映画を観る前に知っておきたいこと

海賊とよばれた男
日章丸事件に基づいた真実の物語

投稿日:2016年11月11日 更新日:

海賊とよばれた男

全てを失った日本で、
未来を睨み付けた男がいた ──

2015年日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞など計8冠に輝いた『永遠の0』のタッグ、岡田准一主演×山崎 貴監督が帰ってくる。再び、『永遠の0』の原作者・百田尚樹が手がけた400万部超えの大ベストセラー小説を基に、戦後の日本に大きな勇気と希望を与える大事業を成し遂げたひとりの男の実話を映し出す。

明治・大正・昭和の激動の時代、海賊とよばれ恐れられた国岡鐵造は誰よりも日本人の誇りを追求していた……

予告(特報)

あらすじ

1945年終戦直後、まだ主要燃料が石炭だった当時から、石油の将来性を予感していた若き日の国岡鐡造(岡田准一)は、北九州・門司で石油業に乗り出した。しかし、その前には国内の販売業者、欧米の石油会社など、常に様々な壁が立ち塞がり行く手を阻んだ。

海賊とよばれた男

© 2016「海賊とよばれた男」製作委員会

どんな絶望的な状況でも決して諦めない鐡造は、それまでの常識を覆す奇想天外な発想と、型破りの行動力、何よりも自らの部下を大切にするその愛情で、新たな道を切り拓いていった。その鐡造の姿は、敗戦後の日本において、さらなる逆風にさらされても一切変わることはなかった。

海賊とよばれた男

© 2016「海賊とよばれた男」製作委員会

そしてついに、敗戦の悲嘆にくれる日本人に大きな衝撃を与える事件が発生する。石油メジャーから敵視され、圧倒的な包囲網により全ての石油輸入ルートを封鎖された国岡鐡造が、唯一保有する巨大タンカー「日承丸」を、秘密裏にイランに派遣するという狂気の行動に打って出たのだった。

イランの石油を直接輸入すること、それはすなわちイランを牛耳るイギリスを完全に敵に回すこと。しかし、イギリスの圧力により貧困にあえぐイランの現状と自らを重ね合わせた鐡造は、部下の反対を押し切り、石油メジャーとの最大の戦いに臨む……

映画を観る前に知っておきたいこと

原作者の百田尚樹は、政治的な発言(失言)がよく物議を醸す作家だ。南京大虐殺はなかったとする持論や、「米兵が犯したレイプ犯罪よりも、沖縄県全体で沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方が、はるかに率が高い」などの発言は、しばしば批判にさらされる。実に作家らしい物言いではあるが、それらは時折、的を射ていると感じさせることもある。

そんな百田尚樹が、1953年に起こった“日章丸事件”をモチーフに書いた作品が「海賊とよばれた男」である。本作は、実話を基にしたフィクションだが、海賊とよばれた男は実在する。それは主人公・国岡鐵造のモデルとなった出光興産の創業者・出光佐三だ。

実際の日章丸事件

第二次世界大戦で敗戦国となった日本は、イギリスやアメリカなどの連合国による7年間の占領から解放された後も、国を復興させるために欠かせない資源である石油を独自に確保することが困難な状況だった。

一方、イランは第二次世界大戦後に独立したものの、当時世界最大とされていた石油資源はイギリス資本によって支配されていた。1951年、イランは国益を守るため石油の国有化を宣言したが、これに反発したイギリスは中東に軍艦を派遣し、石油買付に来たタンカーの撃沈を国際社会に表明した。これはイランに対するイギリスの事実上の経済制裁である。

イラン国民の貧窮と日本の経済発展の足かせを憂慮した出光興産社長の出光佐三は、この経済制裁に国際法上の正当性はないと判断し、極秘裏に自社のタンカー日章丸をイランに派遣することを決意する。

1953年、当時イギリスと同盟関係にあった日本政府に外交上の不利益を与えないための方策、国内外の法を順守するための議論、国際法上の対策、法の抜け道を利用する形での必要書類作成、実行時の国際世論の行方や各国の動向予測、航海上の危険個所調査など入念な準備を整え、日章丸はイランへと出港した。

日章丸は連合国軍に対する位置報告義務に罰則がないことを利用し、航路を偽装しながらイランのアーバーダーン港へと到着した。この時点で、日章丸事件は国際的にも大きく取り上げられ、日本でも連日報道されていた。

当時、中小企業に過ぎなかった出光興産が市場価格の30%以下で原油を買い付けることに成功し、それは連合国の占領から抜け出したばかりの日本に大きな希望を与えたのだ。

しかしイラン産石油の輸入は、日章丸事件が石油メジャーの結束強化を招いたこともあり、1956年に終了している……

日章丸事件は結果的に継続的な石油資源確保に成功したわけではないが、日本人に誇りを取り戻させたという功績はその後の復興に大きな意味を持った。そしてこの事件は日本だけに止まらず、世界的に石油の自由な貿易が始まる嚆矢となったのだ。

原作や映画はただ史実を伝えるのではなく、よりドラマチックに日本人の精神性を描いている点で、百田尚樹の日章丸事件に対する解釈は的を射ている。

-ヒューマンドラマ, 邦画
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