夢枕獏原作の全世界で累計100万部を超えるベストセラー小説「神々の山嶺」が、連載開始から20年以上の時を経てついに映画化。これまで国内外で多くの映画化オファーがあったにも関わらず実現することがなかった。それは標高8848メートル、氷点下50度、最大風速50メートル以上というエヴェレストを舞台に描かれたあまりにも壮大なスケールゆえ、映像化不可能とされてきたからだ。
しかし本作では、エヴェレストの標高5200メートル地点で撮影を敢行。キャスト・スタッフは10日間を掛けて高度順応をしながら呼吸すら困難な極限の世界での撮影に挑んだ。物語同様の命懸けとも言える撮影は、ドキュメンタリー作品のような圧倒的な映像と演技を生み出している。
監督は『愛を乞うひと』(1998)の平山秀幸。主演は『永遠の0』(2013)の岡田准一、『テルマエ・ロマエ』(2012)の阿部寛。ヒロインには『そして父になる』(2013)の尾野真千子と日本アカデミー賞受賞経験のある実力派が顔を揃える。
日本映画史上、稀に見る感動のスペクタクル超大作。
- 製作:2016年,日本
- 日本公開:2016年3月12日
- 上映時間:122分
- 原作:小説「神々の山嶺」夢枕獏
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 実際のジョージ・マロリーの謎
- 3.2 柴田錬三郎賞とは?
予告
あらすじ
山岳カメラマン深町はエヴェレスト登頂に失敗し、失意の中カトマンドゥをさまよっていた。そんな時偶然立ち寄った古道具屋で古いカメラを発見する。そのフィルムには、1924年にエヴェレスト山頂付近で行方不明となったイギリスの登山家ジョージ・マロリーが登頂に成功したのか?という登山界の謎を解き明かす可能性が秘められていた。野心家の深町はスクープを期待してフィルムのことを調べようとしたが、カメラを宿泊先のホテルで盗まれてしまう。そして深町は失われたフィルムを追ううちに孤高の天才クライマー・羽生に辿り着く。「山をやらないなら死んだも同じだ」と語り、誰も寄せ付けない羽生に興味を持つ深町は彼の凄絶な生き様にのみ込まれていく。そして、羽生に人生を翻弄されながらも愛し続ける女性・涼子と出会う。
羽生はこれまで誰もなし得ていないエヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑む。標高8848メートル、氷点下50度、最大風速50メートル以上、呼吸さえ困難な極限の世界で垂直の壁が待ち受ける。その挑戦を見届けるため、彼の後を追う深町。
男たちは自然の脅威の前に命をさらしながらも、人類の限界を超えて、ただひたすら “世界最高峰”の頂きを目指す。彼らは生きて帰る事が出来るのか?命を削って進むその先には何があるのか!?
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映画を見る前に知っておきたいこと
実際のジョージ・マロリーの謎
本作はあくまでフィクションであるが、1924年にエヴェレスト山頂付近で行方不明となったイギリスの登山家ジョージ・マロリーが登頂に成功したのか?という実際の登山界の謎に答えを出している。この謎は、人類で初めてエヴェレストを制覇したのが誰なのかという重要な意味を持っているが、今でも真相はわからないままだ。映画を見る上で、実際のマロリーの謎を知っておいてほしい。
公式の記録では、1953年5月29日にイギリス隊のメンバーであったエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイが初登頂に成功したことになっている。しかし、この謎の真相次第ではマロリーが初登頂だったかもしれないのだ。
当時イギリスは北極点到達(1909年)および南極点制覇(1911年)の競争で敗れたため、国の威信をかけて「第3の極地」と言われたエヴェレスト登頂に挑んだ。その遠征隊のメンバーの一人がマロリーだった。3度目のエヴェレスト遠征で山頂付近で行方不明となり、1999年に遺体が発見されている。滑落したことが死因であった。マロリーが標高8460メートル地点まで到達している証拠は見つかっているものの、登頂に成功したという証拠は見つかっていない。逆に言えば、成功していない証拠も見つかっていない。
未だにこの謎が解明されない最大の原因は、劇中にも登場するマロリーのカメラが見つかっていないことだ。山頂に辿り着いているならばこのカメラには何かしらの記録が残っているはずである。こうした実際の謎を絡めていることが本作の見所の一つとなっている。映画ではこの謎にどのような決着をつけているのかは興味をそそられる。
ただ、この謎の真相次第ではエヴェレスト初登頂の歴史が変わると言ったが、「登頂」の定義次第ではそうならない。というのも「登頂」というのは生きて帰ってこそ初めて意味がある行為だと考えられるからだ。確かにその通りかもしれない……
しかし、僕はこうした意見にあえて異議を唱えたい。僕は登山家でも何でもないが、映画の阿部寛演じる孤高の天才クライマー・羽生を見ていると生粋の登山家は、山で死ぬことが本望とすら感じる。羽生の「山をやらないなら死んだも同じだ」というセリフはある意味狂っている。こうした生き様を持つ人間は生きて帰って来なくても「登頂」は「登頂」だと思っていそうだ。
エヴェレスト初登頂というマロリーの栄誉はさておき、こう考えた方が夢があるからこの謎は今なお人の興味をそそるのではないだろうか?
「もし山に登っても、下山中に命を落としたら何もならない。登頂とは登ってまた生きて帰ってくることまでを含むのだ」
エドモンド・ヒラリー
柴田錬三郎賞とは?
原作者の夢枕獏(ゆめまくらばく)は実に多彩な作風を持った作家である。自身を「エロスとバイオレンスとオカルトの作家」と語る通り、密教的要素を散りばめたエログロの伝奇バイオレンスや、ひたすら男たちが肉弾戦を演じる本格格闘小説を得意とする一方、少女向け小説や詩情とユーモアをたたえた大人の童話風の作品まである。
2001年に映画化された『陰陽師』のヒットと安倍晴明ブームはまだ記憶にある人もいるのではないだろうか。原作を手掛けたのが夢枕獏であり、ブームの火付け役であった。かと思えば、「神々の山嶺」のような作品も手掛けている。なんとも説明し難い作家である。
さて、その「神々の山嶺」は第11回柴田錬三郎賞という文学賞を獲得しているが、あまり聞き慣れないかもしれない。その名の通り、柴田錬三郎という作家の功績をたたえ、1988年より集英社主催で始まった賞である。柴田錬三郎は直木賞作家で歴史小説の名手であり、そのジャンルに新風をもたらしたことで重要とされる作家である。こちらは戦国・幕末を扱った作品が多く、剣客ブームの火付け役である。
柴田錬三郎賞の特徴と言えるかわからないが、これまで映像化された作品は多い。テレビドラマ化というパターンもあるが、映画だけでも『機関車先生』(2004)『壬生義士伝』(2003)『横道世之介』(2012)などがあり、中でも『紙の月』(2007)は日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む3冠に輝いたほどの名作であった。
この柴田錬三郎賞は、現代小説、時代小説を問わず、真に広汎な読者を魅了し得る作家と作品というコンセプトであり、エンターテイメント小説が対象となっていることが映画やテレビドラマとの相性が良い理由だと言える。