映画を観る前に知っておきたいこと

【ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲】カンヌ国際映画­祭ある視点グランプリにふさわしい問題作

投稿日:

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲

カンヌ国際映画­祭ある視点グランプリとパルムドッグ賞をダブル受賞し、ハンガリーからの出品作がカンヌに思わぬ衝撃を与えた。序盤は主人公の可愛らしい少女と犬の心温まる物語を予感させるも、中盤以降は想像できない展開に変わりカンヌの会場で世界各国のジャーナリストたちのド肝を抜いた。一言で言ってしまうなら“犬版『猿の惑星』”である。

「雑種犬の飼い主にだけ重税を課す」という特異な設定から紡ぎ出される物語は、 緊迫感に満ちたパニック・スリラーとアーティスティックな社会派映画という二つの側面を合わせ持ち、それを250匹の犬が都市を疾走するスペクタクルを創出した映像世界で映し出すことによって問題作へと姿を変える。しかし問題作であることが現代社会に対する警鐘と弱者に対する作り手の共感をより強くする。


  • 製作:2014年,ハンガリー・ドイツ・スウェーデン合作
  • 日本公開:2015年11月21日
  • 上映時間:119分
  • 原題:『Feher Isten』
  • 映倫区分:PG12

予告

あらすじ

13歳の少女・リリは自分を取り巻く世界のどこにも居場所がないと感じていた。両親は離婚し、学校で所属するオーケストラでは問題児扱いされている。そんなリリの心のよりどころとなっていたのは賢くて素直な飼い犬のハーゲンだけだった。しかし、この国では最近「雑種犬の飼い主に重い税を課す」新たな法律が施行されていた。ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲そんなある日、折り合いの悪い父親のもとに預けられることになったリリ。久しぶりに対面したこの時も、 父親はハーゲンをアパートに連れ込んだことが気に入らなかった。当局からの税金の催促と、リリの反抗的な態度に怒った父親は、高架下にハーゲンを置き去りにしてしまう。「必ず迎えに来るから!」と涙するリリだったが、これが少女と犬の長く壮絶な受難の日々の始まりだった。ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲それからリリの孤独感は増し、必死にハーゲンを捜し続けていた。途方に暮れて犬の保護施設にも訪れるがそれでもハーゲンを見つけることはできなかった。ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲一方当局の執拗な野犬狩りから逃れたハーゲンは、迷い込んだ路地でホームレスに拾われ、野犬ブローカーに売り飛ばされてしまう。安全な場所で穏やかに育ってきたハーゲンにとって、行く手に広がるのは弱肉強食で無秩序な恐ろしい世界だった。そして、行き着いた果ては裏社会の闘犬場。そこでハーゲンは獰猛な野生に目覚めてしまう。ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲やがてハーゲンは、施設で虐げられてきた数百匹の犬の群れを率いて人類への反乱を起こすのだった……


映画を見る前に知っておきたいこと

カンヌ国際映画­祭ある視点グランプリにふさわしい問題作

冒頭の紹介で本作を“犬版『猿の惑星』”と言ったが、それはあくまで作品のイメージを掴んでもらうためにそう表現しただけで、実際はSFよりもっと社会派映画の側面が強い作品である。その証拠にカンヌ国際映画­祭ある視点グランプリは、ただのSF作品ではなかなか受賞できない賞だ。ある視点部門は、あらゆる種類のヴィジョンやスタイルを持つ「独自で特異」な作品を選出するためにあり、本筋のコンペティション部門とは独立した別の部門である。本作は、まさしくある視点部門にふさわしい「独自で特異」な作品である。

「雑種犬の飼い主にだけ重税を課す」という設定が物語の世界を構築しているので、ジャンルを分ければSFになってしまうが、本作に込められたメッセージは間違いなく社会派映画である。現代社会に警鐘を鳴らし、弱者に対する作り手の共感が表されている。

SFと社会派映画の二つの側面を持つ時点である視点部門にふさわしいと思うのだが、それ以上に「独自で特異」な作品と感じるのは、「弱者に対する作り手の共感」という一見優しいメッセージがあまりに強烈に描かれていることだ。250匹の犬が都市を疾走するスペクタクルを創出した映像は弱者を圧倒的な存在にまで昇華させ、見るものに衝撃を与えることで本作を問題作にしている。そして、問題作足り得ればそのメッセージはどんどん強烈になるものだ。またメッセージ性が強くなることで社会派映画の側面もさらに強くなり、より問題作になるという相乗効果を生んでいる。

パルムドッグ賞について

カンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる賞で、その名称はカンヌの最高賞であるパルムドールから名付けられているちょっとほっこりするような賞である。しかしこのパルムドッグ賞、意外と侮れない。始まったのは2001年と割と最近のことだが、受賞した映画は有名どころも多いのだ。アカデミー賞で作品賞をはじめとする5部門を受賞した『アーティスト』(2011)のアギーもパルムドッグを受賞している。ソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』(2006)や、おもしろいところでは『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)のダグはアニメーションなのに受賞している。ちょっとユーモアのある賞なので、こういうのもありなのだろう。

パルムドッグ賞を受賞する映画は話題作も多く、この賞を知っていると映画がよりおもしろくなる。とにかく犬の演技が視界に入ってくる。さすがカンヌという感じのする賞である。

-SF, ミステリー・サスペンス, 洋画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。