映画を観る前に知っておきたいこと

ティエリー・トグルドーの憂鬱
中年失業者の憂鬱あるある

投稿日:2017年3月1日 更新日:

ティエリー・トグルドーの憂鬱

まだ、勝負は終わっていない

51歳にして職を奪われたティエリー・トグルドーは、障害者の息子を抱えながら、社会の底辺で新たな職を求めた。

フランスのアカデミー賞とされるセザール賞の常連ステファヌ・ブリゼ監督が、思うに任せぬ現実を堅実に生きようとする中年男の葛藤を映し出す。本国フランスで多くの共感を呼んだ本作は、生粋の社会派ドラマとしては異例となる観客動員数100万人の大ヒットを記録。

フランスを代表する俳優ヴァンサン・ランドンが、主人公ティエリーの内なる憂鬱を感じさせる確かな演技で、カンヌ国際映画祭主演男優賞に輝いた。


予告

あらすじ

エンジニアとして働いてきた中年男ティエリー(ヴァンサン・ランドン)は不当解雇され、無職のままかれこれ1年半が経とうとしていた。ハローワークで紹介されたクレーン操縦士の研修を受け、資格まで取ってはみたものの、一向に仕事は決まらない。9ヶ月後には失業保険も減額され、彼はこのままでは家のローンすら払えなくなる。

ティエリー・トグルドーの憂鬱

© 2015 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

仲間たちと共に不当解雇した会社を提訴しようと考えていたが、もはやティエリーに裁判と職探しを両立する気力はない。そんな彼にとって、障害を抱える息子(マチュー・シャレール)と何一つ不安を漏らさない妻(カリーヌ・ドゥ・ミルベック)の存在が唯一心の拠り所だった。

ティエリー・トグルドーの憂鬱

© 2015 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

ようやく見つけた働き口は、クレーン操縦士の資格など関係ないスーパーの監視員。客の万引きや同僚の不正を見張る仕事に、ティエリーは精神を擦り減らしていく。そんな時、勤続20年のレジ係の女による些細な不正が発覚してしまい……


映画を観る前に知っておきたいこと

フランス人の共感を誘ったのも頷けるほど、ティエリー51歳の抱える憂鬱は日本社会の片隅にも普通に転がっている。功労者をあっさり切り捨てる会社、再就職の難しさ、年配者に対する風当たり、全く価値を見出せない仕事など、まるで中年失業者の憂鬱あるあるのような映画だ。

しかし、ステファヌ・ブリゼ監督はそこで立ち止まらない。ティエリーが抱える最も厳しい現実、障害者の息子を敢えて彼の希望として描くことで、更に深刻に現代社会の不条理を炙り出していく。

いま社会に対して唾を吐きかけたいなら、この映画を観るべきだ。

運命よりも不条理な現代社会

この映画で最も観る者の不安を掻き立てるのが、障害を抱える息子の存在だ。ただでさえ就職活動に精神をすり減らしているティエリーが息子の世話を焼く場面は、映画の序盤から破綻さえ予感させる。

しかし、ティエリーが家事を手伝う些細な日常まで切り取り、家庭の風景を丁寧に積み重ねていくうちに、映画にささやかな暮らしの色が滲み始める。冷酷な社会と対比させるように映し出されていく息子との時間。さしもの苛立ちを隠せないティエリーも、ここでは得意の憂鬱な表情を一切見せないのだ。

ステファヌ・ブリゼ監督は、ティエリーにとって最も厳しい現実を敢えて希望として描くことで、障害者の息子を持つという運命以上に現代社会が不条理であることを表現する。

散々屈辱的な就職活動をさせられた後に、ティエリーがありついたスーパーの監視員という仕事。万引きした客を捕まえて代金が払えなければ警察に通報し、同僚の不正を見つければ首を切られるのを黙って見届けるのみ。情けをかけようものなら、自分が無職に逆戻りだから仕事と割り切るしかない。

こんな弱者が弱者に鞭打つことを強要するような憂鬱極まりない社会こそ、最も忌むべき現実なのだ。

「新聞では二行で終わってしまうような裏側には人々の悲劇が存在している」

ステファヌ・ブリゼ

出典:公式サイト

-社会派
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