映画を観る前に知っておきたいこと

未来を花束にして
女性の参政権を求めた“名もなき花”たちの闘い

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未来を花束にして

100年後のあなたへ

1912年、女性の選挙権を要求する平和的な抗議が50年に及んで黙殺されてきたイギリス。WSPU(女性社会政治同盟)のカリスマ的リーダーであるエメリン・パンクハーストは“言葉より行動を”と過激な抗争を呼びかけた。それに呼応するように階級を超えて連帯した女性たちの願いは、やがて大きな流れとなって社会を変えていった。本作は、思想も教養も富もない一人の母親を中心に、そんな女性たちにとって激動の時代を映し出す。

ただ我が子のその手に、希望をつなぎたかった。女性の参政権を求めて立ち上がった“名もなき花”の闘いを、実話ベースに描き出した感動作。

予告

あらすじ

1912年のロンドン。劣悪な環境の洗濯工場で働くモード(キャリー・マリガン)は、同じ職場の夫サニー(ベン・ウィショー)と幼い息子ジョージの3人で暮らしていた。

未来を花束にして

© Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015.

ある日、洗濯物を届ける途中でモードが店のショーウィンドウを覗き込んでいると、いきなりガラスに石が投げ込まれる。モードは、女性参政権運動を展開するWSPU(女性社会政治同盟)の過激な活動を目の当たりにした。そして、それが彼女と“サフラジェット(闘争的女性参政権活動家)”との出会いだった。

同じ頃、女性参政権運動への取り締まりは一層強化されていった。アイルランドでテロ対策に辣腕をふるったスティード警部が赴任し、歴史上初となるカメラによる市民監視システムが導入されることに。無関係だったはずのモードまでターゲットの1人として認識されてしまう。

やがてモードに大きな転機が訪れる。下院の公聴会で、工場での待遇や自身の身の上を証言することになったのだ。この経験は、彼女に初めて”違う生き方を望んでいる自分”を発見させた。しかし、この証言で法律が改正されることはなかった。

未来を花束にして

© Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015.

デモに参加した大勢の女性たちが警官に殴打され、逮捕されていく。そんな彼女たちを励ましたのがWSPUのカリスマ的リーダー、エメリン・パンクハーストの演説だった ──

映画を観る前に知っておきたいこと

現代では女性にも重要なポストが与えられ、政治の場で活躍する姿も珍しくないが、映画の舞台となる1912年は、感情的で気分屋な女性に政治判断は向いていないと当たり前のように考えられていた。女性の参政権がこの時代から認められていれば、もしかすると人類は多くの血を流さずに済む別の未来を選べたかもしれない。

今年、日本では小池百合子東京都知事が前任たちが避けてきたオリンピック予算問題にメスを入れ、果敢にその膿を取り除こうとした。結局、競技会場を移す計画は1つも実行できなかったものの、400億円余りのコスト削減に成功した彼女の功績は大きい。

しかし、本作は時代の変換期に偉業を成した女性ではなく、あくまで“名もなき花”と表現されるその時代に苦しんだ一人の女性にスポットを当てている。女性だけに課せられた低賃金や長時間労働、親権問題など、時代が抱えていた女性蔑視の風潮を弱者の視線から映し出すことで、より感情移入させられる実話ベースの物語となっている。

エメリン・パンクハースト

物語の中心ではなく時代背景の中心となるのが、実在した婦人参政権活動家エメリン・パンクハーストである。

婦人参政権運動の支持者だった夫の死後、パンクハースト夫人は婦人社会政治連合(Women’s Social and Political Union, WSPU)を結成すると、その過激な活動で注目されるようになった。

彼女の活動の中には爆弾テロを含む過激なものもあり、数度の逮捕をともなっている。また、10回に及ぶハンガーストライキを行った。

ハンガーストライキとは飢餓(ハンガー)によるストライキであり、断食することで相手が要求を受け入れなければ餓死に至るという命懸けの抵抗運動だ。マスメディアに時々刻々と様態を報道されるなど、世間の関心を集め大きな成功を収めた例もある。

しかし、パンクハースト夫人のこうした過激なアプローチは、合法的な政治活動で婦人参政権の獲得を目指していた人々からは支持されず、婦人社会政治連合が分裂するきっかけとなってしまった。

暴力に訴えることを称賛すべきではないが、彼女がここまでしなければ時代を変えることはできなかったのだろう。結果的に、エメリン・パンクハーストは1928年に亡くなるまでに、イギリスでの婦人参政権をほぼ達成している。

その後、世界初のニュース雑誌としても知られるアメリカ「タイム」で、彼女は“タイム誌が選ぶ20世紀の100人”に選出され、その功績を称えられた。

-ヒューマンドラマ, 洋画, 社会派
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