

誰もが自分の人生にそんな問いを立てずにはいられない「極上の食卓を描いた映画」、それが『バベットの晩餐会』である。

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