映画を観る前に知っておきたいこと

【神様なんかくそくらえ】あなた以外は、全部ゴミ

投稿日:2015年11月23日 更新日:

この物語は本作の主演であるアリエル・ホームズの実体験に基づき、アメリカ・インディペンデント映画の新鋭ジョシュア&ベニー・サフディの兄弟監督が、NYマンハッタンのストリートに生きる少女の今、この瞬間を鮮烈に映し出した青春映画だ。

本作で本格的な女優としての道を歩み出したアリエルは、ホームレスとして人生の孤独と絶望を味わい、どん底からここまできた。その当時の本人の実体験に基づいたストーリーであることと、彼女の歩んできた人生とが合わさり、アリエルの演技には見る者を釘付けにする力強さがある。

「あなた以外は、全部ゴミ」という過激なフレーズ通り、この作品に『トレインスポッティング』(1996)のようなポップさはない。ここにあるのはヘロイン中毒の現実と少女の異常な愛情である。それ故このリアルさは今の若者にとって青春映画のアンセムとなるかもしれない。

第27回東京国際映画祭で最高賞にあたる東京グランプリと最優秀監督賞のW受賞作品。

  • 製作:2014年,アメリカ・フランス合作
  • 日本公開:2015年12月26日
  • 上映時間:97分
  • 原題:『Heaven Knows What』
  • 映倫区分:R15+

予告

あらすじ

NYマンハッタンのストリートで刹那的に生きる少女ハーリー(アリエル・ホームズ)は、同じホームレス仲間である恋人イリヤ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)が生きる理由そのものだった。ある日イリヤは、ハーリーに手首を切ることで自分への愛を証明するように求める。するとハーリーはすんなり受け入れ、自分の手首にカミソリを入れる。そんなハーリーの行動も、自分の命を削ってでも求めるヘロインの影響からであった。神様なんかくそくらえ自殺は未遂で終わるも、それ程までに愛したイリヤは何も言わずハーリーの前から姿を消してしまう。ハーリーは精神病院から退院後、友だちのスカリーに「あんな男のどこがいいんだよ?」と忠告されしまう。確かにイリヤは最低の男であった。ハーリーにヘロインを教え、歪んだ愛で束縛し、勝手に姿を消してしまう。それでも、その忠告に苛立つハーリーはスカリーを拒絶するようになってしまう。神様なんかくそくらえそしてハーリーは心の傷を埋められないまま、ドラッグディーラーのマイクと共同生活を始める。しかし、イリヤへの想いを断ち切ることができないハーリーは次第にヘロインに溺れていくのだった……

映画を見る前に知っておきたいこと

ドラッグ文化がないからこそ憧れる世界

本作は「見る人を選ぶ」という評価が多いが、実際はどうなのだろう。暴力的な描写、自傷行為、ノリでのセックスなど苦手な人も多いのはわかるが、それを「見る人を選ぶ」と評価するのは違う気もする。ましてやドラッグ文化のない日本人には理解できないから、このニューヨークの最底辺の生き方はリアルに感じないという感想も聞いたが、それは当たり前だろうと思ってしまう。

僕のイメージでは、逆に日本人はこういう映画は好きだと思っている。現に世界の映画祭ではあまり賞を獲得していないが、東京国際映画祭では最高賞にあたる東京グランプリを受賞している。僕の世代は『トレインスポッティング』(1996)にハマったものだが、ドラッグ文化がないからこそそういう世界に憧れたものだ。『トレインスポッティング』はサントラも当時の日本の若者がハマったイギリスの音楽ばかりで、登場人物も本作に比べれば随分ポップだったので、比べることに少し違和感はあるのだが、どうしょうもない若者の刹那的な生き方という部分では同じである。それに本作には『トレインスポッティング』になかった恋愛要素が強いのも、より引き込まれる要因になるはずだ。「あなた以外は、全部ゴミ」このフレーズは破壊力抜群だろう。

少し歳を食った僕が見るべき映画ではないかもしれないが、今の若い子もこういう作品は好きなのではないかという気がする。確かに東京国際映画祭でグランプリを受賞したから見に行くというだけで見ると酷評に繋がるかもしれないが、こういうリアルな作品の圧倒的なパワーに引き込まれた時は凄まじい威力を発揮するので、刹那的な生き方に憧れる若者にはハマれる作品だと思う。年齢は選ぶかもしれないが、若い頃は皆一様にこの刹那的というやつに憧れるものだと思っている。

アリエル・ホームズの迫真の演技の正体

本作で、2014年セビリヤ・ヨーロッパ映画祭で最優秀女優賞を受賞したアリエル・ホームズの演技は、かなりのインパクトを残したように思う。個人的な受賞はこれのみに止まったが、本作以降話題作の出演が決まっていることや、映画の感想に皆がアリエルの名前を挙げることなど、評価以上に印象には残ったのではないかと思う。

ただアリエルの本作の演技は、演技ではないとも言えるぐらい本人だったのではないだろうか。ハリウッドに生まれた彼女は15歳の時ニューヨークに移り、本作のような波乱に満ちた生活を送っており、その時のことを綴った手記「Mad Love in NewYork City」を執筆している。それらを踏まえると本人が当時の自分を演じているという感覚だったのではないかと考える。それが、彼女の演技の評価に直結したのではないだろうか。

ジョーイ・カーティス監督の『Winters Dream』や、アンドレア・アーノルド監督の『American Honey』に出演が決まっているが、彼女の真価が問われるのはこれからかもしれない。

-洋画, 青春
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