アイスランドの辺境のとある村に暮らす、40年間口もきいていない不仲の老兄弟と羊の絆と愛を描いたヒューマンドラマ。“ヒューマニズムとユーモアを交えた独特の切り口”という宣伝文句が気になる映画だ。
監督はグリームル・ハゥコーナルソン。長編は本作で二作目で、卒業制作の短編で既に国際的に名を知られることになったという期待の新鋭監督である。長編二作目にしてカンヌ国際映画祭・ある視点部門のグランプリを受賞した。
- 製作:2015年,アイスランド・デンマーク合作
- 日本公開:2015年12月19日
- 上映時間:93分
- 原題:『Hrutar(Rams)』
- 映倫区分:R15+
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 ある視点部門
- 3.2 アイスランディックシープとアイスランドの人たち
予告
あらすじ
アイスランドの小さな村。人里から遠いこの村で、老兄弟のグミーとキディーは、人生のほぼ全ての時間を羊の世話に費やしてきた。
隣同士に住んでいる彼らの羊は、先祖代々受け継がれて来た由緒正しい純血で、国内随一の優良種とされている。羊の品質を競う大会では、彼らは毎年のように優勝を競い合い、どちらが本流を受け継いだ羊なのかを争っていた。お互いにこの地の生活様式や土地を受け継いでいる一方で、この兄弟は40年間全く口をきかないほど不仲だった。
そんなある日、ギディーの羊が疫病にかかるという事件が起こる。村に暮らす人たちにとって、これは村全体の生活に関わる大問題だった。保健所は、感染の可能性がある地域の動物は全て殺処分することを決定。羊からの収入が生活を支える酪農家にとって、それは死刑を宣告されたも同然。この地を離れざるを得ない者も多くいた。
しかし、グミーとキディーは諦めなかった。グミーは知恵で、キディーはライフル銃で、それぞれの方法でこの窮地を乗り切ろうと奮闘するも、状況は刻一刻と差し迫っていく。
そしていよいよ、兄弟は羊たちを守るため、そして自分自身を守る為に、兄弟は力を合わせざるを得なくなった。40年も口もきかなかった二人だ。そう簡単に協力など出来るはずもないと思われたが、「愛する羊を守る」という共通の思いが二人の絆を再び結びつける。その結びつきは、二人がある重大な秘密を共有することにもなった。
その秘密は、彼らを大胆で無謀な冒険へと駆り立てる―。
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映画を見る前に知っておきたいこと
ある視点部門
たまに見かけるカンヌ国際映画祭の「ある視点部門」。“独特で得意な”視点を持った革新的な作品を評価する為に1978年に導入された部門だ。グランプリが導入されたのは1998年のこと。
本作は2015年度のある視点部門グランプリを受賞している。
しかし、“犬版 猿の惑星”と紹介した昨年のグランプリ『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』や、「狂気は躊躇を知らない」のキャッチコピーが衝撃的だった2012年のグランプリ『父の秘密』など、歴代の受賞作品に比べると、『ひつじ村の兄弟』は少し押しが弱い感じを受ける。
あらすじを読んでも、ある視点部門のグランプリとしては革新的と言えるほどの意外性はない。
雄大な大自然の映像の美しさやアイスランドの生活様式、40年間口も利かなかった老人二人の兄弟愛を軸に展開されるドラマに加え独特の空気感など、これらはもちろん評価されたポイントではあるのだろうが、それだけである視点部門グランプリを受賞できるとはなかなか思えない。
そこで色々調べてみると、これがどうやら決定的な理由は物語の顛末にあるようだ。
ラストはある意味衝撃でしたよ。
ああいう絵で終わる映画は、僕は他に観たことないです。
最初、「ええっ!」と思ったけど、観ているうちに涙が出そうになってしまいました。
公開は12月と少し先ですが、機会があったらぜひぜひ!引用:映画とカレーと藤井
“転”からの“結”に向かうグリームル・ハゥコーナルソン監督の独特のセンスが「ユーモラスな独特の切り口」という一文で謳われているのではないかという気がする。短いながらも味わいのあるレビューだったので、この映画が気になっている人は目を通してみては。
アイスランディックシープとアイスランドの人たち
この映画に登場する羊は、アイスランディックシープと呼ばれる種類。羊毛が好きな人にとっては垂涎の的でもあるらしいこの羊は、「世界で最も古く純粋な品種」だ。
1100年以上前にヴァイキングが持ち込んだそうで、この羊がいなければアイスランドで人間が生きていくことは不可能だったと言われている。
我々日本人にとってはあまり馴染みのない動物だが、その歴史を考えるとアイスランドの人々にとっては命そのものと言っても過言ではないのかもしれない。
アイスランドの人口は約25万人ほどだが、羊の頭数は100万頭を越える。兄弟の「羊を守りたい」という思いは絆であり、愛でもあり、命そのものでもある。
「ひつじ村の兄弟」なんて絵本のタイトルのような邦題だが、アイスランドの人々にとって羊が疫病にかかるということは、そんなポップなタイトルをつけたら怒られるぐらい切迫した状況だ。
日本で言ったら「はい今日から○○区の人たちみんなリストラね」ぐらいの状況なのだ。
そんな状況をユーモラスに語ってしまったというのだから、ある視点部門のグランプリという評価は納得のいくところ。
田舎では絶対に見れないと諦めているが、せめてレンタルはしてほしい気になる一本。
酪農家を続けた四代目の当主と一緒に、この映画を観ました。狂牛病の出た場合の話や、処理の方法など解説を聞きながら観たので、より一層リアルでした。
この物語の最後は、様々な解釈ができます。
お兄さんには、前を向いて生きていってほしいです。
「羊のくれたプレゼントだったな」と思って、前を向いてほしい。
もっと以前から、という後悔では無くて、このハプニング無しにあり得なかった場面だったと。
そして、それを私自身が最も愛した羊がくれたんだと思って生きてほしい。
表面上はどんな関係であったにせよ、常に、お互いの存在に、守り守られてきたことを感じられたら、素晴らしいなと思います。