それでも、あなたを信じたいー
その年の賞レースを席巻した『悪人』(10)のコンビ、原作・吉田修一×監督・李相日が再び送るミステリアスなヒューマンドラマ。
ある殺人事件の犯人が逃亡する中、千葉と東京と沖縄に現れた素性の知れない3人の男。それぞれのドラマを描きながら、他人に対する信用と不信を現代社会に問いかける。愛した人は、殺人犯なのか?
渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野 剛、広瀬すず、宮﨑あおい、妻夫木聡。原作者の意向で実現した豪華キャストは、『悪人』以上の反響を予感させる。
「物語の登場人物には、映画『オーシャンズ11』のようなオールスターキャストを配してほしい。」
原作者 吉田修一
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を観る前に知っておきたいこと
- 3.1 原作・吉田修一×監督・李相日による前作『悪人』とは?
- 3.2 『悪人』との共通点
- 3.3 『悪人』との相違点
予告
あらすじ
ある夏の暑い日、八王子で夫婦殺人事件が起こった。窓は閉め切られ、蒸し風呂状態の現場には、”怒”の血文字が残されていた。犯人は顔を整形し、未だどこかで逃亡を続けている。
警察の指名手配から一年後。千葉と東京と沖縄に、素性の知れない3人の男が現れる……
千葉
3か月前に突然家出をした愛子(宮﨑あおい)が東京で見つかった。彼女は歌舞伎町の風俗店で働いていた。千葉の漁港で働く父・洋平(渡辺 謙)は、愛子を連れて帰った。8年前に妻を亡くしてから、男手一つで育ててきた娘だった。千葉に戻った愛子は、2か月前から漁港で働きはじめた田代(松山ケンイチ)に出会った。
© 2016 映画「怒り」製作委員会
いつしか交際を始めた愛子と田代。二人の幸せを願う洋平であったが、前歴不詳の田代の過去を信用できず苦悩する。
東京
大手通信会社に勤める優馬(妻夫木聡)は、日中は仕事に忙殺され、夜はクラブで出会う男と一夜限りの関係を続けていた。彼には末期がんを患う余命わずかな母がいた。ある日、優馬は新宿で直人(綾野 剛)に出会った。
© 2016 映画「怒り」製作委員会
やがて同居するようになり、互いの関係が深くなっていく二人だったが、直人の日中の不審な行動に優馬は疑いを抱きはじめる。
沖縄
また男と問題を起こした母と、夜逃げ同然で沖縄の離島に移り住んできた高校生の泉(広瀬すず)。ある日、無人島でバックパッカーの田中(森山未來)に遭遇した。
© 2016 映画「怒り」製作委員会
ある事件をきっかけに心を閉ざした泉と彼女を救えなかったことに苦悶する同級生の辰哉。親身に支える田中であったが、無人島で暮らす彼の素性を誰も知らない。
八王子夫婦殺人事件の犯人を追う警察が新たな手配写真を公開した。その顔は、それぞれが出会った3人の男に似ていた。
愛した人は、殺人犯なのか?それでも、信じたいと願う心と信じたくない現実が交差する……
Sponsored Link
映画を観る前に知っておきたいこと
公式サイトでも”吉田修一×李相日のコンビによる最新作”という紹介がされています。実際、前作『悪人』は2010年の邦画を語る上で欠かせないほど高い評価を得ました。本作でも再び近いテーマに挑んでいることから、”吉田修一×李相日のコンビによる最新作”という見方は外せないと思います。
そこで『悪人』との共通点と相違点を見つけながら、最新作『怒り』を紹介していきます。どんな映画かを知るヒントにしてください。
原作・吉田修一×監督・李相日による前作『悪人』とは?
吉田修一×李相日のコンビによる前作『悪人』は、大袈裟ではなくその年の賞レースを席巻した。中でも、2011年日本アカデミー賞での最優秀主演男優賞(妻夫木聡)、最優秀主演女優賞(深津絵里)、最優秀助演男優賞(柄本明)、最優秀助演女優賞(樹木希林)、最優秀音楽賞(久石譲)の5冠は圧巻の一言だ。
衝動的に一人の女性を殺してしまった主人公が別の女性と逃避行する中で後悔の念を募らせていくというストーリーは、人間の本質にある善と悪を同時に映し出した。
最新作『怒り』を知る上で『悪人』は必ず引き合いに出される。
『悪人』受賞歴
- 第34回モントリオール世界映画祭 最優秀女優賞
- 第34回山路ふみ子映画賞 映画賞・新人女優賞
- 第23回日刊スポーツ映画大賞 作品賞・主演男優賞・主演女優賞
- 第35回報知映画賞 作品賞・主演女優賞・助演男優賞
- 第84回キネマ旬報ベスト10 日本映画ベスト・ワン・日本映画監督賞・日本映画脚本賞・助演男優賞
- 第65回毎日映画コンクール 日本映画大賞
- 第53回ブルーリボン賞 主演男優賞
- 第34回日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞・最優秀助演男優賞・最優秀助演女優賞・最優秀音楽賞
『悪人』との共通点
「なぜ、殺したのか。なぜ、愛したのか。」
「ひとつの殺人事件。引き裂かれた家族。誰が本当の“悪人”なのか?」
これは『悪人』のキャッチコピーだが、一人の女性が殺人犯を愛してしまうというストーリーや、人間の善悪という本質に迫るテーマは『怒り』にも見られる。
そして映画のタイトル『怒り』は殺人の動機として、『悪人』で描かれたものと全く同じ感情を意味している。これ以上はネタバレとなってしまうので差し控えるが、テーマが本当に近いところに置かれた作品だということは間違いない。
個人的には、デュオロジー(二部作)と言っても良いのではないかとさえ思う。
『悪人』との相違点
『悪人』との違いを挙げるとするなら、それはりミステリー要素がより強くなっていることだ。『悪人』では人間ドラマに比重が置かれていたが、本作はストーリーでも観客を引き込んでくる。
素性の知れない3人の男の誰が犯人なのか?そこに観客の視線は釘付けになる。
また、3人にそれぞれの結末を用意し、一つは『悪人』と共通するテーマを描きながら、後の二人が辿る結末は新たなテーマとして付け加えられた”信用と不信”を表現している。
群像劇にすることで、主題の幅を広げ、同時に観客の興味を引くことにも成功している。
『悪人』と同じ空気を持ちながら、そこに焼き増しされたという印象は全くない。