『君の名は。』のその先へ
2016年、『君の名は。』で社会現象を巻き起こした新海 誠。公開当初、彼を“ポスト宮崎 駿”と称えたメディアも興行収入238億円突破は予想していなかっただろう。
そのタッチはかつての名匠よりも瑞々しく、ジブリ以上に観客のど真ん中を狙う作家性は、日本のアニメーション映画の新世代を担う存在として、いま世界から最も熱い視線を浴びる。
新海 誠の過去の短編、長編を紹介しながらそのキャリアを追う。
Contents
- 1 新海 誠
- 2
短編作品
- 2.1 『遠い世界』
- 2.2 『彼女と彼女の猫』
- 2.3 『笑顔』
- 2.4 『猫の集会』
- 2.5 『だれかのまなざし』
- 3
劇場公開作品
- 3.1 『ほしのこえ』
- 3.2 『雲のむこう、約束の場所』
- 3.3 『秒速5センチメートル』
- 3.4 『星を追う子ども』
- 3.5 『言の葉の庭』
- 3.6 『君の名は。』
新海 誠
新海 誠の処女作とされるのが1997年に制作したわずか1分30秒の短編アニメーション『遠い世界』であり、2作目の『彼女と彼女の猫 Their standing points』(99)も5分弱の短編である。2000年までの彼は日本ファルコムの社員としてパソコンゲームのオープニングムービーを制作する傍らで自主制作していた。初期の作品に短編が多いのはそのためである。
こうした作家としてのスタートが、大手とは組まず少数精鋭で独自の創作活動を続ける新海監督の現在のスタイルにつながっている。
初のメジャー作品となった『君の名は。』(16)では製作規模も膨らみ、スタジオジブリ作品を手掛けた安藤雅司ら有名なクリエイターも制作に加わるようになったが、監督・脚本・演出・作画・編集など殆どの作業に携わる彼のやり方は相変わらずだ。
一人で作ったとは思えないようなそのクオリティの高さが、初期から熱烈なファンを生み出していった理由である。彼らからすれば、新海 誠の現在地は当然と感じているかもしれない。なぜなら新海監督の代名詞とも言える緻密な風景描写や繊細な言葉選びによる男女の距離感は、初期の作品から一貫して存在しているからだ。
『君の名は。』は新海 誠の最高傑作として一つの到達点のように語られるが、その映像美もストーリーテリングもキャリアを追うごとに洗練されているため、まだその先も予感させる監督である。
Sponsored Link「思春期の困難な時期に、風景の美しさに自分自身を救われ、励まされてきたので、そういう感覚を映画に込められたら、という気持ちはずっと一貫して持っている」
新海 誠
短編作品
1997年に二週間ほどで制作したという新海 誠の処女作『遠い世界』は、まだ新津 誠とクレジットされている初々しさの中にも、彼がその後も描き続ける男女の距離感がすでに表現されている。『彼女と彼女の猫』(00)までの初期2作は彼が日本ファルコム時代に自主制作したものだ。
『笑顔』(03)と『猫の集会』(07)はNHKの「みんなのうた」「アニ*クリ15」で、」それぞれ放送された短編作品である。『だれかのまなざし』(13)は同じ年に制作された長編『言の葉の庭』(13)と同時上映されている。
『遠い世界』
『彼女と彼女の猫』
『笑顔』
『猫の集会』
『だれかのまなざし』
劇場公開作品
劇場公開された作品は短編1本と『君の名は。』を含めた長編5本だ。中でも『秒速5センチメートル』は新海 誠の代表作としてしばしば引き合いに出される作品だ。彼が生み出す映像美は全ての作品に共通しているが、クリエイターとしての進化は後期に目覚しい。『言の葉の庭』なんかは、まさに覚醒前夜といった感じだ。
『ほしのこえ』

© Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
2002年に新海 誠が監督・脚本・演出・作画・美術・編集など殆どの作業を一人で行った約25分の短編フルデジタルアニメーション。
携帯電話のメールをモチーフに、宇宙に旅立った少女と地球に残った少年の遠距離恋愛が描かれる。初の劇場公開作品。
『雲のむこう、約束の場所』

© Makoto Shinkai/ CoMix Wave Films
2004年に公開された初の劇場長編作品。日本が南北に分断され、青森が米軍の統治下に置かれるという、もうひとつの戦後を映し出した青春物語。
前作に続き、監督・脚本・演出・作画・美術・編集を自らが手掛け、国内外で高い評価を受けた。
『秒速5センチメートル』

© Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
2007年制作のこの映画は新海 誠の代表作としても挙げられる。誰もが通り過ぎゆく日常を切り取った切なくも美しいラブストーリーは彼らしい映像美を踏襲しつつも、これまでのSF要素を排除した作品。
一人の少年を軸に、ヒロインとの再会の日を描いた『桜花抄』、別の人物の視点から描く『コスモナウト』、そして彼らの魂のさまよいを切り取った『秒速5センチメートル』という3本の連作アニメーション。
『星を追う子ども』

© Makoto Shinkai/CMMMY
2011年に新海監督が「日本のアニメの伝統的な作り方で完成させてみる」ことを目指したという意欲作。
ヒロインがたどる未知の場所への冒険を通して、この世界の美しさや輝きを描き、ファンタジー要素やアクションシーンなど新たな境地を感じさせた。随所に宮崎駿作品へのオマージュが散りばめられている。
『言の葉の庭』

© Makoto Shinkai/CoMix Wave Films
2013年に12万人以上を動員し、興行収入1億5000万円という過去最大のヒット作となった『君の名は。』の試金石とも言える作品。
現代の東京を舞台に、男子高校生と生きることに不器用な年上の女性の淡い恋の物語を繊細なタッチで映し出す。
『君の名は。』

© 2016「君の名は。」製作委員会
言わずと知れた新海 誠の最高傑作とされる作品。2016年に日本で社会現象となった後も、世界125の国と地域で配給され日本映画の記録を塗り替え続けている。
初のメジャー作品であり、その緻密な風景描写は過去最高のクオリティを誇る。
夢の中で突然入れ替わる少年と少女。千年振りとなる彗星の来訪。ねじれる時間軸の中で恋と奇跡が交差する。