映画を観る前に知っておきたいこと

ロゼッタ
ダルデンヌ兄弟 初期の名作

投稿日:2017年2月15日 更新日:

ロゼッタ

涙じゃなんにも片づかない

理由もなく工場での仕事を奪われた。それでも少女は逞しく美しい。

これまでカンヌ国際映画祭で2度のパルム・ドールを受賞したベルギーの名匠ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が、初めて同賞に輝いた衝撃作。ただ、まっとうな生活を求める少女の怒りと絶望を静かに切り取る。

映画が終わると、とても愛しく思える少女ロゼッタを演じたエミリー・ドゥケンヌは同映画祭で見事主演女優賞に輝いてみせた。

予告

あらすじ

ロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)は、働いていた工場から理由もなく突然解雇を告げられた。キャンプ場のトレーラーハウスで共に暮らす酒浸りの母親は、男と寝ては施しを受ける毎日。そんな母を見捨てることができないロゼッタには、どうしても仕事が必要だった。

ロゼッタ

街へ出たロゼッタは母親が繕い直した古着を売るが大した金にはならず、役所に届け出た休職届も受け取ってもらえない。その帰りにいつも立ち寄るワッフルスタンドで、ロゼッタは新顔の店員リケ(ファブリツィオ・ロンギオーヌ)と出会った。彼は何かとロゼッタに目をかけ良くしてくれるのだった。

ロゼッタ

ある日、ロゼッタは仕事の空きを知らせに来てくれたリケに殴りかかった。トレーラーハウスに住んでいることを知られたくなかったのだ。ようやく仕事にありついたロゼッタだったが、ワッフルスタンドの社長はすぐに自分の息子に仕事を渡してしまい……

映画を観る前に知っておきたいこと

ダルデンヌ兄弟が2005年カンヌ国際映画祭で2度目のパルム・ドールを受賞した『ある子供』の前身とも言える本作だが、そのタッチは更に重たい。それ故、少女ロゼッタの中にダルデンヌ兄弟らしい人間の美しさを発見できなければ、途端に重苦しいだけの映画になってしまうだろう。

しかし、“ロゼッタが何よりも自尊心を大事にする少女”だということに気づけたなら、重苦しさの中に沈むわずかな感動を掬い取ることができる。

美しさの発見

ロゼッタは理不尽に仕事を奪われれば必死になって暴れ、寝床に着くと自分が間違っていないことを確認するように己に語りかける。

少女は誰よりも自分を信じているからこそ、自尊心を失った先に自分が思い描いた未来がないことを分かっている。つまり、ロゼッタにとって、どうしようもない母親を見捨てることはまっとうではないのだ。

そんな誰にも恥じることなく生きようとする少女が現実と対峙した時、自尊心を手放し、そして取り戻そうとする姿がどこまでも人間らしく美しいのである。

あなたは思うに任せぬ現実に直面した時、自分本位になってはいないだろうか?他者を思いやることに疲れてしまったなら、ロゼッタがきっと勇気を与えてくれる。

少女の世界を隔てる境界線

ロゼッタ

映画を観る前に、この作品を読み解くための重要な描写を一つだけ紹介しておきたい。

劇中、ロゼッタが街から母親と暮らすトレーラーハウスへと戻る時、自動車が行き交う道路を越えていく描写が頻繁に挟まれる。これはロゼッタの世界を内と外の二つに分断することで、少女の不安定な精神状態を暗示している。

街は少女にとっての外側であり、社会と交わる現実の世界として描かれる。外側の世界でのロゼッタは、仕事を手に入れるためなら自尊心を手放すことも厭わない。

片や、自堕落な母親が待つトレーラーハウスは少女の自尊心を育んだ精神世界であり、ロゼッタはこの内側の世界では決して自尊心を手放さない。

内と外でロゼッタがみせる行動に決定的な違いを見出すことで、僕たちは初めて本当のロゼッタに出会うことができる。

内側の世界に唯一の友達リケが足を踏み入れた時、少女は内と外の境界線を見失い、真実の感情を呼び起こす。その瞬間のロゼッタの表情は、ただ弱く、ただ愛しい。

-ヒューマンドラマ, 青春
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