映画を観る前に知っておきたいこと

息子のまなざし
ダルデンヌ兄弟による究極の映像表現

人を受け入れることから、
愛が生まれる。

オリヴィエは職業訓練所で少年たちに大工仕事を教えていた。ある日、そこに自分の息子を殺した少年が入所してくる。

ロゼッタ』(99)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が、最も解り合えない者同士を対峙させる。

息子を殺され人生を見失った主人公を演じたオリヴィエ・グルメは、2002年カンヌ国際映画祭での主演男優賞を始め、この年多くの男優賞を獲得した。それほどこの映画で彼の演技は重要だった。


予告

あらすじ

ある日、オリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)が大工仕事を教えている職業訓練所に、フランシス(モルガン・マリンヌ)という少年が入所してきた。木工クラスを希望していたフランシスだったが、オリヴィエに断られ溶接クラスに回されてしまう。

息子のまなざし

しかし、オリヴィエは誰にも悟られぬように訓練所の窓からフランシスを見つめ、時には彼の後をつける。フランシスは5年前にオリヴィエの息子を殺した張本人なのだ。やがてオリヴィエは自分でも分からぬまま、フランシスを木工クラスで受け入れることを決めた。

息子のまなざし

オリヴィエは他の少年たちと同じようにフランシスに大工仕事を教え、何も知らないフランシスは彼を慕うようになっていた。そんな時、オリヴィエは他の生徒より遅れているフランシスを誘い、二人だけで材木を仕入れに行くが……


映画を観る前に知っておきたいこと

この映画には、「人は聖者にならずに最も憎い人間さえも受け入れることができるのか?」という難題に対する明確な答えが用意されていない。それ故、いつも僕たちに一筋の希望を届けてくれたダルデンヌ兄弟の映画の中では異質な作品と言える。

しかし、“ダルデンヌ兄弟が自らの映像表現の限界に挑んだ1本”と言えば、ファンは決して無視できないだろう。

答えのない映画

恐らくこの映画を観た人の殆どがオリヴィエの行動を理解できない。

なぜ彼は息子を殺したフランシスを自分のクラスに迎えたのか?彼はフランシスから一体何を聞き出したいのか?全ての行動の先にあるのは復讐なのか?

そもそも当のオリヴィエ自身もそこを解っていないのだから、僕たちに彼の行動原理が理解できるはずもないのである。

それはこの映画のゴールが、“オリヴィエがフランシスを受け入れられるかどうか”ではないからだ。ダルデンヌ兄弟は、ただ息子を殺された男の慟哭を観る者に共有させることを目的としている。

この映画は、理屈では説明できない感情を映像表現によってどこまで伝えられるかに挑んだ作品だ。

究極の映像表現

息子のまなざし

ダルデンヌ兄弟はまず、オリヴィエの背後、首筋の辺りから追うカメラワークで、観る者の視点とオリヴィエの視点の同化を目指す。そして、ほんの2、3行で事足りてしまうようなストーリーを映画の尺を使い切るほど入念に描写していくのだ。

かつてないほど起伏を失った物語の先で、僕たちは理屈では説明できないオリヴィエの感情を共有したという確かな感触だけを手に入れる。

普通の人間なら、何が起きたとて自分の息子を殺した相手を赦すことはできないだろう。しかし、オリヴィエの感情を共有した者は、何故かフランシスを赦せるかもしれないと感じてしまう。オリヴィエも僕たちも普通の人間なのにだ。

これは決してハリウッドには真似できない一つの映像体験だ。

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