映画を観る前に知っておきたいこと

【最愛の子】実際の誘拐事件から生まれた奇跡的な感動作

最愛の子

大切な我が子がある日姿を消し、3年後に見つかったときは誰かの子供になっていた。愛する我が子を、その愛を、親は取り戻すことができるのか?

中国で実際に起きた誘拐事件を基に名匠ピーター・チャンが描く、親が子を思う「至上の愛」、子が親を慕う「無垢な愛」。現代中国が抱える「拡大する経済格差」や「一人っ子政策」という問題に切り込み、国内で大ヒットを記録した。社会現象となった本作は、公開後に誘拐された子供や女性を買うことは重罪とみなす刑法の改正法案に影響を与えた。

第71回ヴェネチア国際映画祭アウトオブコンペティション部門正式出品作品。第39回トロント国際映画祭正式出品作品。


  • 製作:2014年,中国・香港合作
  • 日本公開:2016年1月16日
  • 上映時間:130分
  • 原題:『親愛的 Dearest』

予告

あらすじ

2009年7月18日、中国・深圳。 下町で寂れたネットカフェを経営しているティエンは3歳の息子ポンポンと二人で暮らしていた。週に一度、ポンポンは母親ジュアンと過ごしていた。ある日、近所の子供と遊んでいたポンポンは、母親の車が近くを通り気付き後を追いかけたが、母親の車を見失ってしまう。一人になったポンポンを何者かが連れ去るのだった。最愛の子父親のティエンは夜になっても帰って来ないポンポンの捜索願を出すが、警察は「失踪後24時間は事件として扱えない」として動いてくれなかった。ティエンは自力で捜そうするがポンポンはどこにもいない。そして、警察署で見た防犯カメラの映像には、何者かがポンポンを連れ去る姿が映っていた。母親のジュアンは「息子を返して!」と泣き叫ぶ。

それからティエンとジュアンはなんとか息子を見つけようとインターネットで情報提供を呼びかけ、携帯電話番号を公表する。しかし、寄せられた情報は報奨金目当ての詐欺かいたずらばかりだった。中には脅して金をせびろうとする者までいた。後悔の念と罪の意識に苛まれながら、それでもティエンとジュアンはポンポンを捜し続けた……最愛の子ポンポンがいなくなってから3年あまりが経った2012年の夏のことだった。ティエンのもとに、ポンポンらしき男の子が安徽省にいるという情報が入る。すぐにティエンとジュアンは安徽省の農村までやって来た。そこでついに6歳になったポンポンを見つけるのだった。しかし、誘拐当時3歳だったポンポンは実の両親のことをまったく覚えていなかった。

ポンポンにとっての母親はホンチンという“育ての親”だった。ホンチンは「私が子どもが産めないから、夫がよその女に産ませて3年前に連れてきた」と言った。この時、ホンチンの夫は既に亡くなっていたが、彼女の夫がポンポンを誘拐した犯人だった。事実を初めて知ったホンチンはどうしていいかわからなかった。最愛の子ティエンとジュアンのもとにポンポンが戻ってから半年、ポンポンは今だにホンチンを母親と思い「家に帰りたい」と言った。ティエンとジュアンは必死に我が子の愛情を取り戻そうとしていた。そして、ホンチンもまた、我が子を失った母親として、深圳へと向かうのだった。“生みの親” と“育ての親”の二つの想いが交錯する……


映画の力

本作を紹介する上で言っておかなければならないのが、感動的なドラマである前に社会派映画であるということだ。これは実際に中国の中で起きた悲劇であり、監督のピーター・チャンはそのドキュメンタリーから着想を得ている。中国での大ヒットもそうした身近な社会問題であったこの誘拐事件が人々の関心を集めたからだ。

そして、この誘拐事件はただの誘拐事件ではなく、中国国内の根深い問題を内包している。人口抑制政策である「一人っ子政策」がこの誘拐事件の引き金となっているのだ。人口が爆発的に増加した中国では1979年より「一人っ子政策」を実施し、原則として夫婦1組に子供1人とし、違反した夫婦には罰金が科せられた。これにより、働き手や跡継ぎとなる男児の価値が高く、一人目の子供が女児であった場合養子をとるケースが多い。これにより人身売買が大きな市場となっており、本作で扱われたような誘拐事件が深刻な社会問題となっている。

中国では年間1万人もの子供が行方不明となっている。しかし、この数字は中国政府の発表であり、一説では20万人とも言われている。本作は、こうした根深い問題の切り口となっているのだ。

しかし、こうした問題を中国国内で映画化するのは非常に難しい。問題を明るみに出すことを好まない中国政府により必然的に検閲が厳しくなるのだ。ピーター・チャン監督はこの映画の脚本を書く前に、事前に中国政府に確認を取ったという。しかし、その時もこうしたテーマを扱うことは原則として許されないとされた。最終的な判断は脚本を見て判断すると言われたピーター・チャン監督は、とりあえず脚本を執筆することにした。完成するにつれ、あまりの多くの問題を含んでいるため一度は映画化をあきらめることも考えていた。

結果的に審査はすんなり通ったようだが、このことが中国の閉鎖的な体質に一石を投じることとなった。中国国内で本作が刑法の改正法案のきっかけとなったのだ。これにより子供を買う側にも重い刑罰が科されるようになった。ここまで映画が直接的かつ大きな力を持つことは稀な例だと言える。事件のドキュメンタリーが作られたこと、それをピーター・チャン監督が見て事件とその展開に映画的な感動を感じたこと、中国政府の検閲を通ったことなど、かなり細い隙間を縫って生まれた奇跡的な作品であり、改めて映画の持つ影響力と素晴らしさを感じられる作品である。

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