映画を観る前に知っておきたいこと

【ヒロシマ、そしてフクシマ】放射能の恐ろしさを世界で一番識っている男の話

投稿日:2016年2月17日 更新日:

ヒロシマ、そしてフクシマ

1945年の8月6日、広島に原爆が投下されて戦争は終わった。本作は、以来65年に渡って被爆者の診察に従事してきた肥田舜太郎という医師のドキュメンタリーだ。

2012年に公開された『核の傷 肥田舜太郎医師と内部被曝』を撮ったフランス人監督マーク・プティジャンによる二度目の密着。福島原発事故の被災者が暮らす町での活動、沖縄での講演会の様子を取材した。

あれから5年が経とうとしている今、“フクシマ”は日本ではもう過去のことになりつつある。しかし、実際はまだ何も終わってはいない。肥田舜太郎医師は“フクシマ”を既に終わったことにしようとしている体制に警鐘を鳴らす。その言葉には、今の日本に暮らす全員が耳を傾けるべき重みがある。

  • 製作:2015年,日本
  • 日本公開:2015年3月12日
  • 上映時間:80分

予告

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映画を見る前に知っておきたいこと

「ただちに人体に影響はない」

フクシマのあの事故の時の、枝野官房長官の言葉だ。あの事故から5年が経とうとしている今でも、この言葉が忘れられない人は多い。この言葉はさまざまな解釈がなされ、「不安を与える言葉だった」と謝罪する経緯を辿り、「7回しか言っていない」との発言に非難が殺到した。

僕が今でも信じられないのは、あの事件を巡る政府側の発言に何が起きているのかを具体的に言ったものが何もなかったことだ。

風評被害に負けないとか、除染すればうんぬんとか、放射能に負けない体をどうとか、上手に付き合うとかなんとか・・・。これは世間一般に向けられた原発プロパガンダではない。実際に福島に住み、将来への不安とまさに進行中の放射能汚染と戦っている人に向けて放たれた言葉だ。信じられるだろうか?

何も知らない、誰も教えてくれない

何も政府は悪いやつだ!と言いたい訳ではなく、僕がショックを受けたのは「自分は何も知らない」こと、そして「誰も教えてくれない」ということだった。

日本はこの狭い島国で100年にも満たない短い間に、放射能被爆の脅威を3度も経験している。僕も放射能についての教育はそれなりに受けてきたし、興味を持って調べたりもしたが、放射能がどういうものなのか、どんな危険性または可能性があるのか、具体的なことは何も知らないに等しい。

原発について具体的なことを知っている有権者は、ほとんど居ないんじゃないだろうか。さらには原発推進派と反対派は、全くかみ合わない並行線上で“嘘吐きレッテル”の張り合いをしているのが現状だ。

そんな現状を遠巻きに見ていると「真実は誰も教えてくれない、自分で考えなければならない」と強く思う。そして当然だが、国は国民ひとりひとりに原発をもっと知る機会を提供をするべきだと思う。

原発反対に同調してほしいというわけではない。仮に賛成するとしても、真実の土台もなしに票集めを進めれば、不幸な結果を撒き散らすだけなのではないか。煽って踊って少数意見を握りつぶすだけでは、一部の政治家の肩の荷が降りるだけで何の解決にもならないではないか。

ともあれ、これは飽くまで僕の理想の話であり、現実的に可能なのかどうかは分からない。でも、ひとりひとりが放射能の危険性をよく知ることは、反対と推進のどちらに転んでも長い目で見れば必ずプラスになることは間違いない。

報道されない“フクシマ”の2015年

昨年2015年の7月、フクシマの事故で全町避難が実施された浪江町では、約1万5千人の人が慰謝料増額を求めて裁判の手続きを申請していたが、5月末の時点で343人が亡くなっている。

WHOは、浪江町と飯舘村の“計画的避難区域”に暮らしていた住民たちを対象に「福島県でガンが多発する」というリスク評価の報告書を公表したが、環境省が所管する専門家会議は「過大評価の可能性がある」として一蹴。無視し続けている。

海外では、予想よりもはるかに多くの人が癌で亡くなるという趣旨のレポートが東京電力と医療従事者から提出され、「状況は全く好転しておらず、コントロール化にない」として、元常駐スイス大使からIOCに東京オリンピック中止の要望があったというニュースが話題になった。

原発事故「ますます悪化し、コントロール下にない」元大使がIOCに要望

日本では報道すらされなかったが、自国の元大使がオリンピックの中止をICOに訴えたなんて、日本人なら絶対に知らなければならないニュースだ。

裏側で報道が規制されているのか、放射能関連の話題は日本では徐々に興味が薄まりつつある反面、海外では加熱して取り上げられているようだ。当然だ。本当に恐ろしいのはこれからだなんだから。

“フクシマ”の件は、本当なら今で毎日のトップニュースでやっていてもおかしくない。むしろ恒久的に朝の専門ニュース番組作るべきだと思う。

そんな異常事態の渦中にある折に原子力産業界は、「微量の放射線を浴びることは、むしろ健康のために良い」とかワケの分からないことを言いだした。例えそれが真実だとしても、今そんなこと言ってる場合じゃないというのはサルでも分かる。

さて、ここまでずいぶんと偉そうなことを言ってきて恥ずかしくもあるのだけれども、僕もまた“フクシマ”を知らずに過ごしている人間の一人だ。

まぁ知っていたからといって、こうして自分のメディアで胸中を吐露するのが関の山で、特に何ができるわけでもないと思う。仲間内で一時の話題に上って、生活に追われてまた忘れていく。

貴重な時間を使って放射能のことを調べてレポートにまとめて提出して抗議するとか、被災者のためにボランティア活動にいそしむとか、そういう高尚な行動力は持ち合わせていない。

そして何より、ここに書いたこともまた真実であるとは限らない。それでも、知り考えることは大切なことだと思う。この映画は、そんな人のためのドキュメンタリーだ。

放射能の恐ろしさを世界で一番識っている男、肥田舜太郎

肥田舜太郎
『ヒロシマ、そしてフクシマ』は、広島と福島の二つの事件を身近で診察してきた医師の言葉によるドキュメンタリー。戦時中から被爆者の治療に携わってきた肥田舜太郎医師は、おそらく世界で誰よりも放射能の恐ろしさを識る人物だ。

生涯をかけて被爆者と向き合って生きてきた肥田舜太郎医師が何を思い、何を語るのか。彼の言葉は日本の国民全員が聞く価値があるのではないだろうか。そして心に湧き上がってくる何かを噛み砕いて、改めてこの問題について考えてみるには十分すぎる程の重みがある。

それこそ、僕がここに書き連ねる駄文の10000倍の重みがあるだろう。大げさではなく、今の日本に住む人全員にぜひ見てほしいと思う。

「いわゆる放射線被害というものは、どんな形であれ二度とあってはいけない。どんな小さな規模と言って、専門家が安心だと言っても、全くの嘘ですから。放射線というものは人間の手にはおえない。」

– 肥田舜太郎

-3月公開, ドキュメンタリー, 邦画
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