映画を観る前に知っておきたいこと

【ティエリー・トグルドーの憂鬱】ケン・ローチを彷彿とさせる名作の予感

ティエリー・トグルドーの憂鬱

本国フランスで生粋の社会派ドラマとしては、観客動員数100万人という異例の大ヒットとなった。

思うに任せぬ現実を生きる一人の男を中心に不条理な現実をシリアスに映し出した本作は、イギリスを代表する社会派監督ケン・ローチを彷彿とさせる。

監督はフランス版アカデミー賞と言われるセザール賞の常連ステファヌ・ブリゼ。主人公ティエリー・トグルドーを演じたフランスを代表する俳優ヴァンサン・ランドンに2015年カンヌ国際映画祭主演男優賞と2016年セザール賞主演男優賞をもたらした。

これは社会に生きるすべての人々の映画だ。

「新聞では二行で終わってしまうような裏側には人々の悲劇が存在している」

ステファヌ・ブリゼ監督

© 公式サイト


  • 製作:2015年,フランス
  • 監督:ステファヌ・ブリゼ
  • 日本公開:2016年8月27日
  • 上映時間:93分
  • 原題:『La loi du marche』

予告

あらすじ

51歳のティエリー・トグルドーは工作機械の操作員として務めていた会社に不当解雇され、職を失ってかれこれ1年半が経とうとしていた。ハローワークで紹介されたクレーン操縦士の研修を受け、資格まで取ったがそれでも仕事はなかった。9ヶ月後には失業保険も減額され、家のローンすら払えなくなる。

ティエリー・トグルドーの憂鬱

©2015 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

「死ねというのか!?」

意味のない研修を勧める職員に対して声を荒げるしかなかった……

苦境に立たされるティエリーには、障害者の高校生の息子がいた。それでも何一つ不安を言わない妻と息子との時間はティエリーにとってかけがえのないものだった。

ティエリー・トグルドーの憂鬱

©2015 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

ティエリーは仲間たちと共に不当解雇した会社を提訴しようと考えていたが、もはや裁判と職探しを両立する気力はなかった。

仲間の元を去ったティエリーは銀行に借り入れ相談をする。そこで唯一の財産であるアパートを売る事を勧められるが、ティエリーは決して首を縦に振らなかった。

就職活動は相変わらず厳しく、面接での対応は年長者のティエリーに対してあまりに敬意がなかった。やっとの思いで得た仕事はスーパーマーケットの監視員だった。ようやく家族の間にも笑い声が生まれ、少しは好転したように思われたが、監視員の仕事はティエリーの精神を削っていく……

ティエリー・トグルドーの憂鬱

©2015 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

ある時、勤続20年のレジ係の女性の割引クーポン券の不正収集が発覚する。彼女はすぐに謝罪したが、会社に解雇される。程なく彼女はスーパーマーケットの店内で自殺してしまう。ティエリー・トグルドーの憂鬱それからまたしばらくして、別のレジ係の女性の不正を見つけてしまったティエリーは、その事実を会社に報告するべきか葛藤するのだった……


映画を見る前に知っておきたいこと

ヴァンサン・ランドン圧巻の演技

本作の見所は何と言っても、ティエリー・トグルドーの憂鬱を見事に演じたヴァンサン・ランドンの演技だろう。それは2015年カンヌ国際映画祭と2016年セザール賞での主演男優賞W受賞という賞レースの結果が既に物語っている。

ただ、カンヌでの受賞とフランス版アカデミー賞と言われるセザール賞では若干その評価も変わってくる。これは幅広い層から支持を集め、誰が見ても圧巻の演技だという証拠だろう。

それは本国フランスでの観客動員数100万人という大ヒットも物語っている。

ヴァンサン・ランドンはコメディから本作のようなシリアスな役までこなすフランスきっての名優の一人だ。

過去には『女と男の危機』(92)と、本作の監督ステファヌ・ブリゼの『母の身終い』(12)で2度セザール賞主演男優賞にノミネートされている。そして、再びステファヌ・ブリゼ監督の作品でついに受賞となったわけだ。

ここまでシリアスな社会派ドラマが大ヒットとなったのは彼の演技に依る功績が大きいはずだ。

ケン・ローチを彷彿とさせる名作の予感

まず本作の予告編を見た瞬間に連想したのがケン・ローチの映画だった。

僕は社会派映画が最も感情移入できる人間だが、とりわけケン・ローチの映画が最も心を掴まれる。案の定、公式サイトでもケン・ローチが引き合いに出されていた。おまけにタルデンヌ兄弟まで。

どちらもシリアスな社会派映画を得意とする監督で、カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを2度も受賞している世界的な巨匠たちだ。

しかし、ケン・ローチタルデンヌ兄弟もここまでの大ヒットを飛ばした事はない。

興行的な成功と映画の面白さが相容れない事はもうわかっているが、ここまでシリアスな社会派映画をヒットさせるのは並ではない。

ただ、日本で公開する劇場が8館しかないというのが思うに任せぬ現実だ。予告編も僕が見た時点では再生回数わずか37回……

「素晴らしい映画と出会える幸運をもっとたくさんの人に」というサイトのコンセプトに懸けて意地でも見てやりたくなった。

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