映画を観る前に知っておきたいこと

灰色の烏
思春期や悩める女性の直感に訴える映画

投稿日:2015年1月21日 更新日:

灰色の烏

カラスは、ひとりで鳴くんだよ。

主演を務めたシンガーソングライター西田エリによる絵本『灰色のからす』を原案に、女性監督・清水 艶が少女と大人の狭間で揺れ動くヒロインと多感な少女たちの繊細な心情を綴った女性のための映画。

男性恐怖症、PTSD、鬱、境界例、パニック障害など現代に潜む様々な病理を抱え、生き方を見失った多くの人たちに、あらゆる束縛から心を解放し、自分らしく生きることを呼びかける。

西田自身が主演し、私立恵比寿中学の小林歌穂、女優の安保彩世らが共演する。

予告

あらすじ

望月珠恵(西田エリ)は母・千恵子(内田春菊)と二人で暮らしていたが、夫に捨てられたことで自分に依存する母親を疎ましく感じていた。珠恵もまた、幼い頃に母の連れ込んだ男に迫られて以来男性不信で、勤務先の社長・沼口(仁科 貴)からの見合い話にも興味が持てなかった。

そんな夏の日、珠恵がリーダーを務めるガールキャンプクラブ“ウェンディクラブ”が、天狗の山にキャンプに行くことになる。珠恵が支度をしていると、自分を捨てて逃げていくと勘違いした母親に罵倒され、彼女は思わず手にした包丁を振り上げてしまった。

灰色の烏

© 2013「灰色の烏」製作委員会

一方、沼口の娘で中学生のマナ(小林歌穂)は、友人の安西シオリ(安保彩世)に誘われ“ウェンディクラブ”の活動に参加することに。彼女たちは珠恵を中心に、小学6年生の宇川ミズキ(うらん)、10歳のもも(市川月奈)を加えた女5人のキャンプに出発する。

灰色の烏

© 2013「灰色の烏」製作委員会

夜の帳が下りるとシオリが天狗の山の伝説を語り始める。昔、この山に住んでいた親孝行の若者は誤って母親を殺してしまって以来、天狗となって心に隙間のある者をさらっていくのだという。そんな逸話のある山で珠恵たちは遭難し、謎の青年・椿(中山龍也)と出会うが……

映画を観る前に知っておきたいこと

この映画の出発点は、2010年に有線を中心に話題を集めた西田エリの楽曲「灰色のカラス」だった。一度聴いたら癖になる電子音と謎めいた歌詞に彩られたこの曲を、彼女自身が絵本に起こした『灰色のからす』が本作の原案となっている。

しかし、絵本が原作とは思えないほどそのタッチは重く、そして登場人物の深層心理を覗き込むような描写の数々は、なかなか意図を汲み取りづらい1本だ。思春期や悩める女性なら直感的にこの映画のメッセージを受け取れるかもしれないが、どうも消化不良だという人は原作の絵本を手に取ってみるといいかもしれない。

絵本『灰色のからす』

2012年に発表された絵本は文章も絵も西田エリ自身によるものであり、この映画の根幹にあるメッセージを要約した作品と言える。

正義、協調、冒険、いじめ、自主性など現代におけるシリアスなテーマを扱いながら、素朴で暖かいタッチと愛らしい登場人物たちによって童話へと上手く昇華されているため、“現代に潜むあらゆる苦難や悩みから心を解放し、自分らしく生きることを呼びかける”という一貫したメッセージは、むしろ原作の絵本から受け取る方が簡単だ。

映画では男性恐怖症、PTSD、鬱、境界例、パニック障害といったより具体的な問題に置き換えられたことで、同じような痛みを知らない者をすんなりとは受け入れてくれない作品となっている。そのため絵本のような曖昧な着地点に対して、直感的に向き合うことができなければ途端に置き去りにされてしまうので注意が必要だ。

-ミステリー・サスペンス
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